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狼リバ-ス  作者: SHJ
9/9

エピローグ

「はぁ〜…」

プリムは、いつものBARのカウンターに座りため息をついた。

そのため息は決して大きくついた訳では無いが、それでもマスターの耳に入ったらしく、プリムに話しかけてきた。

「お疲れ様」

手に持っていたクリームソーダをプリムの前に置いた。

あの長い一日だった切り裂き魔事件から3日が経とうとしていた。

あの後、洞窟の前に残った死体の説明やら何やらで城に戻されたりした。狼の死体は、ランドに言われた通りに墓を作った。

城の者達は、聖なる狼なのでミイラにしてご神体にしようと言う者が多かったが、プリムの強い意見とワガママっぷりで、狼達の墓は洞窟の中に3つ並べられた。

これで、いつでもランドが帰ってきてお墓に手を合わせる事が出来る。

それにしても、彼はどこに行ったのだろう…。彼は、切り裂き魔事件を解決し聖なる狼の魂を持った人間と言うことで、町中ではひっそりと噂されている。多分、ランドの姿を見ても多少なりには驚くかもしれないが、それでも皆は受け入れてくれるハズだろう。

彼が、聖なる狼の魂を引き継いだのもあるし、マスターの話にもよると15年間も狼の元で育ったのであるから…。

それにしても、今日はこの店はなかなかの客入りをしていた。まだ、昼過ぎなのだがお客さんが止まらない。

マスターとあと1人─新人だろうか─は、忙しそうに接客を努めていた。

新人の方は、接客に慣れていないのか料理を溢しそうになったり注文を何度も聞きに行ったりしている。それでも、お客さんの方はニコニコと笑って嫌な顔をせずに何度も答えている。

プリムは思った。あの、新人の腰まで伸びた長い髪は飲食業で良いのか?…と。マスターも良く注意しない事だ。

プリムは視線をクリームソーダに戻すとこの騒ぎが終わるまでは、静かにしていようと自分の中で誓う。


ようやく、静かになった店内でお客はプリムだけになった。例の新人は、よほど疲れたのであろう椅子に座り机に顔を埋めぐったりとしていた。

「お疲れ様」

マスターはぐったりとしている新人の机にレモンスカッシュを置いてから、プリムの方へ近づいてくると隣に座った。

「結構、儲かってるじゃん」

プリムはマスターの方に顔を向けた。

「まぁ、これも彼様々って感じだよね」

マスターは笑いながら、まだ机でぐったりとしている新人を指さした。

その意味をプリムは理解できなかった。何で新人様々なのか…

「彼、何かの有名人か何かなの?」

プリムは、新人の方に視線だけ向ける。未だに、ピクリとも動かない。

「ああ!彼は有名人だよ。プリムちゃんも良く知っている人だよ」

マスターはニッコリしながら答えた。

私の知っている有名人…?他国の有名な剣士、長い名前で覚えるのがやっとの他国の領主、城に勤務している騎士団長、ちまたを騒がせている盗賊の兄弟…等々、プリムの頭の中には様々な有名人の顔が浮かび上がるが、一行に彼の顔が浮かび上がってこなかった。

「マスター…彼は誰なのかが分からないんだけど」

「まぁ、いずれ分かるよ」

そう言うと、席を立ちカウンターの中へと戻っていった。しかし、それで済む訳は無かった。

プリムは席を立つと、ツカツカと新人が座っている席に近づいた。

プリムが近づいても、よほど疲れているのかぐったりとしていて何も反応を示そうとしなかった。

無視されるのが嫌いな彼女は、彼が顔を埋めている机を思いっきり叩いた。

バンッ!

そのデかい音と机の振動で新人は、ぱっと顔を上げた。

そしてしばし沈黙…。

確かに見覚えがある人間。言われてみればそうだ、確かに彼は有名人。聖なる狼の魂を持つ人間…

「ランド?」

プリムは声を出して彼の名前を呼んだ。3日前に姿を消してから音沙汰が無かった。むしろ連絡なんかしてくるハズが無いが…。

ランドはまだ少しボーっとしていた。よほど疲れたのだろう…仕事もそうだが、人間と話す事にも慣れていない。

「何でこんな所に居るの?」

ランドはマスターに説明を宜しくと言わんばかりの視線を投げた。マスターはランドの視線に気づき近づいて来た。

「ランドはね、家族を失い住む場所が無くなったからここに住ませて欲しいって頼み込んで来たんだよ」

プリムは考え込んだ。もしかしたら、ランドが言った言葉

『もうここには居られない』

と言うのは、この国に居られないと言う訳では無くて、この場所に居られないと言う意味だったのか…プリムの体から力が抜けた。

「それで、人も欲しかったし人間の町で暮らすにはお金も必要だろうから、仕事も頼んだんだよ」

マスターは何も問題無しと言った風に笑った。

「でも、ランドって話をするのが苦手じゃ無いの?」

「確かに話をするのは苦手だし、接客態度も悪いんだけど、この町の人達はランドが聖なる狼に育てられた人間て言うことは皆知ってるから別に問題無いだろ」

そういう問題か?それでもプリムは無理に納得をした。

「さぁ、彼も疲れてるから今日はもうほっといてあげよう」

マスターの言葉にプリムは頷いた。当の本人は、しばらくぼーっとしていたが、また机に顔を伏せた。

1晩で家族を奪われ、何も分からないまま人間の町に住むことになったランド。

プリムは何も言わずに店を後にした。

今日も外は良い天気だった。

また、これでお話は終わります。また機会があったら、最終話の続きでも書いてみようかなと思ったりしてます。ご愛読ありがとうございました。

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