第4話:事件
太陽の光が窓とカーテンの隙間からプリムを照らした。
プリムは眠たそうにしながらも、欠伸をするとベッドから体だけを起こす。
昨日は、数時間くらいカウンターに座っていたが夜遅くなるといけないと言う事で家に戻された。
家と言っても、町の中にある王宮経営の豪華な宿の1室である。
一般のお客も泊められる宿なのだが、一般市民には少し荷が重すぎるくらいの良い値段がするために、貴族くらいしか泊まらない。
プリムは王女と言う事もあり、宿の一番上の一番高い部屋にここ数ヵ月は住んでいた。
プリムは昨日の晩から、あまり眠ることが出来ないでいた。それは、ガライが切り裂き魔調査に森へ向かったからである。
いくら腕の良い剣士と言えど、本当に聖なる狼か切り裂き魔だったら無事では済まない。
聖なる狼は不思議な力を持つと言い伝えてあった。そんな化け物的な存在に剣は効くのであろうか…。プリムは心配で心配で、眠ることが出来なかった。
きっとガライは無事で居るハズ…それだけを信じたい!
ベッドから出ると顔を洗いに洗面所へと向かった。きっと大丈夫…大丈夫…。その言葉を頭の中で何回も何回も呪文の様に繰り返す。
その時であった、部屋のドアが大きな音を立ててノックされる。
プリムは驚き、返事をするとドアの外から声が聞こえた。
「王女様っ!ガライ殿が戻って来られました!しかし、深手を負われまして今は病院の方に参ります!」
プリムの嫌な予感は的中してしまった。
気を失いそうになり倒れそうになったが何とか踏ん張ると、ドアを開け放つ。
外では、町の人であろうか片膝を床に着け座っていた。
「どこの病院!?」
プリムは男に向かい叫ぶ。男は顔を上げた。
「高い治療費を取りまくり評判が悪いですが腕は確かなイリョウミス先生の所です」
プリムはその言葉を聞くと、走り出した。部屋に鍵もかけずに…。
でも、そんな事はどうでも良かった。ガライさえ無事でいてくれれば…
一心不乱にプリムは走っていく。
プリムの宿は、町の中心部辺りに建てられていた為に、町の何処を行くにも直ぐに行けると言う長所があった。
プリムは宿を出ると、南の方へと駆け出した。
ガライさん…無事でいて…。そう願いながら病院のドアを叩いた。
ドアから顔を覗かせたのは90歳近い老人だった。老人はプリムの顔を見ると軽く会釈をする。
「どうなさいましたかな?」
「ここに、旅の剣士が運ばれてきたって聞いたんですけど」
老人は少しうつ向き考えるそぶりを見せた。そして顔を上げるとプリムを病院の中へと招き入れる。
病院は小さな物で、ベッドが3つ並んでいた。そのベッドの真ん中にガライが寝そべっていた。
プリムは無我夢中に駆け寄ると、ガライは体を起こして挨拶をしてきた。
「ようプリム!こんな朝早くにどうしたんだ?」
ガライの傷は思ったよりも浅く、軽傷で済んでいた。
「ガライさん…良かった無事で」
急に体から力が抜けその場に座り込む。
「俺が心配だったのか。大丈夫だよ、俺は…俺だけは軽傷で済んだんだ」
その言葉に引っ掛かりを覚え、プリムはガライの顔を見た。ガライは少し悲しそうな表情をしていた。
「俺だけが軽傷で済んだんだ…2人は殺されて、1人は喉を潰されて意識不明の重症だ」
ガライは両手で顔を覆った。
「ちくしょう!助けられなかった!でも、切り裂き魔の犯人は分かった!狼だ!金色の狼!奴が犯人だ!」
覆った顔から殺意がメラメラと湧き出てくるのをプリムは感じとった。
まさか、聖なる狼とあがたてられ町の人々が信じていた狼が人間を襲うとは…。
プリムは立ち上がった。
「許せないわ!狼達を倒してこの町を平和にしなきゃ!」
ガライは両手を外すとプリムの方へと視線を移す。
「狼を狩りに行くのかい?だったら、僕も狩りに行くよ!仲間の仇を討ちたい!」
突然の申し出にプリムは戸惑った。仲間の仇討ちは分かるが…怪我をしたガライをまた戦場に仮出すのは申し訳無かった。
プリムは一度は断ったが、彼の熱い情熱に打ち負かされ渋々首を縦に振った。
「じゃあ、ガライさんは時間が来るまでここに居て!私は、城から腕の立つ騎士達を連れてくるわ!」
「分かった!じゃあ、今晩の広場で集合で良いかな?」
プリムは頷くと颯爽と走って城を目指した。
後に残されたガライは呟いた。
「狼めっ!今日こそ殺してやるからなっ!」