表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界転生 -反逆の救世主-  作者: ただのあほ
第一章
22/26

【サルバ総集編&四月馬鹿のおまけ】胸に焼き付けた灯

これは、2ヶ月もの間音沙汰なしであったことを危惧し、急遽これからの内容把握の為に作った、主人公サルバ視点の総集編である。

ずっと待っていてくれた人向けではありますが、主に行動原理が端的に描かれている為、はじめから続けて読んでくださっている方もぜひ目を通していただきたい。


おまけに関しては、次のお話がある場合は飛ばすことをおすすめしたい。

内容は4月1日に投稿する予定だったものの残骸でありますので、雰囲気は確実に壊れています。

 気がつけば燃え盛る街のなかだった。薄れ行く意識、焦げ臭い匂い、焼けただれた自分の体……このまま死ぬのだと直感しながらもなお俺は、人の声がする方へ手を伸ばし、一度意識を失った。

 次に目を覚ますと、自分を助けてくれたであろう二人の男女に囲まれていた。レギンさんという黒髪蒼眼の……狼? のような動物の耳と尻尾が生えた男性と、リネーラさんという金髪で翡翠のような瞳をした女性。

 彼らの自己紹介を聞いているなかで、俺は二人が気のおけない、いい関係なのだなと感じた。


 今度は俺が自己紹介をする番だった。……けれど、俺は自分の名前すらも思い出せない。他人に当たり前にあるものが自分にはないと気がついた途端、怖くて仕方がなかった。俺には、何もないと思ったから。


 どうして、俺は生きているのだろう……と。


 そんな俺に、リネーラさんは"サルバ"という名前をつけてくれた。今にして思えば、自分という原型を作ってくれたと言ってもいい。

 そして何も知らない俺に、二人はこの地で起こっていることを話してくれた。


 今この大陸は、"魔物"と呼ばれる化け物の侵攻によって脅かされていること。

 "魔物"を食い止めるため、人々は"コルト騎士団"と呼ばれるものを結成していること。

 そしてここは、"コルト街"と呼ばれる"魔物"に対抗するための街を模した前線基地だということ。魔物がいつ襲ってきても、おかしくはない。


 自分は、"ルーク街"という別の前線基地で倒れていて、そして、助け出されたのは自分一人だけ。他の遺体はおろか、避難の形跡も見当たらず、不自然であること。

 ルーク街で何があったのかを知るには、自分の記憶が鍵を握っていること。


 リネーラさんとレギンさんは、ルーク街での事を知りたいと言った。恐らくは魔物側の手口がわからない以上、探らない手はないのだろう。

 そして俺は……生きる目的が欲しかった。なんでもいい、空っぽのままでいるのは怖かった。だから、まずは助けてもらった恩を返すために、自分の記憶の手がかりを探すことにした。

 命の恩人に報いる……そこから始めていこうと思ったんだ。そして記憶も戻れば、やりたいことも、大切なものも、きっと見つかる。

 俺は、コルト騎士団に入ることを決めた。


 勿論、リネーラさんとレギンさんには感謝してもしきれない。この恩から逃げるなんて考えもしなかった。利害の一致ってだけじゃないのは事実だ。


 ……ここから、俺の記憶を求める旅が始まった。



 ◆



 まず俺は、この世界を知ることが必要だと思った。どんなに小さいことであっても──具体的には既視感でもいい。知って、自分の身に何か違和感が起これば、記憶についてもある程度の検討がつくんじゃないのかと考えたからだ。

 ちなみに俺の身体能力はそこそこあるらしく、倒れていたときには剣を持っていたらしい。それも重要な手がかりだ。

 そうしてコルト街を歩いていくなかで、俺は多くの事実を知る。


 "聖術"という、魔物を唯一とどめをさすことのできる力の存在。人に対しては傷を癒すということもできるらしく、俺はその力によって一命をとりとめた。

 "獣人"。人間に動物の耳や尻尾を付け加えたような見た目をしているが、それ以外外見には特徴の見られない人種。とは言っても身体能力は人間の自分よりも高く、とても敵わない。


 ……当然、良いことばかり知るという訳じゃない。


 人間と獣人は仲が良いものとばかり思っていたが、それはコルト騎士団の中だけでの話で、深い溝があるのだということ。


 聖術はすごい力だというのはこの身が分かっている。死の淵いた自分を助けてくれたのだから。そして、自分が救われたように、多くの人々が救われているのは想像に難くない。実際に、疫病が人間を襲ったときには聖術だけが頼りだったらしい。

 聖術は神にも等しかったのだろう。人々は聖術によって結束しつつあった。だけど、聖術を扱えるのは人間だけ……扱えない獣人は、人間とは違う獣人は恐れられ、忌み嫌われ……

 コルト街も、昔は獣人の街だったが……人間の手にかかっていた。聖術を信仰している教会には、獣人がどんな目にあってきたか分かってしまうような跡が残っている。……思い出したくもない。


 力に溺れ、それなしには生きていけないのは理解できる。だからといって、扱えない人を異端だとして殺すなんて……

 人を救う聖術。だが、その影には多くの犠牲があった。どんなものでも、結局は使う人次第で毒にも薬にもなるのだろう……


 この世界を見て回ってまだ二日目なのに、歴史を上からの目線で語ろうとするのは、少し畏れ多い。……ああそうだ、逆に悪いことばかりでもない。

 コルト街の人は本当に優しいんだ。それは俺に都合がいいってことでもあるのかもしれないけれど……魔物が攻めてくるかもしれない状況なのに、とても暖かかった。そしてその暖かさは、ルーク街の消えた人々にも当然向けられていた。

 結局は、みんな気が気でない。心のどこかでは、早く何かが分かればいいと思っている。


 なら、尚更みんなに報いなければならない。俺は、リネーラさんに良く似た少女、リーシャと、偶然外に出る予定だった聖術師のアリンと共に、俺の記憶が始まった場所……今は誰もいない廃街、ルーク街へと向かうこととなった。


 記憶を取り戻す。今はその道しか見えなかった。






 ◇おまけの残滓






 ここはコルト街の居住区の奥に堂々とある、聖術を信仰する教会の前。サルバ──もとい俺は、レギンさんとの訓練で傷付いた両腕を直すために来ていた。

 ちなみに、リーシャもいる。最近は本編でもあっさりと空気になりがちだが、扱いに困るからって可哀想だ。

 それはそうと、腕が動かないのでどうやって教会の分厚そうな扉を開けようかと悩んでいると、タイミングが良かったのか、誰かが勢いよく開けてくれた。


「あ、始めまして、だよね?」


 やけに上機嫌に頬笑む、銀の髪の女性。少なくとも年上だと思うほどに上品な顔立ちをしていて、きっちりと目の上にほどで切り揃えられた前髪と、黒い真珠のような瞳がおとなしそうな印象を植え付ける。

 長い後ろの髪は三つ編みでまとめられていて、白いシスターのような服がすらりと華奢な体をうつしだしていた。……こういうのは、見ると失礼だ……しっかり相手の目を見ないと。

 彼女は優しげな表情を崩さずに少し膨らんだ胸に手を当てると、自己紹介をしはじめる。


「私はアリン。アリン・エルトネスト。あなたは?」


「自分はサルバといいます。ちょっと訓練でケガをしてしまって……腕が動かないんです」


「それは大変! すぐに聖術で治さなきゃ!」


「あっ、ちょっとっ、痛い!」


 一見おとなしそうな女性、アリンさんはやけににんまりとすると、俺の手をいきなり掴んで教会へ引っ張っていく。活発な彼女に戸惑いながらも、人は見かけによらないものだなと密やかに性格との差異に興味が湧いた。

 教会の中はまるで光に洗われているかのように眩しく、アリンさんと同じようなシスターの服を着た人々による合唱が響いていた。この騒しくも美しい光景は修道院と呼ぶべきだろう。

 最早お決まりのように並べられた焦げ茶の長椅子には誰も座っておらず、光で良く見えないが祭壇の前で唱っているようだった。


「リーシャちゃんは、ここで待ってて」


「え……? わ、わかりました……」


 落ち込むリーシャに後ろ髪を引かれながらも、まるで十字架のような広間の壁にそって歩いていくと、やがて一つのベッドが置かれた部屋に連れてこられる。

 緑色の液体が詰まったガラス瓶が壁を覆い尽していて、薄暗いせいか怪しく光っている。ところどころに紫色をしたのも混じっており、一層不気味さを際立たせた。

 そんな部屋に、アリンさんと二人きり。しかもさっきまでとは打って変わって、やけに距離を置かれている。何か、変なことをしただろうか?

 必死になって原因を頭の中で考えていると、気まずさに耐えきれないというように彼女が口を開いた。


「……じゃあ、全裸になって?」


「……え?」


 アリンさんのあまりにも突拍子のない発言に、思わず俺はすっとんきょうな声を出した。冗談だとは思えなかった。目線をあからさまにそらして、恥ずかしそうにしているから!

 状況がつかめずに口を開けていると、アリンさんは口に指を当てて恥ずかしさを紛らわしながらも、もじもじもごもごと、徐々に声を小さくして言う。


「知らなかったの? 聖術って全裸にならないと、その……かけられないんだよ……?」


 驚愕に表情を歪ませながら、な、何ィィィィ!? と俺は心の中でしこたま叫んだ。いや別に露出趣味があって喜んでいるわけではなくて、すでに気を失っている間、リネーラさんに聖術をかけられているからだ。

 つまりは……その、一度見られているということだ。全部。火傷が全身に回っているのならば……いや、あれは回っている。確実に。その、ケツの穴まで……見られた。

 そして今度はなんだ!? 脱げと言うのか! 初対面の異性を前にして! ……いや待て。俺は今、なぜここにいる? レギンさんとの戦いで腕が動かなくなったからだ。


 ……脱げない。ということは、脱がしてもらうしか……本気なのか? すでにセクハラという域を越えて、最早恋人同士がやるようなことじゃないか……!

 だが、しかし……ここは恥を捨てて頼むべきだ! 一刻も早くルーク街に行かなければならない! 犠牲になった人々の為にも、この程度、乗り越えられなければだめだ……!

 覚悟を胸にしてもなお恥ずかしさが上回るのか、俺はたどたどしく声を上ずらせながら、アリンさんに察してもらおうと言葉を漏らす。


「う、腕……動かないんですけど……その」


「え……? あ、そっか……こういうの、初めて……?」


「は、初めてだとか言わないでください……!」


「ご、ごめんね……えーと、じゃあ……脱がすね?」


 まずい、このままでは……! それ以上行くと二度と小説家になろうで生きてはいけなくなる! ノク○ーンに避難しなければ一生出禁だ! やめてくれッ!

 恥ずかしさに思わず顔を真っ赤にして目をつむると、突然アリンさんは俺の頬をつねった。思わぬ不意打ちに「ほへ?」と間抜けな声が出てしまう。


「残念。今日はエイプリルフールなの」


()? えいふりふふーりゅ(エイプリルフール)?」


「そう、四月馬鹿。ウソをついてもいい日で、さっきのもウソ」


「……」


 目をしばたたかせていると、アリンさんの顔には、引っ掛かったな? というのがあからさまにかいてあるのが分かった。俺は、この大陸にはそんな文化があったのかと感心する一方で、ウソでよかったと安堵していた。


「でもさっきのは……うぶすぎじゃない、かな……?」


「……すいません」


 そうかもしれない。これまで俺は、人に聞いた話をすべて鵜呑みにしてきただけにすぎなくて、結局のところは……


「あいや、落ち込まないで? これを飲めばちゃんと治るから……」


 励ますようには言いながら、アリンさんは紫色の液体が入った瓶を俺に見せてくれる。そして瓶の尖った蓋を引っこ抜くと……


 ぼふん、と一気に紫色の煙が弾けて、俺の視界を埋め尽くす。次に飛び込んできたのは鼻をつんざく、いや鼻がもげそうになるほどの異臭。

 刺々しく、鼻の中からいくつもの針が飛び出すような匂い……俺がげほっげほっと咳き込んでいるうちに、いつの間にかアリンさんはいない。

 どこに行ったのかと思えば、「あははははっ!」と、ここが教会にも関わらず高笑いをするアリンさんの声が扉の外から聞こえた。……その元気さといったら、いきいきと走っている姿が容易に想像できる。


「……」


 俺の腕は、やはりピクリとも動かない。……虚を、突かれた思いがした。


 よくよく考えてみれば、彼女はとても不器用なのでは? と思った。聖術なんて便利なものを今まで一度も使われていない人なんて、早々いないだろう。あんなハッタリが通用するとは思えない。

 いや待て……彼女は俺を知っていた? 目の前で一度も聖術を使われていないことを知っていたとして……もっと言うなら、俺が記憶喪失だと言うことを知っていたとしたら?

 自意識過剰で流石に妄想も甚だしいと、俺はそれ以上考えないことにした。……いやでも、見ず知らずの人間に、本人すらも恥ずかしい冗談を言う人がいるのだろうか?


 もしかすると、俺についてなにか知っているのかもしれない。俺は、アリンさんを追いかけることにした。


 続くわけには、いかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品を気に入ってくださった方は、よかったら感想やアドバイスなどをお願いします。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ