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世界転生 -反逆の救世主-  作者: ただのあほ
第一章
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鍛冶矮人とレギン隊【後編】

 テントを出れば目に強く暖かな光が射し込み、それはひどく眩しい。

 思わず手をかざし、眉に力が入って目を細めさせる。

 下を見ると、日の光を反射している胸当てが待ち構えるが如く、サルバを襲う。

 ロングソードの鞘を握りしめて、まだ光に慣れないうちにレギンの元へ走った。


「今度は早かったな」


 剣がかち合う甲高い音に、鋼が空を斬る音とそれに続いて、木が割れる乾いた音。

 それらと力の入った声が降り注ぐ中、レギンは口ではそういうものの特に驚いた様子もない。

 初めてにしてはということだろうか、というサルバの考えは終わり、代わりにレギンの言葉がその続きを埋めた。


「今からお前には訓練兵に混じってああいう風に仕合って貰う。

 ……と言いたいところだが、今回は俺が相手だ。

 遅れてきたお前の見せしめも兼ねてな、初日とはいえ特別扱いはしない」

「……わかりました」


 ……兼ねて?本命はなんだ?

 それに皆訓練に必死で、見ている人なんてリーシャくらいしか──と心の中でツッコミを入れる。

 それはサルバの中で会話に水を差すほど重要な事柄ではないから。

 サルバの将来的には、結構重要かもしれないが。


「仕合といっても、対魔物への訓練用にルールを儲けている。

 攻撃は直剣の刺突のみに限定する。防御の範囲においてはその限りではない。

 装甲はないものとする。魔物に噛みつかれたら、骨まで砕かれると思え。

 勝負はどちらかが剣を落とすか、体のどこかに剣を突きつけられるまでだ。

 いいな?」


 辺りを見渡せば突きを繰り出し、それをいなす。

 説明されたルールに乗っ取った戦いが行われていた。

 言いながら、サルバから離れてゆくレギンに戦いの気配を感じ、緊張する。

 立ち止まり改めて顔を向けるレギンに、首を縦に振った。


「では剣を抜け。行くぞ」


 言われるがままに借り受けた直剣を抜き構える。白い剣身が光に照らされる。

 役目を終えた鞘はつけていたベルトに差し込む。

 鏡合わせのようにレギンも鞘より剣を抜く。

 魔物に寝起きを襲われた時、その魔物を絶命させた彼の剣さばきは正確の一言であった。

 骨格を知っていなければ出来ぬ芸当であり、知識と技量を併せ持つ一撃。

 それに比べれば自分は知識がなく、技量すら分からない。力の差は歴然。

 だが分からないからこそ知るために、これから魔物と戦う為に、素直に負ける気もサルバにはなかった。


「では、始め!」


 仕合のはじまりを告げるレギンの声。

 それを聞いた途端、空いていた筈の距離はあっという間もなく無くなる。

 瞬間移動を彷彿とさせる速度で、僅かな風と共にレギンはサルバの目と鼻の先にいた。

 既に突きを上段に構え、それは自らの顔面に狙いをつけていると分かった途端、サルバは思いきり剣で頭を庇うように振るった。

 ほぼ同時に突きが放たれ、顔の目の前におかれた剣はそれを反らす。

 かち合った鋼と鋼が甲高い音を上げた後、それらが擦れ合って火花が散りそうな音が耳元で鳴く。


「なかなかやるな……!」


 その一言はまだ喋る余裕があるのか、とサルバに実力の底の無さを見せつけた。

 その後を考えさせる暇もなく、一瞬で放たれた剣は突きの構えを取り戻し、二撃目が放たれる。

 サルバはそれを右手、レギンから見て左手に地を蹴って避ける。

 それと同時に距離が空くはずだったが、それをものともせずレギンは肉薄する。

 三撃目が放たれ、地を蹴ったばかりのサルバは受け流す他になく剣で反らす。

 宙に浮いていた足は叩きつけられるように地に付き、レギンの剛撃に腕は既に悲鳴をあげ始めていた。


 レギンが踏みいって突きを繰り出し、サルバはそれをいなして距離を空ける。

 誰の目に映っても一方的。

 突きを反らすたび、剣を伝って衝撃がサルバの腕に走り、防御を鈍らせる。

 ビリビリと電流が走るようなそれに顔を歪ませながらも、それに一つの閃きを見いだす。


 ──これに賭けるしかない……!

 

 思考が駆け巡る間にも突きはやって来た。

 それを腕を振り絞るように剣を、目の前に構えて軌道を反らす。

 その直後、剣を頭上に上げる。防御はがら空きになり、レギンの突きを妨げるものはなくなる。

 何をする気だ、とレギンの思考もつかの間、突きは続けて放つ。

 それが今にもサルバを貫こうとしたとき、今だっ! と身体に命令した。


 右足が大地を踏みしめると同時に、その放たれた突きに向かって剣を振り下ろす。

 かち合い、強い衝撃が腕に走ったかと思うと──


「なっ──」


 レギンの驚愕の声と共に、刺突する筈だった剣が手を離れて宙を回っていた。

 それは少し留まった後、サルバまっしぐらに落ちていく。

 まずいと思った時、サルバはさっきの衝撃で腕が動かない事に気がつく。

 握っていた筈の剣は手のひらを滑り落ち、地に伏している。

 そして今にも胸に突き刺さろうとしたとき、レギンはその回る剣の柄を器用に取る。

 そしてそれは、サルバに文字通り剣が突き立てられている形となった。


「……俺の、負けです」

「いいや俺の負けだ。先に剣を離した」


 掴んだ剣を鞘に戻し、晴れやかな顔でレギンは告げる。

 腕、動かないんだろ? というと落ちていた剣も拾う。


「突くしか脳のない俺にとっちゃ、羨ましい発想だ。

 よし、少し早いが今日の訓練はこれにて切り上げる! 各自体調を調え備えるように!

 俺はこれから少し用があるから、何かあればネルに伝えろ。たたき起こしても構わん」


 咄嗟の判断を評価した後、だがサルバの記憶に関しては一切触れずに、周囲に声を張り上げる。

 その声は一斉に訓練をしていた者の手を止めさせ、殺伐としていた訓練場は見る影もなくなる。

 ぞろぞろと私語混じりに帰っていく訓練兵たちを「さっさと帰れ」と促した後、レギンはそっと使っていた剣をベルトの鞘にしまってくれた。


「筋はいい、いや良すぎる。後は魔物への知識量だ。

 まず戦う敵を知るということを、忘れてはならない。

 腕は教会に行って直してもらうといい」


 言いながら、「リーシャ」と呼ぶ。

 いつのまにか、既に近寄っていたリーシャはサルバを見ながら、教会の行き先であろう道を指差していた。

 まるで行こう、とでも言いかけな仕草に少し口を緩めたあと、レギンの方に直る。


 「ありがとうございました、レギンさん」

「こちらこそだ、有意義だった」


 握手こそはできなかったが、そんな言葉を交わし、サルバはその場を後にした。




「まだ、痛む?」

「大丈夫、大したことないから」


 行きは下っていった坂が、帰り道には牙を向き緩かな上り坂となっていた。

 そんな中でそんなに戦いは激しいものに見えたのか、リーシャは腕の心配をする。

 大丈夫とはいったものの腕はまだピクリとも動かず、歩く度振り子のように小さくだらしなく揺れ動く。

 思えばレギンのあの動き、刺突は全ておおよそ同じ人間とは思えないものだった。

 そう考えたら受けるだけで腕がひしゃげそうな感覚を思いだし、サルバはよく勝てたものだ、と改めて思った。


「教会って、ここにも宗教があるのか?」

「うん、"聖教"って呼ばれてる。聖術を信仰してるんだって」


 聖術を信仰している、というのはサルバにはピンとこない。

 リファがくれた聖術についての本には、小難しい詠唱用の言葉である"祈言(いのりごと)"の羅列。

 その"祈言"をマナを触媒に象り"光"とやらに捧げると聖術が起きる、という理解しがたい原理が書き記されているのみ。

 所謂使用方法と書いておらず、まだ聖術がどんなに人を救うものであるかを知らないから。


 先には訓練兵が帰っていく姿。石畳をかつかつと鳴り響かせながら言葉を交わしていた。

 鈍器を振るっていた、全身板金鎧(プレートアーマー)の大男たちもヘルムを脱いでいる。

 その頭にはやはり、動物の耳が髪に紛れて垂れていた。

 目の前は一見賑やかではあったがその内容は、あまり。


「ルーク街の奴ら、まだ見付かってないらしい」

「魔物もこれから攻めてくるし、捜索も打ち切られる……ファネル、今どうしてっかな」

「きっと今日の昼飯は何かな、ってぼやいてるさ。水くさい話はやめにしよう、今は信じて待つしかない」


 そんな話が聞こえてくる。

 自分が記憶を失っていなければ、そのファネルという人も見つかっていたのではないだろうか?

 今まで何を呆けていた? ルーク街に、記憶を失う直前に居たであろう所に行けば、何か分かるかもしれないのに。

 レギンさんにだって勝てた。外に魔物がいたとしても倒せるはずだ。

 腕を治したら、すぐに行かなければならない。きっとリネーラさんもそれを望んで──

 意識が思考で一杯になっている間に、話題は明るく切り替わろうとしていた。


「それよりも、あの隊長を負かした超新星……気にならないか?」

「大体察しはつくだろ、聖術が使えなくて煙たがられてたのを──ちょっ、おいアーチェ!」


 サルバがルーク街の生き残りであることを、知らないような口ぶりで。

 団長が拾ったんだ、と言い終える前にぐいっと襟元を引っ張られ、それは抗議の声へと変わる。

 当然話題になった者の元へそれに興味を持った奴と共に、まるで重力に引かれるように連れていかれた。


「よう、見てたよルーキー」


 考えうつむいていたサルバにそう声をかけたのは、さっきアーチェと呼ばれた男。

 レギン隊らしく軽装で身を飾り、茶髪には当たり前のように犬の耳のようなものが紛れている。

 濃い蒼の瞳はサルバの眼を力強く見つめていた。


 と、それに引っ張られてきた者も軽装で犬の耳を持ち、こちらは石のような灰色の髪。

 琥珀のように透き通る瞳は、ただやりにくいと訴えているようにも見えた。


「俺はアーチェ、でこっちがデニー。同じ訓練兵同士、仲良くやろう。

 にしても……あの剣さばき、一体何をどうしたらああなる?」

「それが、記憶が無くて……体が勝手に動くんだ。ああ、俺の名前は──」

「待て、当ててやる。きっとサルバだ」

「どうして、わかった?」


 したり顔でギザっぽく指差しながら、答えてくれた。

 訳を聞いてみると存外酷いような、しかし当然の権利なような話がからんでいた。


「俺達がネーミングセンスの無さに抗議したら、『次はサン・サルバドルからとる!』とか言い出してな」

「……次?」

「ここでは孤児も少なくないってことさ。お前も団長に拾われたクチだろ?

 この時期に訓練兵なんて、そんな事情の奴しかいないさ」


 孤児と言われれば、そうなのだろう。

 残ったのは顔も知らない親からもらったであろう身体だけ。

 他に貰っていた居場所、愛情、思い出などと言うものはどこにもない。

 それどころか、なにもない気がした。


「というわけで、分からない事があったらいつでも聞きに来い。

 普段は第二寮にいるから、じゃあな!」

「あっおいアーチェ、結局俺が来た意味なんなんだよ!」


 サルバが声をかける暇もなく住宅街の中で、騒がしく去っていく。近所迷惑を想像させるくらいには。

 歩いているうちにリネーラの家を曲がって通りすぎ、アーチェ達が行った道の看板には数字の二が掘られていた。


 左を見ていたのを正面に直ると、木造の建物が立ち並ぶ中でひとつだけ浮いているものが目に入った。

 石で出来ているようであり、白がかった灰の塔のような正面にに真っ白な突き尖った屋根。

 その上には十字架がこしらえてあり、自己主張がコルト街にとっては激しいものであった。

 後ろにはその塔に屋根付き豆腐のような建物がくっついている。

 

「着いたよ」


 道案内の様は、リネーラと被る。

 やはり親子としか思えないような瓜二つに一瞬目を奪われながらも、すぐに教会を見つめた。

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