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世界転生 -反逆の救世主-  作者: ただのあほ
第一章
18/26

大きすぎた聖術の力【中編】

 薄暗く、後ろめたい雰囲気が立ち込める会議部屋に風を吹き荒らしながら飛び出だしたリファの目を、まばゆい日差しが照りつけて眩ませるが、直後、赤黒い瞳孔が横に縮んで、光で見えなくなっていた景色をうつしていく。


 そのまま飛び立ったと見せかけ、西へ向かって両開きになっている窓の横で、リファは灰色の城壁に背を預けながら、ちょうどよくあったねずみ返しのようなわずかな足場に乗って身を潜めていた。

 下は普通に落ちたら死んでしまうというほど地面が遠く、城壁の上から慌ただしく聞こえる足音と声は、まるでこれから飛び降りる者を見物する野次馬のようにも思えた。だが、そんなことは彼女にとってどうでもいい。

 リファは、マナ切れは嘘だったのかと怪しまれることに内心ひやひやしていた。コルト山脈辺りにあるマナの濃度は少なくともむやみに魔術を使えないほど低い。


 何故なら、ここは魔物と戦う最前線。立ち向かう為には無論聖術や、時には魔術なども必要であるし、移動手段に魔車まで扱う。四年間戦い続けてきたお陰で、大気中におけるマナの枯渇が始まっていた。

 部屋に聖術士がいれば気が付かれていただろうな、とリファは一時の反省をしながら視線を落とし、今度こそ本当にマナがなくなってガス欠の身体を見つめる。


 リファには黒ずくめが捕らえられる場所の情報が必要だった。解放するために。だが、少しでも感付かれてしまえば意味はない。だから、レオンとアルベイドの心を読むことを決めた。

 今こうして隠れているのも、感情は否が応でも伝わっては来るが、考えまでは集中しないと読むことはできないからだった。目の前で突然固まっては、当然怪しまれる。


──心を読む力を、嫌っている癖に……


 リファは、力を醜いと思うが使い潰しはする自分を否定するように眉を潜めて、心底失望した顔をする。しかしこんな顔をしたところで、自分の汚さが消えるわけではない。今は自分のことをよそう、と迷いを振り払って、とにかく考えを整理した。


 黒ずくめはリファを"闇に怯える子ども"だと勘違いしている。わざと逃がして、後ろにいるであろう集団に特徴を報告させてしまえば、これからはリーシャではなくリファを狙ってくれる。

 彼女を敵の手から遠ざけることができる。代わりに、一人孤独に戦うことになっても、誰にも知られず死ぬことになっても、背負うのは自分だけでいい。

 これが、リーシャちゃんへの償いなんだ──向き合うことを決めたリファは、何も考えないよう心を空っぽにし始め、ただ心を読むことだけに専念したが……どうしても頭の中に様々な憶測が浮かび上がってきた。


 黒ずくめを逃がす理由はもうひとつある。何故獣人を受け入れているコルト騎士団を敵に回すようなことをしたのかが気掛りだった。彼も獣人であるはず。種族の団結に亀裂を入れるようなことは、他の獣人、ひいては故郷であろうエイン王国への裏切りにも繋がる。

 リファは、黒ずくめの後ろにいる集団がどんなものであるかをある程度掴みかけていた。使い捨ての駒のように獣人を扱うのは、いかにもロードライトの差別主義者がやりそうなこと。脅しなんて、人質を取ればいくらでもできる。

 獣人を憎む獣人という考えもあるにはあったが、だとすれば黒ずくめはリファに強い怒りを見せるはず。それを見逃すほど心を読む力は甘くない。


 それにもし、本当にロードライトが関与していないとなると、肝心の"闇に怯える子ども"というのをどこで知ったのかが、リファには説明がつかなかった。

 預言者。ロードライトの王城に隔離される形でひっそりと佇むご老人であり、世界の運命を左右する神託を伝える人間。魔物の襲来も8年前に預言されたからこそ、防衛の基盤と人間と獣人の関係が整い、コルト騎士団を結成することで今の今まで耐えることができた。

 その預言の力で、リーシャが"闇に怯える子ども"と呼ばれ伝えられたのではないかとリファは睨んでいたから。彼女は、人類の命運を左右する魔物との戦いにおいて、戦局を傾けさせるだけの力がある。


 であれば、預言の対象には充分なりえると考えてはいたのだが……リファは預言者が絡んでいると見るのを、正直やめたかった。

 戦局を傾ける人材を少なくとも二人は知っていると言い訳しながら、せめて確かめるまでは認めてはいけない、しかし否定してはいけないと、レオンとアルベイドには伏せてしまったのだ。

 もしかしたら、誰も知らない別の可能性もあるかもしれないと思うほどに、預言がなされたという事実をリファは認めたくはなかった。


 だが少なくとも、黒ずくめは子どもの特徴も知らない、だけど何が出来るかは知っている。噂などは立たないよう力の存在は今の今まで隠してきたはず。

 代わりにリーシャを団長の子供だということにし、コルト騎士団の恥として周囲に禁句扱いにまでさせてきたのに、こうもあっさりと知られてしまっては、リネーラに顔向けもできない。

 おかしい。子供のことを騎士の者達は語りたがらないとはいえ、知ってはいるはずなのだ。なのに伝わっていないということは、裏切り者は確実にいない。ますます預言によるものとしか考えられなかった。


 そして、魔物との戦いをまるで関係ないように扱うことも、ますますリファの想像に現実味を帯びさせていく。争いから遠く離れ、高みの見物をしているロードライトの奴等には事の重大さがきっと分からない。そのくせ、興味のないはずの預言をもっとも聞きやすい立場にある。

 このエイン東城壁が落ちたとき、真っ先に魔物が溢れて被害を被るのは、当然東側に位置するエイン王国なのだから──それが狙いか、と考えが至ったとき、リファは思わずまぶたに力を込めて怒りを現した。

 きっとコルト街を焼き尽くした15年前よりも、もっと獣人を殺すつもりなのだ。獣人が獣人を殺したという事実で騎士団に疑念をもたらし、ついでに魔物との戦いの要、"魔物を見つける力"を持った獣人を標的にする。それも子どもと分かれば、さぞ殺しやすく一石二鳥と思ったのだろう。


 リーシャの特徴を知りえない以上、ロードライトの王位継承争いや政略に巻き込まれているという線も消える。彼女の金の髪は、何よりロードライトの王族の証。


 リファはこんな考え方は嫌だったが、たった一人の死でも、戦場が瓦解する可能性は十二分にある。しかも、魔物側は隕石による奇襲というカードさえ切れば騎士団を挟撃できるし、混乱させて戦線をも乱せる。"魔物を見つける力"という厄介な代物がなければ。

 偶然にしても、タイミングが良すぎる。しかし魔物側の仕業なら、リーシャが怯え、サルバが動揺し、付いている使い魔が伝えてくれるはず。


 いずれにせよ、黒ずくめの後ろだては大きい組織に違いない。敵を逃がすリスクを犯してでも、嘘の情報で相手を混乱させる価値はある。その代わり、もし他にも敵が紛れ込んでいるとすれば、黒ずくめ以外を生かして返すわけにはいかない。

 リファの直感に過ぎないが、ロードライト王位継承権を持つほどの重要な人物である、レオン王子も動いたということは、やはり、獣人を排斥しようとする者達の動きと狙いを察知していたとも考えられる。

 だとすれば、リーシャを頼むとわざわざ忠告してきたのにも合点がいく。要するに、「敵は自分でなんとかする」ということ。つまりは──レオン王子の元へ行けば、残りの黒ずくめの仲間とも必然的に出合う可能性が高い。


 今リファがすべきは、潜り込んだ不届き者を一人残らず始末し、リーシャとアリン、サルバを守ること。その後、交渉に応じれば黒ずくめを解放すること。


──ごめんなさい。レギンさん、アルベイドさん


 リファは心を読むことに集中し、肉体の感覚や自分の目的すらも一瞬の間、頭から手放していく。卑怯な真似だとは分かっていた。

 しかしレギンも鎧の大男も、何だかんだでリファにとっては信頼の置ける人たち。影で人間のことを悪く言っていたり、実は心ない人物だったということはない。きっと理解を示してくれるはずだ、とたかをくくっていた。

 でもなければ、この受け入れがたい力を使うことは出来なかった。自分を壊した、憎むべき力なのだから。


 やがて、様々な感情がリファの心を通っていく。求めているもの以外には触れないよう必死に心から追い出していくと、パズルのピースがはまるよう、求めていた答えが入り込んできた。


"確か、東城壁の地下に独房があったはず……"


 黒ずくめは、きっとそこに閉じ込められる。リファは聞こえた声をたどるようにして探っていくと、独房へたどり着くまでの道から、石に囲まれた暗くて冷たい部屋の記憶まで鮮明に入ってきた。

 必要な情報が手に入ると、リファはなくしていた五感を取り戻し、現実を知覚し始める。気がつけば汗が頬を伝っていて、任されたことはやりとげなければ、とローブのすそでぬぐった。

 黒ずくめがそうぬけぬけと飼い主の元へ帰ってくれるとも思わないが、選択肢は多い方がいい。思いながら、ゆっくりと足を動かそうとしたそのとき。


"ずるいよねえ。隠し事はするくせに、こっちの心だけは読むなんてさ"


 今度は、鎧の大男の何気ない声が聞こえてきて、心の奥がずきんと痛んだ。自分は人の心を弄んで、そのくせ他人とは向き合わない、卑怯なやつだから。

 リファは心のどこかで考えないようにしてきたことを突きつけられたような気がしてきて、今まで逃げてきた自分が嫌いになりそうでたまらなかった。

 だが、懺悔なら後でいくらでもできる。今優先すべきは自分のことではない。しっかりしろ、フェンリー・ファレンシス──そう自分にいい聞かせながら、音を立てないようゆっくりと前へ身を投げ出す。


 確かにリファを支えていた足の力が抜けていき、靴裏がわずかな足場から離れていく。そして、体はみるみるうちに遠い地面へ引き込まれた。

 落ちていく途中から気持ちの良い風が全身を包み、被っていた魔女帽をふわりと持ち上げるが、しかしリファは小石が降るかのようにローブをなびかせ続けながら真っ直ぐ地面へ進んでいく。

 緊張をかき消すようにすうっと息を深く吸い込むと、自分が死ぬかもしれない地面を堅く睨み付けた。


──やっぱりあった……!


 急加速し、気持ちの良かった風が激しく肌にピリピリとくる中で、リファは地面に残っていた青い光の粒たち──マナを捉えて手を伸ばすと、彼女の身体のなかに引き寄せられて、溶け込むように消えていく。

 そして身をひるがえし、遠退いた魔女帽と今まで背にしてきた青空を真っ直ぐと見つめ、自分に活を入れるように叫んだ。


「風よッ!」


 地面にぶつかる寸前で怒鳴り声と共に後ろから吹いた、押し寄せる壁のような風に背中を押されて、リファは一瞬浮き上がる。直後、あとからひらりと舞い降りた魔女帽を手に取ってくいっと引っ張り、片目を覆い隠すほどに深くかぶり直した。


 ついには足をつけないまま、リファは風に乗って空へ舞い上がる。ところどころ西を遮っていた山脈よりも高く。さっきまでいた東城壁すら、手のひらで覆えるほど小さくなっていた。


──レオン王子……! 何処に……!?


 心のうちでわからないことを聞いていても始まる訳がない。だが、心を読もうとするとぬぐったはずの汗が再び吹き出て、全身に寒気が走った。

 動揺はやがて目に見えるようになり、ところどころリファを支えている風が揺らぎ体勢が崩れていく。


──恐い……! でもっ!


 自分のことは、今はどうでもいいと捨てたはず。震える手をぎゅうっと握りしめて、目尻を上げる。

 リーシャとアリンを、頼んだ。あのときの声を探すために、リファは空を引き裂くよう西へ向かって、高く上げた身を再び投げた。

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