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狼リバ-ス  作者: SHJ
8/9

第8話:魂

暗く意識が薄れていく…自分の心臓の音が段々消えていくのを感じていた。

『もう…終りなのか…くそっ!俺がもっと強ければ!くそっ!』

目の前が暗闇に覆われていく…

『力が欲しい…アイツを倒す力が!』

ランドは口を噛み締めた。目の前で、家族を殺され何も出来ない自分に歯がゆかった。

その時…何か暖かい物が体を覆った。ランドは、消え行く意識の中で目を開けた。体が、母の優しい青い光がランドの体を覆っていた。

『これは…母さんの光?』

ランドは力を振り絞り、その光を手で触れる。すると、頭の中にクルシスの声が微かに響いた。

『ランド…私達、聖なる狼は人間に情を移す事は無かった…けれど、アナタだけは違った。アナタと過ごせた15年間は楽しかった…ありがとう』

『捨てられた俺を拾ってくれて育ててくれて、礼を言うならこっちだよ』

『ありがとうランド…だから、アナタは生きて欲しい。私と父さんと兄さんの仇をとって欲しい!』

『もう…無理だよ。それに力が無いから…』

『そんな事は無いわ。アナタは気づいて無いだけ。情を移した生物は命枯れる時…魂を受け渡す』



プリムは絶望していた。護衛役だった騎士達を殺され、聖なる狼達も殺された。そしてランドも…

プリムは、腰が抜けて立てないが、そのまま後退りをしながらその辺にあるものを片っ端から投げ始めた。

「うひゃひゃひゃひゃ…久々に女の肉が食えるぜ!しかも、一国の王女とはなっ」

ガライは、投げられて来た物をひょいひょい交しながらプリムに近づいて行く。

「俺は、その恐怖と絶望に満ちた顔を見るのが好きなんだよ」

ついに、プリムは木を背後にして行き場を無くしてしまった。

ガライは、どんどんと近づいてくる。プリムは恐怖のあまりか目を閉じた。

「嫌!嫌ぁぁぁ!助けて!誰か…助けて!!」

ガライの動きが止まった。周りの木々がざわめきだした。

プリムは、気配を感じて目を開けた。ガライの動きは止まっている─と言うよりも何かに驚いた表情をしていた。

ガライの後ろで何かが動いている。金色の何かが…

プリムは目を凝らして、その何かを見てみると、ランドの髪が見えた。しかし、ランドは金色に輝いて見えた。

ガライも振り返ると、目の前には金色の狼が立っていた。

目は赤く光り、尻尾は茶色で体は金色。頭からは、腰まで伸びたボサボサの髪の毛。

「な…まさか、魂を宿しやがったのか」

「ああ…、父さんと母さんと兄さんの魂を俺に…」

その狼人間は、ランドであった。ランドは、殺気をガライに向けた。父を越える殺気に、ガライは後退りをする。

「ちっ!まぁいいさ、魂を宿したからって俺に敵う訳は無いからな!」

ガライは、一気にランドとの距離を縮めると鎌を振り下ろした。

しかし、鎌は空を切り地面に突き刺さる。ランドは、その場からプリムの方へ移動していた。

「な…に!」

急いで地面から鎌を引き抜くと、ランドの方に振り返った。

ランドは座り込みプリムの顔を見た。

「大丈夫か?」

プリムは、声を出さずに頷いた。ランドは、確認すると立ち上がりガライに向いた。

「素早しっこい奴だぜ!この犬野郎が!」

羽根を広げてランドに突進をしていく。

「死ね!」

両方の鎌を横にしてハサミの様にランドの体を切ろうと振る。しかし、またランドの姿が消えた。

「ちっ!クソが!」

ガライは振り返ると、後ろにランドは立っていた。手には、鎌を持って…

「……っ!」

ガライは声にならない声をあげると、両手を見た。しかし、そこにあるはずの両手は無かった。

「何だと…!あの一瞬で!」

ガライは、両手を再生し始めた。だが…

「もう良いよ…もう」

ランドはガライの距離を縮めると、残影を残して通りすぎる。

やっと、両手を再生しガライは振り返る。

「何が良いんだ?諦めたのか?」

ランドの目は青く光っていた。優しい目つきで、ガライを見ていた。

「何だその目は!俺にそんな目を向けるな!俺が…なっ!」

ガライの体に無数の線が入っていき血を噴き出した。

「もう…終わりにしよう」

ランドは後ろを向いた。その瞬間に、ガライの体は切り刻まれた。

プリムは何が起こったのか分からなかった。嘘の様な現実の話…。

森の中から声が聞こえてきた。プリムが用心の為に、呼んでおいた騎士達。ランドもその声に気づいた様だった。

「もう…ここには居られないな」

ランドは呟いた。

「だ…大丈夫よ!アレは私の部下だから!」

プリムは立ち上がりながら答えた。

「プリムが良くても、今の俺の姿とこの現状を見たら何と思われるだろう」

プリムに返す言葉は無かった。バラバラになった死体と頭の無い騎士達の姿。

「なぁ、1つ頼まれてくれないか?俺の家族の墓を作って欲しい」

「それで、あなた…ランドはどうするの?」

「ここには居られない…別の住みかに行ってくるよ」

声が段々と近づいてくる。ランドは、そう答えると姿を消した。

「ランド…」

プリムは呟くと、森の中から聞こえる声に返事をした。

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