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世界転生 -反逆の救世主-  作者: ただのあほ
序章
4/26

実戦訓練&おまけ

 サルバがリファと会っていた頃。コルト街の西。コルト山脈。

 コルト山脈にはそれに連なるエイン東城壁というものが存在し、魔物たちが侵攻してくる際には"コルト騎士団"の砦となっていた。


 その付近、木々に囲まれた獣道のような道なき道。ここはレギンが監督する実践訓練の真っ最中で、訓練兵が班に分かれて魔物が入ってきていないか捜索に当たっていた。

 そのうちの一つ、5人の訓練兵達が辺りを捜索する。

 メイスを持った、フルアーマープレートの大男が一人。

 レギンと同じく犬のような耳を持つ、軽装の獣人が二人。武器は直剣で、既に鞘から抜かれている。

 いずれも男性。それらが先行して歩く。

 

 後方には、二人の女性聖術士。純白のローブの下には、鎖帷子が巻かれている。

 平均して15ほど18歳ほどの、訓練兵らしい若い編成であった。

 皆表情は強張り、初々しい。

 そんな中、ガサリと葉っぱと葉っぱが擦れ合う音がする。


「貧乏くじひいたなこりゃ……」


「ウェルス、ローゼとアリン頼んだ」


「分かった。二人は?」


「囮になる。誘い込んだ所を、お前のメイスでドカンだ」


 そう言い残し軽装の獣人、指示を出したアーチェとデニーは草木に。

 ウェルスと呼ばれた大男は、どっしりと二人の聖術士の前に構える。

 その聖術士の一人、ローゼはウェルスに向かって手をかざす。


「"主よ、どうか守り給え。闇払いし、我が同胞を"」


 告げ終えるとウェルスの前に輝く文字たちが表れ、それは大きな盾となり巨体を覆う。

 聖術の基本型の一つ、闇絶つ壁(ディバインシールド)

 闇、それに連なるもの以外を通す壁を空間に固定する。

 人に固定し連動させることも、練度によっては可能である。今回は空間固定。

 無論耐久があり、壊れない訳ではない。


「……ウルフ種かよ……」


「次は我が身、気ぃ付けろ」


「分かってるって……」


 一方、先行したアーチェとデニーは音の正体である魔物を発見していた。

 デニーは近くに落ちていた石ころをそおっと掴み、投げる。

 おおよそ人が投げうるかどうかの境のような投擲。

 だが魔物は、それを軽々と反射で避けた。


「なっ──」

「やべっ──」


 15メートルはあった距離は軽々と跳躍で詰められ、一瞬の間に牙はデニーを捉える。

 とっさに腕で庇う。皮膚が魔物の牙に触れ、血を流し始めた時。


「離れろッ!」


 アーチェが間一髪、ロングソードの峰が魔物にたたき付ける。

 浮いていた体は吹き飛ぶが、魔物をすぐに身を翻し地に脚をつける。


「走るぞッ!」


 作戦通りにウェルスの元へ向かう。

 後ろは振り返らず、ただ己の脚を信じて。


「来た……!」


 地を駆ける音に、ウェルスが声を上げる。

 刹那、アーチェとデニーが闇絶つ壁に向かって飛び出した。

 すぐ後ろには魔物がデニーめがけて跳躍している。


「「うおおおおおおっ!」」


 二人は闇絶つ壁をすり抜け、ウェルスの元へ。

 魔物は闇絶つ壁を抜けられず頭を打ち付ける。


「今!」

「任せろッ!」


 ウェルスはその隙を見逃さず、魔物の頭蓋骨めがけて全力で振り下ろす。

 メイスは魔物のこめかみに入り、黒い血が溢れるように舞う。

 地面にまで叩き付けられ、魔物の顔はくしゃくしゃに歪み、断末魔も上げぬ間に絶命する。


「よーし……流石はアルベイド部隊の超新星、ウェルス様様だな」


「デニー傷見せて!」


「えっ……?うわああっ!」


 アリンが指摘するまで傷を付けられた事に気がつかなかったのか、デニーはそれを見るや悲鳴にも似た声を上げる。

 傷口を中心に皮膚は黒く染まっており、今も侵食し始める。


「"救い給え!光を以て、安らぎをもたらし給えっ!"」


 手の平に文字が形作られ、それは暖かな光となる。

 そっとその手は傷に添えられると、黒く染まった皮膚はみるみる元通りになっていく。

 聖術の基本型その二、闇の浄化と治癒能力をあわせ持つ癒し(ヒール)


「はぁ、良かった……」

「……すまん、油断した……アーチェがいなけりゃ死んでたかもしれねえ」

「いいだろ?俺たちはチームだ」

「たまには良いこと言うな」

「だろ?……たまには?」


 脅威が去り、主に男子が盛り上がっているのを尻目に、絶命した筈の魔物が音を立てずに立ち上がった。

 そして、砕けてへこんだはずの頭がみるみるうちに元通りになっていき、再び口を開いて襲いかかる。


「ガァッ!」

「──!?」


 魔物の声で初めて気がついた五人は目を見開く。

 完全に油断していた──


「ガッ──」


 だがそれよりも早く、剣が突き刺さる。

 断末魔を上げ、魔物は再び絶命する。


「魔物は浄化しなければ再生すると教えただろう! アリン、早くしろ!」


 声を上げたのはレギン。突き刺さった剣を抜きながらそう指示する。


「あっ、あっはい! すみません!」


「魔物はこれで最後だ、浄化が終わり次第速やかに帰投するように」


「了解しました! "光よ、闇を絶ちきり、この者にどうか安らぎを……"」


 聖術の基本最後の、思念浄化(マインド・バーン)

 この行程を外せば、魔物は死ぬ事ができないとされる。

 全員が理解した事を確認すると、レギンはその場を去っていく。


「浮かれすぎであったな……」

「ああ……レギン副長、魔物よりも早くなかったか……?」

「……まさか」

「魔物の浄化、終わったよ」

「デニー、魔物持ってきてね」

「ええ俺かよ!?」


 場面は、リネーラの家へ。

 五グループが無事帰投した後、それを見届けたレギンは帰ってきていた。


「あら、早かったわね」

「ああ……リーシャは?」

「ぐっすりよ。もう魔物はいないみたい」

「そうか……サルバはフェンリーの所か?」

「ええ」


 リネーラに確かめねばならぬことを聞いた後、ようやくレギンは息をついた。


「……魔物が来るたび、リーシャは苦しんでいる……」

「だがそれでも……俺には、俺達には必要なんだ……情けないことに」


 早く、争いが終わってしまえばいい。

 その言葉は思っていても、二人は口に出さなかった。




 コルト街、図書館にて。

 サルバとリネーラと寝ているリーシャの、騎士の誓いを密やかに見ていた女の子がいた。二階で。


「……リネーラさんと、リーシャちゃんと……ルーク街の……ここに来たってことは、やはり……」


 ちなみにここは、図書館兼彼女の寝床である。

 自分の家でこんな事をされれば、苦言の一つでも呈したくなるだろう。

 だが彼女は、サルバをここに連れてきたリネーラの思惑を理解し、自分に与えられた役割ロールをこなす。


「これとこれと……これかな」


 台を下りて、必要な物を探す。

 二つは本を、もう一つは──感慨深く鉄で出来たクリップにまとめられた、資料の束を手に取る。

 最後にもう一度台へ上り、カーテンからサルバ達を覗く。

 どうやら、リネーラは帰っていくらしい。


「……」


 女の子、いや彼女の名誉の為に18歳の女と呼称しておくが──じっとリネーラを見つめていた。

 何故か?その原因は、彼女の身長とリネーラとのある出来事に起因する。

 ふとリネーラがくるりと回って、寸分違わぬ角度で彼女を見つめた。


「っ──!?」


 視線の受け手はおどろき(拒否反応)を起こす。 

 彼女は、リネーラが苦手というわけではない。

 寧ろ、良き友人であり、信頼できる仲間であり、頼れる団長なのだが……

 とどめと言わんばかりに、リネーラは片目を閉じウインクする。


「あっ────」


 焦りか恐怖か、何かが甦ったのか彼女の足は台の上を滑ってしまう。

 当然、持っていた本や資料は宙に舞って──頭は地に落ちる。

 一方、トラウマを植え付けた当の本人は──


(照れ隠しかな?……やっぱりまだ、子供なのかもしれない)


 巻き込んだ事を後悔するように、気分は黄昏ていた。

 リネーラにとっては、急にカーテンに隠れたようにしか見えないので、仕方のない話ではある。


 で、トラウマとはなんぞや?というと……


「……ヒック」

「リ、リネーラさん?」


 酒場にて。リネーラの前だけ酒がある。

 それも、まだたくさん残っている。

 この時フェンリーは15歳。そもそも彼女は酒が好きではない。

 決して、身長のせいで頼めなかった訳ではないということをここに。


「りふぁ~……ちょっとこっち……きて」

「えっ、な、なんでですか?」

「きなさい」


 リファ、とはフェンリーの愛称である。

 フェンリー・ファレンシウス。その中間から由来は来ている。

 しぶしぶフェンリー、改めリファは向かい合っていた椅子を運び、彼女の横へ座る。

 はじまる。


「りふぁぁぁっ!」

「えっ、わっ──」


 両腕ごと体をがっちりホールドされる。

 そいでもって──


「かわいいわぁ……ちっちゃくて、けなげで、すなおで……むかしのわたしみたいで……」

「ええっ!?あっ、ちょっと……」


 モフモフ、スリスリと言うのだろう。

 それをjust do it!と強いられているかの如く、とにかくしまくる。

 それだけなら、まだ、恥ずかしいけれど嬉しいで済んだだろう。

 ……ここは酒場である。リネーラほどではないが、当然ネジが緩んでる奴等ばっかりなわけで。


「りふぁー!たかいたかーい!」

「わっ、わっわっ」


 そうじゃれてるうちに注目を集めてしまう。



「おーおー、俺もたかいたかいしてやろうか?」

「団長、完全にイッってやがる」

「飲みすぎたのさ……」

「団長が朝までああしてるに1000ゴールド」

「俺も朝までに2000ゴールド」

「おっちゃん、スイートロール一丁」

「ねえよんなもん」


 誰も助けてくれる気配すらない。

 リファはたまたまそこに居合わせた同期に目向ければ──


「……っ……くくっ」


 必死に笑いをこらえている最中であった。


「……あは、あははは……」


 最早笑うことしか出来ない。

 プライドをうちひしがれたリファは、その後朝まで団長にモフモフされ続けた。


 それは騎士団の間で語り草として、結構有名である。

 酒の一滴で酔った団長が、ひたすら新入りをおもちゃにした挙げ句、その事を覚えてないと抜かしたお話として。

 それはリファが、コルト騎士団の皆と打ち解けるきっかけになるのだが、それはまた別のおはなし……具体的には、全てが終わったあとに。


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