第2話:日常その2
「おいっ!起きろランド!」
ここは、町から離れた場所にある森の中の洞窟。
その洞窟の中には、金色の狼と銀色の狼、茶色の狼と何故か年の頃が16〜17くらいの少年が居た。
少年は地ベタに何も引かずに眠っていたが、茶色の狼は少年の傍らに座りグルグルと喉を鳴らしながら少年の顔を前足でつっついていた。
「ほらっ!ランド!起きろってば!」
少年はネボケ眼で目を開けると傍らに座っていた狼がコチラを見ていた。
「あっ…兄さん。おはよっ…」
少年は欠伸をしながら体を起き上がらせると茶色の狼の前に座る。
「ったく、ランドは寝ぼすけだな」
狼はグルグルと喉を鳴らした。この狼の言葉が直接聞こえる訳では無い。ここにいる金と銀と茶色の狼は聖なる狼と呼ばれ古くからこの森に住んでる狼なのだ。
この狼達は、不思議な力があると言われている。
雄狼は、自然界にある物を操る能力。
雌狼は、雄狼の力を媒介して傷を癒す事が出来る。
そして、雄雌共通して相手の脳に直接言葉を吹き込む事が出来るのだ。
先ほどから、このランドと呼ばれている人間の少年が話を出来るのはそう言う事である。
「そう言えば、もうすぐランドを拾ってから15年目になるわね」
金色の狼は喉を鳴らした。
「そうだな…。そろそろ、ランドにも狩りの仕方を教えなきゃいけないな」
銀色の狼はランドの方に顔を向けた。
「本当!?グルフ父さん!」
ランドは目を輝かせて銀色の狼の方に視線を向かわせた。
「ああ…もちろんだとも」
グルフと呼ばれた銀色の狼は──外見は無表情だが──笑顔で答えた。
「そうね…早いもので、ランドを育てて15年も起ったのね」
金色の狼はランドの前に腰を下ろした。
「貴方を拾ったのは2歳の時…もう、17歳になったのよね。人間は、育つのが早いわ」
金色の狼は鼻でランドの顔をつついた。
「擽ったいよクルシス母さん」
ランドはケラケラと笑いクルシスとじゃれあう。
「まぁ、今から狩りを始めたって俺には追い付けないけどなっ!」
茶色の狼は前足でランドの頭をグイッと押した。
「絶対にロクサス兄さんを追い越してやるからなっ」
歯を見せ、狼みたいに威嚇のポーズをしながらランドはロクサスに言い返した。
「まぁ、そうと決まれば早速ランドにお使いを頼もうかしら」
何がどう決まったのか分からないが、クルシスは颯爽と洞窟の奥に行くと直ぐに戻ってきた。
クルシスの口には、クモの巣と葉っぱで作られた小さな袋を持っていた。袋の中には人間のお金が入っている。
「ランド、町外れの小さなBARに行って出来るだけ大量の水を買ってきて頂戴」
クルシスはその袋をランドが差し出した手の中に納める。ランドはブスッとした顔で受け取った。
「狩りを教えてくれる話じゃなかったの?」
むくれた顔でクルシスを睨んだ。
「ま…まぁ、これも大事な事だぞランド」
グルフは冷や汗を垂らしながらランドをなだめた。
「大事な事ってのは分かるけどさぁ…」
ランドは今にも泣き出しそうな顔をして顔を落とした。
「ほら、俺達は人間の町に行ったら騒ぎが起こるだろ?コレはランドにしか出来ない事なんだし」
ロクサスはランドの頭を前足で2回ほどポンポンと叩いた。
ランドは渋々、頷ずくと洞窟の外へと歩き出した。夏の暑い日射しがランドの顔に突き刺さる。
ランドは手で影を作ると太陽を見た。
こんな晴れの日がいつまでも続けば良いのに…そんな事を思いながらも、森の中へと歩き出した。
この狼達が住んでいる洞窟は、かなり森の奥の方にあった。道の無い獣道だったが、ランドはこの森を熟知しているので、迷う事なく真っ直ぐと森の入口を目指した。
その途中には、綺麗な花畑の真ん中に大きな湖がある。森に住む草食動物や、その草食動物を狙う肉食のモンスターが集まる場所でもあった。
ランド達の主食は、その肉食のモンスターなのだが、不作な時は草食動物をも狙う。
ランドは大型の肉食モンスターの膓を食いちぎり腹一杯にむさぼり尽すのが夢であった。
彼は、人間であるが心はすでに狼である。
そんなこんなで、ランドは歩いていくと森の入口が見えた。森の入口より少し離れた場所にある人間の家。
何か、他の悪い人間から森を守る良い人間だと母から聞いていたが、未だに1度もその良い人間に会ったことは無い。
森を抜けると町までは歩いて15分ほどであり、それまでは何にも無い草原がただただずっと続いている。
ランドは少し息を切らせながらも町の入口に辿り着くと大きなため息をついた。
歩き慣れた道なのではあるが、どうもこの人間の町だけは気に食わなかった。
町は、石で固められた固い道で、その両脇には家と呼ばれる石の箱がいくつも並んでおり、その途中途中には家の入口を大きく開けて、肉やら野菜やら魚を並べては大きな声で道を歩く人間に声をかけている。
ランドは野菜や魚はともかく、この肉の臭いに何度も魅力を感じたが人間達は、肉を火で焼いたり鉄の箱に入れて白くしたり(茹でる)してから食べるらしく、そんな事をするのも少しだけ気に食わなかった。
とにかく、人間の町はウルサイし自然が少ないし何よりも道が固くて足が痛くなる事が嫌だった。
ランドは一応は服と言うものを来ているが、その服は何年も洗っていないので、汚くボロボロになっている。もちろん、靴は掃いていない。
髪の毛も伸ばし放題で、黒く濁った髪が腰の辺りまでボサボサに伸びきっていた。たまに水浴びくらいはするので、臭いとかの匂いは無い。
ランドは町の中を歩き出した。周りを歩いていた人間達がランドをチラチラと見ては見ぬ振りをする。ランドはそんな視線には気にも止めなかった。それでも最初は気になった。
クルシス母さんやグルフ父さんが頑張って集めた人間のお金を狙っているのかとか思ったりして、威嚇をした事もあったが違うらしく、ただランドの姿が珍しく…見ているだけと知ったので、今では何も気にしなかった。
そんな道を歩いて行くと、賑やかが消え離れた場所に小さなBARがあった。ランドはその店には1〜2度来た事がある。
最初は、兄さんと一緒にこの店の残飯をむさぼりに行った時…。
次は、最初にむさぼりに行った時にマスターに見つかり逃げたのだが、捕まり次はちゃんと店の入口から入って来いと言われたので、次の日の夜中に入口から入った事があった。
その時は、甘酸っぱいシュワシュワの水を飲まされていっぱい家族の事を聞かれたが、素直に答えたら肉とか貰えて家族で美味しく頂いた事がある。そんな事もありクルシス母さんがマスターと仲良くなり、今度息子に買い物に行かせると言ったらしく今日ここに狩りだされたのである。
ランドにとっては、昼に入る人間の家は初めてなので少し緊張しながらも扉を開けた。
くちなしの方は、話がつまらなくなってきたので、しばらくしたら打ち切ります。しばらくは、狼をお楽しみ下さい。