第7話:絆
「ふぁ〜ぁぁぁ…」
ランドとロクサスは同時に欠伸をした。
彼らは、茂みの中でもう何時間も息を殺し潜んでいた。
ゴブリン達の姿はまだ見えない。隣でロクサスは、丸くなって寝てしまった。
直に、空は暗くなり辺りは静かになってくる。
ロクサスは何か気配を感じたのか、急に顔を上げた。
「ランド…来たぞゴブリンだ!」
ロクサスの声が頭の中に入ってきた。
「それと、お前は絶対に声を出すな!奴らは耳が良い!お前の声が聞こえた瞬間にアイツらは逃げていくぞ」
ランドは無言で頷いた。
湖の畔に最初に来たのは、黒いゴブリンが数匹…そのゴブリンは薪を持っていて、何やら薪を組みだした。今日のメインイベントのキャンプファイアらしい。
その数分後には、白や赤や紫…緑、黄と様々な色のゴブリンが集まりだす。
「旨そうな奴らが一杯いるな!よし、そろそろ近付くぞ!」
ロクサスは身を低くして茂みの間を縫うように歩いて行く。
その後をランドも同じように歩いて行く。
ゴブリンは、組んだ薪に火を着けると辺りはバァーと明るくなった。
湖の畔に何百匹と言うゴブリンの数。
「ランド!3・2・1で飛び出すぞ!」
ランドは頷いた。ロクサスの位置からではランドの顔を見ることは出来ないが、それでもランドは頷ずく。
ロクサスのカウントダウンが始まった。
「3…2…1…」
辺りに緊張がほと走る。
「Go!」
ゴブリンの大群にロクサスが突っ込んで行く。ゴブリン達は、一斉に散々になって逃げ出した。
ランドは逃げるゴブリン達を捕まえては、喉に噛みつき息の根を止めていく。
ロクサスはそのまま鋭い牙でゴブリン達に噛みつき動きを止めていく。
「スゲー!大量に取れるぞ!」
ロクサスの叫びが頭の中でガンガン響く。
数分後には、辺りは落ち着きロクサスの傍らには大量のゴブリンの死体が落ちていた。ランドは、4匹くらいしか仕留める事は出来なかったが、獲物を抱えるとロクサスの元へと走って行った。
「ランド!どうだこの数!」
ロクサスは自慢気にゴブリンの山に顔を向けた。
「おぉー!兄さんはスゴいなぁ!」
ランドはその宝の山に心を奪われた。これだけ食糧があれば、何ヵ月も過ごせるかもしれない。
「スゴいなぁ兄さんは…どうやったらこんなに取れるの?」
そんなランドの質問にロクサスは口を開けた。
「この牙さえあれば…」
ロクサスの言葉はそこで止まった。
ランドの視界はゆっくりとスローモーションの様に流れる。
何か弾ける音が聞こえた…その瞬間に、ロクサスは血まみれになりその場に倒れていった。
ランドには理解が出来なかった。
何故?どうして?兄さんは急に怪我をしたのだろう…。
ランド達から少し離れた場所から人間達が出てきた。その中には、昨日の人間の女も居た。
1人の人間が持っている黒い長い棒の上から煙が出ている。
「ちょっと!何でランドがこんな所に居るのよ!危ないから早く家に帰りなって」
女は叫ぶ。その隣で、黒い棒を持った男が倒れたロクサスに向かって棒を構えた。
あれが、兄さんを…
そう感じたのも束の間、また乾いた音が辺りに響いた。
パンッ!
ロクサスの体がビクッと動き、更にまた血を吹き出す。
「兄さん?…兄さん!」
ランドはやっと我を取り戻しロクサスの元へと駆け寄った。
「兄さん!兄さん!今、母さんの所に連れていくからっ!だから、死なないで兄さん!」
ランドは必死にロクサスの傷を手で押さえる。しかし、ドンドンと血は溢れていく。
「ラ…ンド…逃げろ!」
ロクサスは辛うじて立ち上がると、ガライ達の方を睨んだ。口からは大量の血が流れており、立っているのもやっとの状態だった。
「兄さん!俺が戦うよ!だから、兄さんは早く逃げて!」
ランドはガライ達に向かい歯を見せる。狼特有の威嚇の構え
「素晴らしい!素晴らしいよ君達の兄弟愛は!」
腰に剣を差した剣士が前に出てきた。
「素晴らしすぎてヘドが出ちゃうよ!」
一瞬の出来事だった。剣士は素早い動きで剣を抜くとランドを切りつけた。
「ちょっ…!ガライさん!一般人に手を出すなんて!」
プリムはガライに向かって叫んだ。
「一般人?彼が?彼は、切り裂き魔の共犯だぜ?殺して良い奴だぜ?」
ガライは笑って答えた。その笑顔は、人間の物とも思えない殺意が感じられた。
「ラ…ン…ド!」
ロクサスはランドの方に顔を向けたが、その行為がアダとなった。
「敵から視線を外すとはな!」
一閃!
ロクサスの体が宙を舞った。ガライの剣が、ロクサスをなぎ払う。
ロクサスは地面に倒れると動かなくなった。最後にランドの頭に声が入ってきた。
「逃げろ!」と…
ランドは致命傷にはなっておらず、それでも傷は深かったけれども身を翻し茂みに向かい走って行く。
「オイッ!アイツを撃て!」
ガライは銃を持った騎士に命令をした。…が、騎士は一般人は撃てないと拒否をした。
「貴様!俺に歯向かうのかっ!」
ガライの剣が鎧を突き破り騎士の心臓につきたてられた。もはや、人間技では無い。
倒れ行く騎士の手から銃を奪うとランドに向けて何発か発砲した。
弾は、あさっての方角へと飛んで行くが1発だけランドの足に当たる。
ランドは倒れそうになったが、踏みとどまり茂みの奥へと逃げていく。
「アイツを追うぞ!」
ガライはプリム達に叫ぶ。そんなガライの顔は、あの優しかったガライの顔では無かった。狂気にまとわりつかれた、鬼の様な形相…
騎士達やプリムは戸惑っていた。今、この剣士は仲間を1人殺した。付いていって良いのか…もしかしたら、この男はランドも殺すかも知れない…嫌、もしかしなくてもこの男はランドを殺すだろう。プリムは騎士達を見た。騎士達は、そんなプリムの意中を感じたのか小さく頷いた。
ガライがランドを殺そうとしたら、それだけは止めさせよう!そう思い、ガライの後を付いていく。
「出てこい!出てこいよ!クソ犬っころ!」
ガライは剣を振りながら、茂みを切り裂き前を歩いて行く。
「見つけたぁぞぉ!アイツの血の跡だ!」
ランドの血の跡は、どんどん森の奥へと続いている。
「聖なる狼…早く切り裂きたいなぁ…」
プリムは違和感を覚えた。私達は、狼を切り裂き魔の犯人として討伐に来た。しかし、ガライは狼を"切り裂きたい"と言った。普通の人間は、そんな事を言わない。プリムは頭の中で、1つの不信感を抱いていた。
何かがおかしい…しかし、それは予測であって確定では無い。彼は気が動転しているのであろう。町に来ていた少年が、まさか狼の──切り裂き魔の共犯者だったのだから。
「はぁはぁはぁ…」
ランドは、身体中に走る痛みを堪えて母が居る洞窟まで走っていた。
時々、痛みで気を失いそうになった。それでも、気を保ち洞窟へと走った。森の木々達が、ランドの行く手を塞ぐが今は気にしている場合では無い。
兄が人間に殺された。そして、自分も殺されるだろう…。
しばらく走ると、洞窟が見えてきた。洞窟の周りは木々は無く月明かりが洞窟を照らしている。
ランドは逃げ込むように洞窟の中へと転がり込んだ。外からの光で、洞窟の中は夜でも明るかった。
「ランド!どうしたの!?」
全身血まみれで、転がり込んできた息子に母は驚く。
「母さん……兄さんが、人間に!俺を助ける様に、兄さんが守ってくれて…」
ランドは、全身に力を込めて話だした。それくらいしないと声が出ないほど、ランドは体力を奪われていた。
「ロクサスが…!?」
クルシスは、その場に座り込んだ。
「ごめんなさい母さん…俺、兄さんを置いて逃げて来ちゃった…」
ランドの目から涙が溢れ出す。そんなランドに、クルシスは首を横に振った。
「良いのよ…ランドを責める訳は無いわ。ロクサスは、弟を守ったのよ。今、傷を癒すから待ってて」
ランドの体を、青い優しい光がつつみこむ。ランドは母の顔を見た。クルシスの目は青く光り、真っ直ぐにランドを見つめていた。
ランドの傷が、癒されていく。痛みは多少残るが、クルシスの力で傷は完全に塞がっていく。
「見つけたよぉ犬っころちゃん!」
突如、人間の声がした。クルシスは、治癒を一旦止めてから洞窟の外を見た。
血で染められた剣を持った人間が、洞窟の外からこちらを見ていた。
「金色の狼…聖なる狼!切り刻んで、金色の毛並を赤で染めてやるよ!」
ガライは、剣を構えてクルシスに襲いかかる。
クルシスは、ランドをくわえると、ひらりとガライの脇を抜けて洞窟の外へと踊り出る。
「お前ら!撃つんじゃねーぞ!コイツは、俺の獲物だからなっ!」
ガライは、表で待機していたプリム達に向かって叫んだ。
クルシスは、ランドを離すと茂みに隠れているようにと促した。ランドの体は完全に治癒はしていなかったけれども、足の傷は治っていたので急いで茂みの中に入っていった。
「そのガキを撃て!そいつは殺しても構わない!」
クルシスの視線はガライから、外で待機していたプリム達に向けられた。
しかし、プリム達は銃を構えようともしていない。
「何をしているっ!早く奴を殺せっ!」
ガライは再度プリム達に向かって叫ぶ。それでも、騎士3人とプリムは動かなかった。
「ちっ!使えない人間共が!」
ガライは、吐き捨てる様に言葉をだすと、クルシスの方に振り向き剣を構えた。
「へっへっへっ…聖なる狼!お前の魂を頂くぜ!」
ガライは地を蹴ると真っ直ぐにクルシスに向かって走っていく。
クルシスは、ガライの剣をぎりぎりまで引きつけてから横に避けると鋭い牙でガライを噛みつこうと口を開けた。ガライは慣れたように半歩後ろへ下がり、腰から2本目の剣を抜きながら切り上げる。
そんな突差の出来事にも、クルシスは落ち着き剣を避けるガライの足に噛みついた。
足さえ止めれば後はどうにでもなる…しかし、クルシスの考えは裏目に出てしまった。
クルシスの牙が、ガライの足に突き刺さる!…が、噛んだ時に肉に食い込む感触が無かった。
「背中ががら空きだぜ!」
ガライは、手の中で剣をひっくり返すとクルシスの背中に突き刺した。
背中から腹にかけて激痛が走る。
クルシスの体に激痛が走り、ガライの足から牙を離した。ガライは、剣を引っこ抜くとクルシスの顎を蹴り飛ばす。その衝撃でクルシスの体は持ち上がり、2本足で立つ様な姿になった。
その隙にガライは両手の剣を合わせて振り下ろす。クルシスの毛並はガライの言葉通りに赤く染まりクルシスはその場に倒れた。
「母さん!!」
茂みの中で母の戦いを見ていたランドは、倒れたクルシスに駆け寄った。
「母さん!母さん!!」
最初の一撃で心臓を貫かれていたのであろう…クルシスは霞む視界の中でランドの姿を見ると、静かに目を閉じていった。
「うひゃひゃひゃひゃ!聖なる狼を2匹殺してやったぜ!そして、3匹目だ!」
ガライは、ランドに向けて剣を振り下ろす。ランドは避けきれないと目を瞑った。…が、その時
パンッ!
乾いた音が聞こえた。
ランドは目を開けガライの方へと視線を向けた。
ガライは手を押さえている。ガライの剣は、地面に突き刺さっていた。
「お前ら!何をしやがる!」
ガライは、プリム達の方を見た。騎士の1人は、ガライに向けて銃口を向けていた。残りの2人は、剣を構えている。
「何をするって言うのはコッチの台詞ですよガライさん」
プリムは、真っ直ぐにガライの方を向いていた。
「私達は、切り裂き魔を退治しに来たんですよ」
「だったら、俺の邪魔をするんじゃねーよ!」
ガライは、鬼の様な剣幕でプリムを睨んだ。
「私、ふと思った事があるんですよね…切り裂き魔って、決まって被害者の体を刃物で切り裂くんですよ。今の狼さん達の戦いを見ていたら、爪じゃなくて牙で戦っていましたよね?」
「それが、何なんだよ?」
「牙なら、人間の体に切り裂く様な跡を付けるのは出来なく無いですか?」
プリムは首を傾げてガライに問う。
「貴様…何が言いたいんだ?まさか、狼は悪くないと言いたいのか?」
「ええ…そして、切り裂き魔ってガライさんじゃ無いですか?」
そんなプリムの言葉にガライは笑いだした。
「何を言うと思えば…俺は、1度森に出かけて狼に返り打ちにあってんだろ?」
プリムは首を横に振る。
「今、彼が母さんと呼んでいる人は金色の狼─聖なる狼ですよね。実は昨日、彼の──そこの狼に息子の誕生日プレゼントを選んで欲しいと頼まれていたんですよ。彼女が、1人の…1人と1匹の大事な息子の誕生日に、人間を襲うなんて考えられないですよね」
「それだけで、俺が犯人扱いか?笑わせるぜ」
「それに、ガライさん…さっきから言動がおかしい事に気付いてますか?殺す!とか、切り裂いてやる!なんか、普通は退治してやる!とか仲間の仇だ!とか言いませんか?」
プリムの言葉を聞きガライは、身悶える。
「私達の事を人間とも呼びましたよね?そこの彼は、見た感じだと狼達が家族らしくて私達の事を人間と呼ぶかも知れませんが、町で暮らしている人間が私達の事を人間と呼ぶのはおかしいと思います」
ガライは黙って聞いていたが、次第に笑いだした。
「良く気づいたな人間よ!下等な生物の癖して、俺様の正体に気づくとはなっ」
そのガライの言葉を聞きプリム達は戦闘態勢をとる。
「狼達を殺した後に貴様らを殺してやろうと思ったが…まぁ、先にお前らから始末してやるよ!」
ガライは大笑いをし始めた。すると、背中から緑色の羽根が生えてきた。
プリム達はその光景に目を疑う。ガライの手は、どんどん伸びていき曲線を描くと腰から細い足が生えてくる。口は大きく裂け、中から角みたいな物が生えてきた。
「魂!」
プリムは叫んだ。
「ぐふっぐふっぐふっ…俺はカマキリの魂を体に宿しこの力を手に入れた!素晴らしいだろ?」
ガライが話す度に、口の中の角が左右にガチャガチャと音を立てて動く。
「早く撃って!」
銃を構えた騎士にプリムは叫ぶ。騎士は、驚き戸惑っていたが我に帰るとガライに向けて発砲をする。
「遅い!」
バサバサバサと羽根が動くと、素早い動きで騎士の隣に移動した。騎士は慌てて銃を向けるが、ガライの鎌が騎士の頭を鎧ごと突き刺した。
鎧の間から血が吹き出て騎士が倒れた。ガライはカンパツ入れずに、残りの2人の騎士を襲う。
いくら、腕の良い騎士でも魂を宿した人間に敵う事は出来ない。
ガライは両手を振り上げると、2人の騎士の脳天から鎌を振り下ろす。
バキバキ…グシャッ
騎士達の頭は潰れ、その場に倒れると突き刺さった鎌には騎士の心臓が突き刺さっていた。
「ぐふっぐふっぐふっ…これが美味いんだよな」
ガライは、両手にある心臓を口まで運びクチャクチャと食べ始めた。
プリムは、吐き気を覚えガライの残虐さに腰が抜け座り込んだ。
「王女は後のデザートで先にアイツを殺してやるか」
ガライはランドの方へと振り返る。
「お前も、家族の所に連れてってやるからな」
ガライはランドに一気に近付くと右手を振り上げると、ランドに向かって振り下ろす。
今度こそ助からない…折角、母さんが助けてくれた命なのに。
しかし、鎌がランドの数センチ前まで来た瞬間に何かがランドの前を横切った。
ランドは一瞬の事で目を瞑ってしまったが、その何かを追うように目を開けた。ランドの隣には、怒りに燃えているグルフの姿があった。
「父さん!」
グルフの目は赤く光り体は月明かりに照らされて銀色の毛が光って見えた。そして、口にはガライの鎌がくわえられていた。
「父さん!父さん!!母さんが…兄さんも!」
グルフは地面に倒れている妻の姿を見た。そして、その脇には血だらけの息子の姿。
グルフは振り返った。
悲惨な姿で倒れている騎士の死体とその近くに腰が抜けてしまったのか、座り込んでいる少女の姿。
そして…異様な姿をしている人間!
グルフはガライの方へと顔を向けた。
たった1日、たった1日家を出ただけで幸せだった時間を壊した人間!
グルフは口の中の鎌を吐き捨てた。
「貴様…俺の腕を!許さねぇ!」
ガライの腕からは、緑色の血がポタポタと地面に落ちていた。
「父さん…俺が、俺がもっと強かったら兄さんも母さんも…ごめんなさい…」
そんなランドの言葉にグルフは首を横に振った。
「ランドは悪くないぞ!お前は良くやった偉いぞ!」
グルフは笑顔をランドに向けた。そして、ガライの方に顔を向けた。
「うひゃひゃひゃひゃ!やっと腕の立つ奴が出てきたか!こんなガキや、見かけだけの人間だけで飽々してた所だぜ!」
「黙れ!」
グルフは叫んだ─と言っても、他の者の耳にはグルフが吠えただけしか聞こえないが。
「俺を楽しませてくれよ!狼よ!」
ガライの腕からまた新しい腕が生えてきた。
──魂を宿した者は、元の魂を持った生物の能力を使う事が出来る。この場合、ガライは虫の再生能力を使い千切れた腕をまた再生したのだ──
でかい羽音を震い立たせガライはグルフに襲いかかる。グルフもガライに向かって走り出した。
ガライの鎌が体に突き刺さるが、グルフは気にせずに牙を顔に向けた。ガライは、急いで顔を引くがグルフの牙はガライの顔を容赦なく切り裂く。
そしてそのまま空中で方向を変えると、後ろ足でガライの体を吹き飛ばす。ガライはバランスを崩しその場に倒れそうになったが、体を起こしグルフを睨んだ。しかし、そこにグルフの姿は無かった。
視界の外からグルフがガライに向かって飛びかかる。ガライは無我夢中に鎌を振るが、虚しく空を切るだけであった。
しばらくすると、形勢は一気に逆転していた。ガライの顔は、裂けて血が垂れていた。グルフの方は、体から刺された傷から血が流れだしていたが全く気になっていない様だ。
「くそっ!犬っころの癖になかなかやるな!だけど、所詮は犬だったな!」
ガライは、グルフを背に向けるとクルシスの脇で2人の戦いを見ていたランドに向かって走り出した。そして、鎌を振り上げる。
グルフは急いでガライを追いかけた。しかし、それはガライの罠であった。ガライは急ブレーキをすると後を追っていたグルフの方へと振り返る。
グルフも急ブレーキをかけようとするが、ガライの鎌の方が早かった。
まさに一瞬の出来事だった。ガライの鎌は、グルフの体を突き破ると、倒れたグルフを更に何度も鎌を突き刺した。
「うひゃっ!狼よ!残念だったな!お前が必至に守ろうとした者は、今ここで死んでいくからな!」
ガライは、既に冷たくなったグルフに言葉を吐き捨てると次はランドの方を見た。
「ああああ…」
ランドは恐怖を憶え、後退りをする。皆、殺されてしまった。恐怖と絶望から頭が真っ白になってしまう。
「すぐに後を追わせてやるからなボウズ!」
ガライは、一気にランドとの距離を縮めるとランド体を切り裂いた。
ランドの意識は無くなり、その場に倒れ込む。
「うひゃひゃひゃひゃ!まだ少し息があるが、苦しみながら死ね!」
ガライは、ガタガタと震えているプリムの方へ歩き出す。
ランドの意識は無くなりかけていた。父さんも兄さんも母さんも、みんな殺された…俺も、今から行くからね…ランドはそう小さく呟き目を閉じた。