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世界転生 -反逆の救世主-  作者: ただのあほ
第一章
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守るべきものと失う場所の狭間で

留意点:これは、前話よりも時系列が前の出来事であり、具体的にはサルバとリーシャがぐっすり寝たあと、リネーラが魔物の侵攻に備えて迎え撃つ砦に向かった時のお話である。


できれば小説削除を行い一章の最初にねじ込みたかったのだが、なろうのサーバーに負担をかけるらしく断念した。分かりずらく申し訳ない。

 サルバが目覚めた日のこと。いつもならぐっすりと眠っているはずの深夜で、辺りは真っ暗だった。

 ぱちぱちと音を立てる、燭台に立て掛けられた松明はお日様の代わりだった。


「私たちは城壁備品のチェックに向かいます。

 では引き続き、"魔車"内部の、"魔導機関"の点検をお願いします」


 言うなれば、馬のない馬車とでも言うべきものに集まる鍛冶矮人を尻目にいい終えると、去っていく。

 魔導四輪──馬のない馬車というなんとも大事な物が欠けている外見にちなんで、馬車とかけて"魔車(ましゃ)"と呼ばれ、騎士団の間では慣れ親しまれている。

 座って馬を手綱を握るところには前輪を左右に傾ける為の操舵輪──所謂ハンドルがあり、その左右には二つのグリップがある。


 魔導機関とはその内部にある、マナを動力として魔術を発生させるという代物。内部にはマナを指定の事象、物質へ変換させるように緻密に設計がなされているらしい。

 身も蓋もない言い方をすれば、ブラックボックス。動作テストは厳重に行われる。また重く大きく、活用されていると言えば魔車のみが代表的なくらい汎用性がない。


 そのため魔道機関を魔車の後輪に風纏わせる奴、と言っても大体通じる。

 車体を浮かせるほど強い風で後輪を回すため、後ろに傾くように魔車は設計されているし、ある程度の積載がないと操舵輪による制御がきかない……

 要するに印象的でもあるから。


 目の前には空を染め上げる勢いでそびえ立つ城壁がある。切り出された石たちで積み上げられた巨大な砦。それが、エイン東城壁と呼ばれる西大陸側最初で最後の防衛ライン。

 コルト山脈に沿う形で城壁が形成されているからか、ここは風がよく吹く。そもそもこの山脈が生まれたのは、西大陸と東大陸が元々別れていて、それがぶつかった衝撃で地面が押し上げられた……

 というのが、アンタレス大陸中で気象や地形を研究している、所謂地理学者たちの見解であった。


「武具倉庫へは私が。団長どのは診療所にある回復薬(ポーション)などの点検をお願いします」


 連れていた部下は、リネーラに備品点検の為の算段を立てる。診療所と武具倉庫は離れており、二手に別れるのはいつものこと。その度にリネーラは診療所へ、レギンは武具倉庫へ行っていた。

 なぜ二人なのかというと、騎士団内で一番信頼されていたから。今回は代理でレギンの部下が来ている。そういう事情を察してか、彼は進んで武具倉庫の点検を引き受けた。

 

 「わかりました。お願いします、ネル」


 そう告げながら、互いに背を向け別れて行く。夜だからか、振り返るとネルはすぐに見えなくなっていた。

 




 突然コルト街周辺に押し寄せた計5匹の魔物。内一匹は内部にまで侵入し、"生き残り"を襲った。そういうものは、大規模な魔物の侵攻の兆候として度々あった。

 けれどそれは今も謎に包まれるルーク街の出来事を、真に闇に葬るかのようでもあり、やはり闇、それに属するものの仕業にしか思えなかった。リネーラには。


 ルーク街はコルト騎士団前線基地の一つ。砂時計のちょうど真ん中のようにくびれたここ、コルト街の東に位置する東大陸への唯一の陸続き、"混沌への道"。

 守り易く、見渡す限りが荒野であるここでも、基地を一つに絞れるほど狭くはない。


 なので本隊をコルト街に置き、その行動範囲を支えるように南のアレイド街と共に、北のルーク街がある。あった。

 誰の仕業か街は焼け落ち、居たはずの者たちは痕跡すら残さず、どこかへ消えてしまったのだから。痕跡すら残さず。


 だが今まで、具体的には魔人と呼ばれる、ヒトの形を保ち、魔物を率いて攻めて来た頃から。共に闘い、魔物から西大陸を守ってきた仲間たちを疑うことはしない。

 むしろ、そんなことはできなかった。疑ったら、それはこの戦いに疲れてしまったというものしか、思い当たる節が見つからない。

 そんなことは、悲しすぎる。きっと闇の仕業だ──


 そんな事を思っているうちにも、足は音を立てていたらしく、辺りは石一色の城壁内部。目の前にはお目当ての診療所兼寝所があった。

 ここには、いくつものベッドが規則正しく並べられている。その横には包帯や回復薬(ポーション)、ハサミに麻酔薬などの医療器具が並ぶ台。

 万が一聖術が使えないときの、あるいは闇を払う思念浄化に専念する余裕を持たせる為のもの。故に腐ってはいないか、ずさんな管理はされていないかを確かめなければならない。


 壁に突き出た燭台は松明を支え、それらと灰色の壁を照らしていた。

 物好きな鍛冶矮人が量産している細長いひし形めいたガラス瓶には、透き通った緑色の液体、回復薬の中身が。


「これは……ダメね」


 腐敗のサインは青みががった色。おおよそ二週間でダメになる。放っておくと徐々に黒ずんで紫、真っ黒と変色していきとんでもない異臭を放つ。

 リネーラはそれを一回やらかしたことがあるのだが、その時彼女が被った腐敗臭に誰も一週間は近付かなかった。そんな腐敗のサインを出す回復薬を回収する。

 そして長いスカートの裏、太股にいくつか忍ばせていたポーションと置き換えた。


「5月31作成回復薬と交換……っと」


 診療所の隅の机に置いてある羽根ペンをとり、インクをつけてパピルス紙に交換記録をつける。

 紙には今までの記録がぎっしりとかかれており、その記録から大体の消費と釣り合う生産量を調整する。

 普段の、彼女の仕事はそれだけ。レギンがその分、レジェンド級の苦痛を味わっているが。


 そうして全ての点検を終え、診療所を去るや否や、城壁内部の階段を上り始めた。少し窮屈な螺旋階段は、吹き抜ける風と松明が照らさない暗がりが相まって、まるで監獄のよう。

 いや、既に囚われているのかもしれない、と思ったリネーラはそこを駆け抜ける。何に囚われているのか。血筋? 魔物に? 戦場に? それとも──コルト騎士団?

 その全てに。囚われているからなんだと迷いを振り払った時、螺旋階段の出口、城壁上部の歩廊に出ていた。


 まだ夜が開ける前。風は冷たく東大陸へ吹いていた。自分の髪がちらちらと目に映り、なびいている。この風のように、東大陸へ行ける日はくるのだろうか。

 そうリネーラが思うのは、どこかで戦いが早く終わってほしいと望むから。


 もう八年も前。禁足地として忘れ去られていた東大陸から、異形の怪物なるものが攻めてくる。そんな預言が、アンタレス大陸中で持ちきりになったのは。

 ひとまずの休戦協定を引き延ばし続けていた両国は直後、警備が薄かったエイン東城壁に、人間と獣人の連合軍、コルト騎士団を設置する。

 それから四年もの歳月を経て、預言は現実のものとなった。


「サルバ……」


 東の地平線を見ていたのを振り返り、巻き込んだ者の名を呟く。山脈の隙間を除き込むようにコルト街が見えた。

 彼がルーク街で何をしていたかは分からない。彼自身、それを忘れたくて無くしたのかもしれない。記憶を。だが、自分達にはそれが必要だった。

 次は我が身かもしれない。コルト街が焼け落ちれば、西大陸に魔物が溢れてしまう。


 そう思うなら、手当たり次第に行かせればいい。焼け落ちたルーク街に。人間の故郷である、ロードライトに。

 記憶の欠片はきっとある。見せれば、何か思い出すかもしれない。彼も望んだことだ、何を迷う必要がある? なりふり構ってはいられない。コルト騎士団長として。


 魔物が攻めてくるかもしれないというこの厳戒体制が終わって、ひと段落ついたら──そうしたら、サルバをここから遠ざけることができる。戦う必要はない。ただ、思い出してくれるだけでいい。

 彼をコルト騎士団に入れようとしたのは、記憶を戻すことに使命感を与えるため。そして団長である自分が命じれば、彼を御しやすくできる。


 思い返せば、私は悪女だ。と、自分を恥じていた。

 灰色の石たちが織り成す城壁の上で。ここは何もかもがよく見えた。戦場になるであろう荒野も、守るべき街も。

 今まで自分がやってきたことも。彼女にとって、これは二度目だ。


 立ち止まっている暇などない。東大陸から光が上り、辺りを紅く照らし始める。この状況の中でも憎らしいほど変わらず、明るく何もかもを照らし出す光。

 リネーラはそれを少し見つめた後、コルト街周辺を警戒しておこうと思い立ち足を進めた。


「お疲れ様です、団長殿」

「ええ、お疲れ様」


 思いふけっていたからか、慌ただしい筈の城壁ではじめて声をかけられる。それだけ悩みが深刻だったこと、彼らの声を無視してしまったかもしれないと後ろめたさを感じる。

 それを今日は少し疲れただけだ、と自分に言い聞かせた。


 そろそろ終わった頃だろうと螺旋階段を降り武具倉庫へ向かっていると、予想通りネルがいた。

 ちょうど点検を終え、帰り道だったのだろう。


「武具倉庫の点検、終わりました。どれも傷んだものはなく廃棄するものはなさそうです。

 念のため、魔導機関の点検を終えたら鍛冶矮人に見せておきます」


「ありがとう。これからも、レギンが多忙な時はよろしくお願いしますね」


 いつものように微笑しながら、それに労いの言葉をかける。迷いは、決して悟られるわけにもいかなかったから。

 それに「はっ」と表情を引き締まらせ、声を上げたネルはその場を後にする。魔道機関の点検に加わるつもりなのか、彼の足は騒がしい方へ向かう。

 リネーラはそのまま、コルト街へと足を進めた。


 コルト街とエイン東城壁は大体30から40分ほど徒歩で行けばたどり着く距離。ただし訓練にも用いられるほど傾斜がきつく、その為魔車用の道路が整備されている。

 道は森に囲まれており、自然と更地が抑揚を生み出していた。それに東城壁の大きな影と、大陽の朝焼けで辺りは混沌としている。


「ちょうど帰るところだったか」


 それらを踏みしめる中、聞き覚えのある声をかけられる。振り返ると同じ金の髪、しかし瞳は蒼の男。髪が長いのを後ろで縛っており、優しげな顔と非常に良く合う。

 しかしそれらと決定的に噛み合わないのは、白を基調とした板金鎧プレートアーマーに魔物を斬るためにあるかのような大剣。


「ご無沙汰しております、レオン王子」

「堅っ苦しいのはよせリネーラ。今は二人だけだ」


 レオン王子と呼ばれた男は敬語にむず痒いような顔をした後、顔を強張らせる。

 王子ともあろうものが会いに来る程だ、結構親しい間柄ではあるのだろうということは想像に固くない。

 リネーラはつい癖が出てしまったのか、コホンと仕切り直し改めて口を開き始めた。


「それで……何の用ですか、兄さん」

「我々の部隊──聖騎士団も、東城壁の見張りに使ってほしい。

 難儀な奴らばかりではあるが、お前ならうまく扱えるだろう」


 難儀。うまく扱え。それらの抽象的な言葉を汲み取れば、獣人と一緒にすれば面倒ごとになるということだろう。

 だがお前なら、という言葉は暗に王家の血筋を使えと言うようにも見えた。


「何かあれば言ってくれ。俺はコルト街にいる」

「わかりました。ありがとうございます」


 未だ堅苦しい言葉を投げるリネーラ。

 それはよそよそしさなどではなく、余裕の無さからだろう。

 魔物と種族の下らないわだかまりに挟まれれば誰だってそうはなる。


「気負うなよ」


 それらを察してか、それだけ告げるとレオンは踵を返してコルト街へ向かった。

 コルト街にいるといっても、空き部屋などあっただろうか?

 単なる好奇心から出た疑問は、少しだけ気を楽にさせた。

 魔車の捕捉説明


 二つのグリップはそれぞれ後退と前進の役割を与えられた二つのゾルノアードにマナを伝えるパイプのような役割をしている。

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