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 夕食の後の片付けはフロストさんが譲ってくれなかったので、今はフロイちゃんと一緒にいる。寝室でベッドに横になっているフロイちゃんに、私が昔話をしてあげる。ただ私が知っているお話は日本が元になっているものか、もしくは世界的に有名な童話だけだ。

 当たり前だけど、この世界には合わないのもあると思う。疑問に思われなければいいんだけど。


「めでたしめでたし」


 桃太郎のお話をそう締めくくる。話し終えてからでなんだけど、桃とか鬼とか、この世界でもあるのかな?

 フロイちゃんは特に疑問に思った様子もないみたいだ。小さく欠伸をして、薄く微笑んだ。


「ありがとう、お姉ちゃん。お姉ちゃんはたくさんお話を知ってるんだね」

「うん。私の故郷のお話だから、分かりにくいのもあったかもしれないけど……」

「だいじょーぶ。ちゃんと分かったよ。……鬼ってオーガのことだよね?」

「た、たぶん……」


 そっか、オーガか。この世界にも似たようなものはいるみたいだけど、鬼はオーガになるみたいだ。ということは、妖怪とかじゃなくて、魔物扱いなのかな。日本では私ですらあまり見ない伝説級の妖怪だったけど、こっちではわりといるのかもしれない。遭遇したくはないけど。


 ちなみに日本では鬼の知り合いがいた。妖怪の多くは人の町を嫌うから、山奥に住んでいると自然と出会う確率が高くなるのだ。誤解されやすいけど、理由なく人間を襲う妖怪は少ないので、その鬼もたまたま私が取り憑いている家の山に来て、山の実りをちょろっと食べてからまた旅立っていった。

 今頃どうしているだろう。知り合ったのはもう三百年ほど前のことだ。いなくなっていてもおかしくないし、まだ在ったとしても、私がこうして異世界にいる以上、もう会うことはないと思う。そう思うと、ちょっとだけ寂しいかもしれない。


「お姉ちゃん?」


 フロイちゃんに呼ばれて、慌てて思考を中断した。会話中に別のことを考えるなんて、とても失礼だ。気をつけないと。


「ごめんね。ちょっと考え事しちゃった。もう日も沈んじゃったし、寝る?」

「んー……。うん。そうする。お姉ちゃんはどうするの?」

「私はもうちょっとお父さんとお話してくるよ」

「そうじゃなくて、どこで寝るの?」


 え? ……あ。考えてなかった。

 いや、うん。言い訳させてほしい。だってここは人様の家だから、私が考えても意味ないと思う。うん。そう。忘れていたわけじゃない。本当に。


「あー……。ちょっと、それも含めて、聞いてくるよ。私は別に毛布さえあればいいんだし」

「じゃあ一緒に寝ようそうしよう決まり! お父さんに言ってくる!」

「え」


 困惑している間にフロイちゃんはベッドから飛び起きるとお父さんがいる部屋に行ってしまった。行動が早すぎる。びっくりした。

 そうこうしている間に、私はフロイちゃんと同じベッドで寝ることになった。




 あとで行くから、とフロイちゃんに言い訳して、今はフロストさんと向かい合って座っている。私たちの目の前にはこの街で作られているお茶。緑茶よりもちょっと苦みが強いけど、悪くはないと思う。


「悪いな。フロイの相手をしてもらって」

「いえいえ。私も楽しいので気にしないでください」


 なんだか申し訳なさそうにしているけど、子供の相手をするのは好きだ。日本でも、子供は霊感が強い子が多いから姿を消しても見られてしまって、大人がいない時だけ遊んであげたりした。ちなみに子供の霊感は大人になるにつれて失われるし、同時に私のことも忘れてしまう。……寂しくないと言えば嘘になる、程度には、寂しい。

 この世界では最初から姿を消していないので気にする問題でもないけど。


「ところで、私は信用に足りました?」

「え? ああ、うん。まあ、買い物に行っている時は見てなかったけど」

「またまた。ずっといましたよね。隊長さんか誰かが買い物に行ってくれたんじゃないんですか?」

「どうしてそれを……」

「ということは、そうなんですね?」

「うぐ……」


 鎌を掛けたように装う。本当は気配から誰かが代わりに買い物に行ったと知ってるんだけど、これなら勘が鋭い程度で誤魔化せる、はずだ。


「いや、まあ……。ごめん」

「謝ることじゃないですよ。不審者っていう自覚はあります」


 フロストさんも、あの場にいた兵士さんも隊長さんも、みんな優しい人ばかりだ。だから、見た目子供の私を街に入れないなんてことはできなかったんだと思う。

 それでも、私が身分証を持っていない不審者であることは変わらないから、警戒しないわけにもいかない。これで私が犯罪とかしたり人を襲ったりしたら、兵士さんたちの責任問題になるしね。


 気配から分かるけど、今もこの家の周囲に兵士さんが三人ほどいるみたいだ。私のせいで寝ずの見張りになるのは申し訳ないと思うけど、私が何もしないと言っても、はいそうですかと信じてもらえるとは思えない。心苦しいけど、頑張って下さい。


「でもとりあえず危険はないと判断したから、気にしないでくれ」

「はい」


 さらっと嘘をつかれてしまった。今も見張りがいるはずだけど。それとも、もしかしてフロストさんには知らされていないのかな? でももし嘘だとしても、気にすることでもない。私だって色々と隠しているんだし。


「さてと、そろそろ休んだらどうだ? フロイも待ってるみたいだし」

「あはは。そうします」


 おやすみなさい、とフロストさんに頭を下げて、寝室へ。もしかするともう寝てるかも、と思ったけれど、フロイちゃんはばっちり目を開けて待っていた。ちょっと怖い。


「お姉ちゃん、早く!」

「うん」


 たった一日ですごく懐かれてしまった。悪い気はしないからいいけど。

 ベッドに潜り込んでフロイちゃんの隣へ。フロイちゃんは嬉しそうに私に抱きついてきた。さすがにちょっと寝にくいと思うんだけど。私も睡眠は必要とならないけど、どうせ休めるなら休みたいとも思う。

 でも。


「えへへ。お姉ちゃんができたみたいで、嬉しい」


 それを聞くと、文句も言えなくなった。何だろうこの子。狙って言ってるの?


「かわいいなあもう!」

「わきゃ」


 そんなフロイちゃんを私も抱きしめて、二人で笑い合ってから目を閉じた。

 この子が、少しでも長く生きられますように。




 深夜。

 みんなが、フロストさんも深く眠るのを待ってから、私はベッドから抜け出した。フロイちゃんの拘束もいつの間にかなくなっていた。フロイちゃんを見ると、規則正しい寝息を立てている。頭を優しく撫でてあげても、特に反応はない。うん。よく眠ってる。


 そっと静かに隣の部屋へ行く。明かりもなくて真っ暗だけど、闇は私たち妖怪の領域だ。当然ながら問題なく見える。静かに静かに、物音を立てないように。ペンダントを取り出して、青い石を握る。

 これを握って、呼ぶんだっけ。そうしたら来てくれるって言ってたけど。


「アーちゃん」


壁|w・)呼び出し。


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ではでは。

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