表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界転生 -反逆の救世主-  作者: ただのあほ
序章
2/26

記憶と剣と悟り世代

「……分からないことだらけだ」


 ガラスの破片を拾い集めながら、サルバは次々に疑問を思い浮かべる。

 ゴーン、ゴーン、という鐘の音が二回鳴り響くと同時に、吹き抜けの窓から慌ただしい声が聞こえる。

 だがサルバは構わず、思考の海へ身を投げた。


 レギンの言う、ルーク街という名前。

 俺と何か関わりがあるのだろうか。でもなければ、わざわざ名を出す必要もない。

 俺は、ルーク街で、倒れてた?


 腕は焼け爛れていた筈なのに、綺麗さっぱり治っていて包帯なども巻かれていない。

 長い間眠っていた?いや、ならあんなに動ける筈は……


 魔物と呼ばれた化け物。

 レギンやリネーラは特に驚いた様子はなかったし、この世界ではありふれたものなのだろうか?

 だとすれば、命がいくつあっても足りない。


 そしてあの時は必死だったが、その化け物に俺は対抗しようとしたこと。

 脳裏に戦い方が浮かんできた。記憶を失う前は、あの化け物と戦っていた?


(……ダメだ、何も思い出せない)


 ガラスの破片を桶に入れる度、カチャリと音が鳴る。

 サルバの記憶の欠片は、うんともすんとも言ってくれないようだ。


「お待たせ!」


 箒とちり取り、桶とそれにかかった雑巾を持って参上する彼女、リネーラ。

 青年位と言える外見であり、俗に言う金髪碧眼。

 深緑で長袖のワイシャツ、長いスカートには花柄のエプロンが巻かれている。

 ワイシャツが描く体のラインは、一つのさざ波を描くよう。

 要するに、彼女の胸は豊満であった。うん。


「ありがとう。後は私がやっておくわ」

「いえ、手伝います」


 そう言いながら雑巾を手に取り、水で濡らして、絞って、魔物の血を吹いていく。

 余りにも淡々とし過ぎていたが、リネーラはそれを咎めることは出来ない。

 この子は本当に何も知らないのか、自分達のように慣れていたのか。

 いずれにせよ、リネーラは義務を果たさなければと考えた。


「……ここはコルト街っていってね、ここからちょっと北にある、ルーク街で大きな火災が起きたの」


 静寂を破る。


「街は全焼して、生きていたのはあなた一人だけ。住民が逃げた形跡も、遺体すら見付からなかった。

 それもただの住民じゃない。全員、さっきあなたを襲った化け物と戦える人達。

 そして、あなたの事を知っている人は……少なくとも、ここにはいない……私が断言できるのはここまで、かな」

「……俺からも、一ついいですか」


 記憶もない。行く宛もない。外には魔物が居るかもしれない。今は割り切る他ない。

 サルバの中で、最優先すべきことは一つだけだった。


「掃除とか、火事……やれることは、なんでもします!だから、ここに住まわせては貰えませんか」


 リネーラは一瞬、願ってもないような顔をする。

 そして、こう続けた。


「そうね、でも……割り切るには、まだちょっと早いわ」


 掃除を終えた後、血で汚れた服を着替えたサルバは、外へ出る。

 リネーラと……年齢は違えどやけにリネーラに似ている、いや瓜二つレベルの少女と共に。

 違う事と言えば、レギンと同じく動物の特徴を持っているくらいか。


「おいで、リーシャ」


 リーシャと呼ばれた少女は、リネーラの足にサッと隠れる。

 ……サルバをそこから見つめながら。サルバからの第一印象は、人見知り?であることは間違いない。

 よく見れば手は震えているし、目は怯えているようにも見えたので、サルバはその少女に干渉するのはやめようと思った。


「子ども、ですか?」


「ええ、私の子ども。リーシャっていうのよ、よかったら仲良くしてあげてね」


 


「はい、忘れ物」

「これは──」

「あなたを見つけた時に、持ってたものよ」


 リネーラは魔物が襲ってきたときに抜いた、黒い剣を差し出す。

 ──あの時……やけに馴染んだ。これも記憶の1ピースかもしれない。

 サルバが剣を取った後、リネーラはこう告げる。


「一応、持っていきなさい。ここもそんなに安全じゃない」

「……肝に命じておきます」


 返事を聞いた後、リネーラはニコッと笑いながら、リーシャを抱き上げて玄関のドアを開ける。


「じゃあ、付いてきて」


 玄関のドアを通ると、やはり街という空間が広がっていた。

 石畳の道。辺りを照らす街灯。人は居ないが、酒場。外にもテーブルと椅子が並べられている。

 横には鍛冶屋のような、剣と金槌が交差する看板がある、大きい建物。

 後ろを振り返れば、木造二階建ての家が並んでいる。

 月が出ているというのに、恐ろしく明るい。


 けれど、その街はレギンのように武装した人々が巡回していた。

 リネーラが近付くと……


「お疲れ様です!騎士団長殿!」

「はい、お疲れ様」


 と敬礼するし、この街も大きい壁で囲まれていて、その上に、目を凝らせば人が見張っていた。

 その側には、鐘も。冒頭で鳴っていたのはあれである。

 ここも、ルーク街のように魔物と戦える人達が集まっているという印象を受ける。


「先に言われちゃって、びっくりしたわ」

「何がですか?」

「あなたは、ルーク街で起こった事を知っているかもしれない。だからそれを思い出すまで、ここに居てもらおうって切り出そうとしたのよ」

「願ってもない……事だ」

「ええ。幸い身のこなしはいいようだから、できればコルト騎士団に入って貰おうと思って」

「まさか、団長殿って……」

「ええ、私よ?」


 ──自分の顔を見る限り、歳はそんなに変わらなさそうなのに……

 ──もしかして、結構歳食ってたりするのか……?

 呆気に取られながら、そんな失礼な思考を捨てて訪ねる。


「身のこなしはいいようだから、って……もしかして、試してたり?」

「……ごめんなさい」

「あ、いえ。騎士団長ってほどの人が側にいるなら、万に一つもなかったと思いますから」

「そう言ってくれると助かります……」


 騎士団長と言いながら、剣は持ってないのだが。

 ──……いやいや、そんな武闘派な訳が……あるのか?


「さ、着いたわ」


 歩きながら喋っていると、一つの建物の前に来ていた。

 リーシャは落ち着いたのか、寝息を立て始めている。サルバに怯えていた訳ではなかったようだ。

 看板には謎の文字があったが、サルバは不思議とそれを図書館と読み取った。


「……リネーラさん、俺は騎士団に入れますか?」


「勿論。訓練兵からだけれど、すぐに実戦もできるでしょうね」


「……俺は、失った記憶を取り戻したい。それがどんなに小さいものだとしても。

 だから、誓いをくれませんか」


 剣の柄をリネーラに向ける。リネーラはそっと剣を引き抜く。


「私は、あなたを利用する。突然居なくなった5000人の為に。

 ……本当にいいの?ここで雑用をこなすだけでも……」


「ここで閉じこもってても、思い出せるとは思えませんから」


「意思は硬いみたいね……では、騎士の誓いをここに」


 サルバは、跪く。

 リネーラは引き抜いた黒い剣を、そっとサルバの肩の上に置く。


(なんじ)、その身に強き意思を。闇は見つめている。汝の望みを。光は見つめている。汝の正義を。

 世界に平穏をもたらすために闇を払い、共に生きる人々を、救う覚悟はあるか」


「……はい」


「ならば仕えよ、人々の織り成す世界に。(あざむ)くことなく、裏切ることなく。そして、汝もその中にあるのだということを、ゆめ忘れるな」


 言葉を終えると、肩に乗っていた剣は目の前へ向けられる。サルバは、剣に口づけをした。

 ここに果たされた。誓いだろうか、呪いだろうか?

 リネーラはサルバの持つ鞘へ剣をしまう。


「ありがとう。今この瞬間から、あなたはコルトの騎士よ」


「こちらこそ、ありがとうございます」


 余計な言葉は、何一ついらない。そんな景色が、そこには広がる。


「じゃ、ここでお別れね。多分鐘で起きてると思うから」

「……ここで、俺の記憶は思い出せるんですか?」

「……わからない。でも、前例がない訳じゃない。あ、後……」


 リネーラは何かを思い出したかのように、サルバに小声で囁く。 


「外見の事だけは、絶対イジっちゃダメよ」

「……?わかりました」

「じゃあね。終わったら戻っておいで」


 何かを匂わせる言葉を残して、リーシャは踵を返す。

 サルバは、まだこの言葉の意味を知らない。むしろ、知らない方がいいが。


 時は冒頭へ戻る。

 レギンは部屋を出た後、団長の代わり的な事をしていた。


「鐘を二回鳴らせ───ッ!」


 レギンが大声で叫ぶ。鐘が二回鳴ると、さっきまでがやがやとしていた酒場が静まり帰る。


「魔物が出た!それも住宅街にだ!起きてる奴等で抜け穴を探せ!

 訓練兵は聖術士2人、戦士3人で5つ分隊を編成しろ!壁外で見回り兼実戦訓練を行う!監督は俺がする!

 伝令!聖騎士団に報告!魔物が出た、侵攻の兆候が見られると知らせろ!」


 一瞬にして街は慌ただしくなる。そしてレギンの前に、起きていた25人の新人達が集まる。

 数はぴったり。夜に起きている訓練兵はこれだけだと、レギンは把握している。


「ではこれより実戦訓練を行う、覚悟は出来たか?」

「はい!」


 全員がその問いに答える。レギンは訓練兵達の顔を見渡し、それが真であることを理解すると、


「──よし。ついてこい!」


 外へ出る、門へ足を進めた。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品を気に入ってくださった方は、よかったら感想やアドバイスなどをお願いします。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ