File,8
こんばんは。
あと三、四話で第一節が完結しそうです!
勉強と両立(?)しながら頑張っています!
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
「お前とこうやってケンカすんのは久しぶりだな」
「そうだなストルス。長年の怒り、ここで全部ぶつけてやるよ」
昨日に続き、ここは第六闘技場。
今は、ストルスさんと葵さんが模擬戦……という名の大ゲンカを始めようとしている。
何でこんな事になってしまったのかは、今朝に遡る…。
――――――
朝、いつもの大きな鐘の音で目が覚める。
病院にいた一週間の間の生活が染み付いてしまい、六時といういたって常識的な時間に起きてしまう。
そのまま朝食を取って服を着替え、一階にある葵さんの店舗に顔を出す。
これがここに来てからの日課だった。
まあまだ五日目だけどね…。
今日も挨拶を済ませようと一階へ降りたが、いつもと様子が違った。
騒ぎ声が外の廊下まで聞こえてきている。
声からして、ストルスさんと葵さんだろう。
あ、朝から何してるんだろ……。
でも、二人の声は尖っているようにも聞こえた。
とりあえず中を確認するために、恐る恐るドアを開けた。
案の定、二人は喧嘩してるようだった。
「別にいいじゃねえか! 人一人増えるだけだろ?」
「お前達二人でも苦労してるのに、対竜戦初めての素人を守り抜くのは無理があり過ぎる」
「そこはお前の仕事だろ! なんとかしてくれよ!」
「なら防御魔法くらい自分でかけてくれ!」
ストルスさん...、僕の事話してくれたんだ。
そう思うと、嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてきた。
「経験しなきゃわかんねえ事だってあるだろ! 対竜戦なんてそんなもんじゃねえか!」
「だったらその豊富な経験値を、自分の支援魔法に回せと言っているんだ!」
そ、それにしても二人が喧嘩してるところって初めて見たな...。
目の前の光景が何故か受け入れ難くて、知らず知らずのうちに集中して耳を立てていた。
そんな事する前に止めに入ればよかったのに、今の僕にはドアの奥へ足を踏み入れる勇気がなかった。
そうやって二人の言い合いに聞き入ってしまい、後ろから近づいてくるもう一人の存在に気が付かなかった。
「白夜、そんな所で何してるの?」
「え!? う、うわぁぁあ!!」
突然現れたカレンに驚いて、思わず声を上げてしまう。
そのまま体勢を崩し、大きな音を立てて倒れ込んだ。
さらに倒れ込んだ先が、運悪くドアの方向だった。
今も喧嘩が行われている部屋の中へ入ってしまった…。
その中に割って入った僕に、二人の視線が痛いほど突き刺さる。
「あ…、えっと………」
どうしようどうしよう………。
焦りから発する言葉が出てこない。
でもそんなことも知らないカレンが開いたドアから顔を出した。
「おっはよー! …ってアレ? 何か皆元気ないね」
カレンのその元気の良さは見習いたいよ…。
でも、カレンの登場で場の空気が緩んだように感じた。
逃すまいと、すかさず仲裁に入る。
「あ、あの…二人共…喧嘩は良くない……よ?」
途切れ途切れだけど言えた。
そんな僕の気持ちが伝わったのか、二人の顔にも笑顔が見えた。
「まあ、それもそうか」
「ちょっとやり過ぎた感はあるよな」
これで一段落ついたかな…。
と、思うのもつかの間カレンが一言。
「なになに! 二人で喧嘩してたの? あたしも交ぜてよ!」
反応したのは葵さん。
「お前には関係ない…、とは言い切れないか…」
「わーい! やったあ……ってなんでそんなに悲しそうにするの!?」
「いや…、お前もこんなバカと同じ部類なのだな…と…」
ストルスさんを指さして言う。
それにまたストルスさんが突っかかる。
「おい葵! バカってなんだバカって!!」
「ねえ葵さん! なんで!? なんでよぉ!?」
また、乱戦が…始まる……。
でも今回のはすぐに終わった。
「あーもう、一度話し合って決めよう。下に集合してくれ」
そう言いつつ店の奥へと姿を消した。
「ねえねえストルスさん、何の喧嘩してたの?」
「いやもうそれがよお……」
葵さんに渋々賛同した二人は、何かボヤきながら店を出た。
その二人に続いて僕もその場を後にした。
五日前と同じ、葵さんの作業場にて座っている。
待っていると葵さんが遅れて入ってきた。
さっきまでとは違い、いつもの服装だ。
入ってくるやいなや、葵さんは口を開いた。
「今回集まってもらった訳なんだが…」
「白夜を本格的に狩竜人として対竜戦に連れて行きたい」
葵さんの言葉に被せてストルスさんが言う。
「まあ、そういう事だ」
葵さんは大きくため息をついて、腕を組んでいる。
そのまま続けて、
「私は反対なんだが…、どう思う?」
明らかに僕の方を見て問いを投げる。
ぼ、僕は……。
答えを述べる前にカレンが先を越す。
「あたしはさんせー!」
「お前の意見は知らん。私は白夜に聞いているんだ」
その一言にカレンは、頬を膨らませてご立腹のようだ。
「もう! 葵さんの意地悪!」
捨て台詞とともにイスに座って、黙り込んでしまった。
あほ毛もピンッと立っている。
そんな事も気にしていられず、葵さんがもう一度問い直す。
「で、どうなんだ? 白夜」
「僕…は……」
正直なところ、行きたい。
でもまだ早すぎると思ってしまう。
普通の人が狩竜人になると最低一ヶ月は模擬戦を繰り返すらしいから、どうしても抵抗感がある。
そんな僕にストルスさんが、
「お前は大丈夫だぜ。なんせ禁忌保有者なんだしよ!」
力強く励ましてくれた。
「だが白夜の禁忌は、『視認すること』で発動する条件付きなんだろ? だったらおのずと弱点だって現れる」
「じ、弱点ですか?」
話は逸れているけど、ちょっと気になるな。
「私はまだお前の禁忌を直接見た訳じゃないから断定はできないが、人間の視界以上の、それこそ視認出来ない場所には可視の禁忌は発動しないんじゃないかと思うんだ」
た、確かに…。
そこまで考えるに至らなかったけど、そうかもしれない…。
と、同じことを思ったのかストルスさんが葵さんに言った。
「だったらお前が白夜の視界をカバーすればいいじゃねえかよ」
「だからそれをするにはお前達の支援魔法やらを削らないと出来ないって、さっきも言っただろ…」
「大丈夫だ、死にゃしねえよ」
「その過信でどれだけ人が死んでると思ってる…」
危うくヒートアップしてまた喧嘩になるところだったけど、今回は葵さんがあまり乗り気じゃなかったみたいだ。
そして、質問はやっと僕のところへ戻ってきた。
「とりあえず、死ぬ覚悟はできてるか?」
「はい、出来ています」
勢いで返しちゃったけど…、大丈夫かな…。
即答されるとは思っていなかったのだろう、驚きの表情を浮かべる葵さん。
「な、なら…、考えてやらなくもないが…」
え、いいの!?
今の口実だけで地球に行けちゃうんですか!?
「だがまあ、ストルスやカレンがもっと防御、支援にまわってくれれば、の話だがな」
やっぱりそう上手くはいかないですよね……。
「もっと火力出せるように支援してくれれば、の間違いじゃねえのか?」
喧嘩ごしにストルスさんが言う。
「おいストルス、いい加減にしないと私も怒るぞ?」
「ハッ、お前が切れたところで何も変わんねえよ」
二人の目が、電撃を帯びたように轟いている……。
「なになに!? 模擬戦するの!?」
カ、カレン!?
葵さんに凹まされて黙り込んでいたカレンが急に飛び出してきた。
コレ…、前にもあったな……。
そのカレンの提案に二人は不敵な笑みを浮かべていた。
「いいこというじゃねえかカレン」
「闘ってもいいが、痛い目をみるぞ?」
「どっちが」
「あの……お二人共…、僕が地球へ行く話は…」
喧嘩を止めるべく話を元に戻そうとするが、
「そうだ、これで勝った方の言い分を通す事にするか」
「いいじゃねえか、お前もなかなか分かるようになってきたな」
返って戦闘心を煽ってしまった。
「よっしゃ! そうと決まりゃ早速行くぞ!」
「第六を予約しておくから先に行っててくれ」
「わーい! 二人の模擬戦だぁ!」
そのまま、皆ノリノリで中央塔へと足を運びだした。
――――――
そして、今に至る。
ちなみにもう僕とカレンは闘技場の外、廊下に出ている。
まだ始まっていないようで、二人は何か話し合っているみたいだ。
「うわあ、楽しみだなあ!」
心底嬉しそうな面持ちで二人を見つめるカレン。
くるくる回るあほ毛を見ても、その感情が読み取れる。
「そんなに楽しみ…なの?」
「だってあたし、模擬戦はしたことあるけど二人で戦うとこは見たことないもん!」
あー、でもそうかもしれない。
確かに、ストルスさんが他の人と戦うところって見たことないな…。
それに、葵さんと戦ってる姿も見てみたい。
そうこうしているうちに、模擬戦は始まったらしい。
ストルスさんの叫び声とともに大きな爆発音が聞こえた。
葵さんが魔法を発動したみたいだった。
ストルスさんの後方から砂塵があがっているのを見ると、魔法は直撃しなかったらしい。
大事なところ見落とした……。
「ストルスさんってさ、いっつも叫ぶんだよね」
さっきより一層輝いた目で見つめるカレンが言う。
僕と模擬戦するときもそうだったかも…。
反応はせずに模擬戦に集中する。
二人は魔法を打ち合いながら、一定の距離を保っている。
あの距離下だと葵さんの方が有利だよね…。
今後のためにも自分の中で解説を入れながら見学する。
だがその均衡はすぐに破られて、ストルスさんが前に出た。
セオリーで行くと正しい、でもそうすると葵さんの魔法発動圏内に入っちゃうんじゃ…。
そんな心配もつかの間、後退をしたのは葵さんだった。
その意味を考える暇もなく、ストルスさんのあの上級魔法が葵さん目掛けて突き進む。
あのまま葵さんが攻撃していたら…、直撃してた……。
今のが、攻撃を感じる事…?
カレンがこの模擬戦を楽しみにしていた理由が、わかったような気がする。
現に今自分が、目の前で起きているそれに夢中で見入っているからだ。
「ねえ、白夜」
そんな中、さっきまであんなにテンションの高かったカレンが、声のトーンを落とした様子で名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「白夜…はさ……、白夜、だよ…ね?」
僕のようすを伺いながら恐る恐る聞いているように思えた問いかけ。
「僕が、僕じゃない…の?」
ど、どういう事…?
内容に驚きすぎて何を言っていいのか分からず、質問を質問で返してしまった。
「そのままの…意味だよ…。そ、それで…どうなの…?」
考える必要もない質問に、何故か数秒の思考。
「ぼ、僕は……僕だよ」
「………………」
答えを返すと、カレンも数秒の沈黙。
「そうだよ、そうだよね。うん! やっぱりなんでもない!」
ホ、ホントになんだったんだよ……。
謎が謎を呼んだが、そんな事はすぐにかき消されてしまった。
驚くほどのけたたましい破裂音が僕らのすぐ近くで鳴ったからだ。
見てみると、ストルスさん一人が手に持つ剣を振り下ろした状態で立っていた。
「あ、葵さんは!?」
「ストルスさんが勝ったのかな!?」
勝敗がついたかはわからないけど、葵さんが心配で思わず闘技場の中へ入ってしまう。
「あ、あたしも!」
カレンも後ろからついて来ているようだけど、そんなこと気にしていられない。
ドアを開けて立ち止まる。
「ふぎゅう!」
勢い余って、カレンが僕にぶつかったらしい。
「もお…、きゅふにらちとまらなひへよう…」
そのまま全体を見回す。
案の定、葵さんの姿はない。
「葵さん! 大丈夫ですか!?」
大声で叫んでみると、僕のすぐ横で声がした。
「ゲホッゲホッ……。だ、大丈夫だ……、問題ない…」
口から血を吐く葵さんが壁にもたれて座っていた。
その壁には…、大きく亀裂が入っていて、さっきまでの戦闘の激しさを物語っていた。
「全然大丈夫じゃないじゃないですか!」
「あばらが二、三本逝っただけ…。これくらいなら…、一枚で治癒出来るから問題ない…」
そう言いつつ、胸に当てた呪符が淡い光を浴びて消えていった。
「これで、良しっと…」
そのまま何事もなかったように立ち上がる。
「ホントに大丈夫なんですか…?」
「何度も言わせるな…、大丈夫なものは大丈夫だ」
心なしか、怒っているように思えた。
「ねえ葵さん、どっちが勝ったの?」
鼻を押さえながら言うカレン。
顔が緩んで見えるのは気のせいだと信じたい…。
そんなカレンを少し睨んだ後、葵さんが言った。
「私の負けだ…」
今回の模擬戦はストルスさんの勝ちに終わったようだ。
「わーい! これで白夜を地球に連れて行けるね!」
「これで…、十二勝十一敗二引き分け、勝ち越したぜ…」
ストルスさんは別の事で喜んでいるみたいだ。
「これで勝ったと思うなよストルス……」
「結果は結果として認めろって葵」
苦い顔の葵さんと喜々とした表情のストルスさん。
どっちの味方についたらいいのやら…。
でもこれで、
「僕は地球に行けますよね!」
振り返った葵さんは、もう笑顔だった。
「とりあえず、だな。まあ、対竜戦を体験しておくのもいいだろう」
待ちに待った一言を貰えた。
やった…、やったぞ…!!
小さくガッツポーズをしてしまう。
でも、それくらい嬉しい…。
やっと…、やっと、地球に行ける!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回で九回目の投稿となりました。もうすぐ修学旅行の練習という名の京都散策があります!
しっかりアニメイト京都店へ赴きたいと思っております!