File,4
毎度毎度同じような前書きですが、読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
~Karen side~
二人が模擬戦をすることになり廊下で待っているあたし―――カレンはすごく暇だった。
「あーあ…。あたしも白夜と戦いたかったなぁ…」
でもまぁ、葵さんと手合わせできたしいいかな。
自分に言い聞かせガラス越しに三人を眺める。
あたしの記憶…いつになったら戻るのかな……。
そう。実はあたしも記憶がない。
本当に少しだけ。どこで生まれてどこで育ったのか。
五歳辺りからの記憶は鮮明に覚えている。
確か、パパとママが遠くへ行っちゃったからおばあちゃん家で過ごした。
学校にも行って、友達もいた。
けど……。
やっぱりダメか…。
パパとママの顔が思い出せない。
顔だけにモヤがかかってよくみえない。
このことはストルスさんにも葵さんにも言っていない。
三年もたったのに…。
そんな思いにふけっているとようやく模擬戦が始まったらしい。
ストルスさんの叫び声が聞こえた。
「ストルスさんって、いっつも叫ぶよねー」
廊下にはあたし一人だけ。
そのせいか、凄く響く。
それより、白夜が敵うのかな?
あれでもストルスさんはヒュドラを倒した人だからなぁ。
地竜や飛竜の強さを知らない白夜にこの気持ちはわかりにくいんだろうな…。
ストルスさんの剣撃を綺麗に避ける白夜が見える。
「やっぱりすごいや白夜は。あたしとは全然違う」
あたしが目覚めて一週間後なんてまだベットの上だったし。
立てるようになったのだってそこから一ヶ月後だった。
すごい苦労したし、すごいしんどかった。
だけどあの日々を乗り越えたから今があるんだ。
ポジティブが取り柄のあたしなんだから、前向きに捉えないとね。
「と…、そんなことよりも」
自分で逸らした話を元に戻す。
今はそんなことよりも模擬戦だ。
もう一度目を戻すと、ストルスさんが魔法を放とうとしていた。
「うわぁ…、白夜負けちゃうね…」
確かあれはストルスさんの得意とする土属性の魔法。
地竜や飛竜にも相当な威力を有する魔法だからなぁ…あれ。
だが、白夜はそれすらも回避してみせた。
「あれも避けちゃうんだ…」
あ、でも倒れ込んでる。
直撃は避けられたものの、足にかすり傷を負ったらしい。
それでもこれまでの攻撃を全て避け続けた白夜は凄いと思う。
「さてと、もうそろそろ終わ…、え…?」
白夜が行動不能になった時点でストルスさんの勝ちは確定したも同然。そう思い込んで窓から離れようとした瞬間、目を疑った。
「え……? 何…あれ…」
一瞬だけ。ほんの一瞬だけ。
白夜が白夜でなくなった。
根拠はない。
けど、白夜からとても懐かしい……、
「――――ッ!?」
そう思った矢先、激しい頭痛がした。
頭……痛い…。
白夜じゃない白夜を見るたびに痛む。
痛みに耐え、ガラスの奥に写る彼に目をやると。
白夜がストルスさんの後頭部へ銃を向けていた。
それは即ち、白夜の勝ちを意味する行為だ。
「うそ…、勝った…の…?」
でも今は、そんなことどうでもいいくらいに白夜のことでいっぱいだった。
さっき感じたアレはなんだったの…。それにあの状況から白夜が勝つことなんて…。
確かに白夜の回避能力はあたしでもすごいとわかるくらいだ。
けどそれを攻撃へと転じさせるには、相応の力が必要だとストルスさんに教わった。
あたしも最近になってそれができるようになったし。
もし仮に、白夜が軍人として大戦に参加していたとしたら…。
でも白夜は第三次世界大戦を知らなかったからそれはないか…。
いろんな思考を張り巡らせていると、予想もしていない出来事が起こった。
ガラス越しに、一つの銃声が聞こえた。
「じ、銃声!?」
すぐさま目を向けると、白夜の持つ銃から煙が上がっていた。
その先にいるストルスさんは…、大丈夫のようだ。
手に持つ剣を杖のようにして体を支えていた。
よかった…。あ、でも白夜は!
模擬戦だったから、防御魔法で多少の事で怪我しないから。
多分白夜はそういうんじゃないと思う。
その証拠に白夜は一歩も動いていない。
「ていうか、なんで葵さんは何も言ってあげないの!」
葵さんは息を切らして、呪符を持っていた。
「もう! 葵さんのバカッ!」
ただ見ているだけの自分が耐え切れなくて闘技場に入った。
ドアを勢いよく開けると…、
「―――僕は、狩竜人にはなりません! なりたくないです!」
白夜が、叫んでいた。
そのまま白夜がこちらに向かって走ってくる。
「ま、待ってよ、白夜……」
呼び止めようと試みるが、白夜はそのまま闘技場を出て行った。
その目には…、涙が見えた。
「ねえ…、何があったの?」
闘技場の中にいた二人なら白夜の異変に気が付いているかもしれない。
そんな気がして、呆然としている二人に問いかけてみた。
葵さんがその口を開く。
「白夜が、ストルスに勝ったんだ…。たかが模擬戦で…」
「そんなことあたしも見てたからわかるよ!でもそういうんじゃ…」
「でも、そのたかが模擬戦で白夜は人を殺しかけた。間接的にだがな…」
あたしの声はまるで届いていないみたい…。
二人ともすごく消沈してる。
ストルスさんも白夜に撃たれて……、あっ!
「ストルスさん怪我は!? 大丈夫なの!?」
防御魔法のこともあったから大丈夫とは思ってたけど、あの距離からの発砲だ。もしかしたら…。
でもそんな心配はいらなかった。
あたしがストルスさんに声をかけた途端に、
「クックックックッ…」
不気味な笑い声が聞こえた。
そしてストルスさんが立ち上がる。
「すげえ! すげえよ白夜! 天然の禁忌持ちだから何かあるとは思っていたが、ここまですげえとはな!!」
何…? き、禁忌って…?
「すぐにでも申請を送ってアイツを狩竜人に―――ッ!!」
乾いた音と同時に言葉が途切れた。
葵さんが…、殴った…?
「ストルス、いい加減にしろ。今の白夜の気持ちをわかってるのか…」
真剣な面持ちの葵さん。
初めて…、見た…。あんな顔の葵さん…。
「ギリギリのところで私が転移魔法を発動させてなかったら、お前も今のままじゃいられなかったかもしれないんだぞ」
え…、じゃああの銃声は…、
「空砲だった、ってこと…?」
おかしいとは思った。
確かに防御魔法はかかっていた。
なのに白夜の傷からは血が出ていたのに、ストルスさんはなんともなっていない。
そういうことだったのか…。
これでさっきまで葵さんが手に持っていた呪符の意味がわかった。
「…すまねえ。取り乱した…」
ストルスさんも謝っている。
「そうだよな…。模擬戦とは言え実践であんなことになってたら、俺は死んでた。それに…」
最後の言葉は小さくてよく聞き取れなかった。
「白夜…、大丈夫かな…」
ここまでの話を聞いて、二人は白夜に異変を感じなかったらしい。
「――ッ! そうだ白夜は!? 追いかけねえと!」
ほんとだ! すっかり忘れていた!
飛び出した白夜を追いかけようと、廊下へ繋がる扉のほうを向くと。
二人の男女が立っていた。
男性の腕の中には…、白夜!?
「な…、アンタは……」
ストルスさんと葵さんが絶句している中、その男性が口を開いた。
「取り込み中すまない。廊下ですれ違ったこの者の様子がおかしかったのでな。戻ってみると案の定倒れていた」
「わたしの力でも治せなかったから、早く病院に連れて行ってあげた方がいいかもよ?」
え…うそ……。
あの二人…、あたしも知ってる…。
その特徴的な蒼い髪色。
そして、あたしたちと同じようなデザインをした藍色のロングコート。
「一番隊…、アルカス兄妹…か…?」
ストルスさんも同じだった。
こ、こんなところで出会うなんて…。
アルカス兄妹…。ナンバーズの狩竜人パーティ。
ストルスさんと互角の実力から、蒼髪のアルカス兄妹として名が知れ渡っている有名人だ。
地球での滞在期間が長いため、その姿を見れるだけで珍しいらしい。
そんな二人がなんでこんなところに…。
あたしたちの驚きも構わずに話を続ける二人。
「私達のことなど、どうでもよかろう。この者は病院へ連れていくのか? いかないのか?」
「つ、連れて行くに決まってるでしょ!」
そうだ、こいつの言う通り今は白夜だ。
「なら行くぞ。カイに捕まれ」
と、隣にいる妹を顎で指した。
「もう…、人使いの荒いお兄ちゃん…」
呆れた顔のカイさんだけどここから飛んでくれるらしい。
「感謝するよアルカス兄妹」
「とりあえず貸しにしとくぞ、ウルヴ」
「借りは返してもらうぞ、ストルス」
葵さんは普通だけど…。
ストルスさんはウルヴさんの顔を見ただけで襲い掛かりそうで怖い…。
「皆準備おっけー? それじゃ転移、医療区!」
妹さんの転移魔法であたしたちは、医療区へと向かった。
~Hakuya side~
夢を見ていた。
真っ白な世界で、女の人に連れられてただひたすらに歩いている。
その背中には、見覚えがある。
僕の大好きだった人。いつも一緒にいてくれた人。僕を愛して守ってくれた人。そして…。
あの日あの時、僕を捨てた人。
「あの…、少しよろしいですか…?」
もし本当にその人なら…。
そんな叶いもしない事を願いながら問いかけた。
でもそれは僕を裏切った。
「ハクヤ…なの?」
僕の名前を呼んでくれた。
「うん、白夜だよ。久しぶりだね母さん」
夢のようだ。こんな時間が長く続けばいいのに。
でももう気づいていた。
ああ、これは夢なんだな…。
でも、夢だと気付いて尚問い続ける。
「母さん…。今生きてる…の?」
今の僕に母さんの記憶が戻っているとすれば…。
このチャンスをモノにしない手はない。
こちらの問い掛けに目の前の母さんは、
「私…は、生き…てる」
答えはしているが、途切れ途切れの声で聞き取りにくい。
それでも、
私は生きてる。
はっきりそう聞こえた。
これが夢だとしても、母さんは生きていると言った。
だからそれを信じてみてもいいと思う。
でも、夢はそう甘くはなかった。
次の質問を問おうと母さんの方を向いた時、そこに彼女の姿はなかった。
周りを見回すがひたすらに真っ白な世界が続いているだけ。
「母さん! どこいったの? 母さん!!」
母さんがどこにもいない。
さっきまでここにいたはずの人間が、消えた。
なんで...、どこにいったんだよ...。
その場から離れようと歩き始めたその時、後ろから声がした。
「ハクヤ...早く来て...」
消え入りそうな声。母さんの声だ。
「母さん!」
すぐさま後ろを振り返るが…誰もいない。
だが、今度はまた背後に気配を感じた。
振り向かずそのまま対話しようと試みる。
「ね...ねぇ母さん。母さんは...、今どこにいるの...?」
来てくれ、と言われてもどこにいるかわからないなら探すこともできない。
そのまま回答を待っていると...、
「古郷へ、帰るの...。早く帰らないと...、危険よ...」
古郷....。地球の竜を早く倒せってことなのか?
「早く....、思い出して...」
「―――ッ!?」
...今の...は?
今一瞬、何かがよぎった。
だけどそれはすぐに消えて、忘れてしまった。
「あっ! 母さん!!」
しまった...。
そのことに気を取られ、母さんを見失ってしまった。
探そうと歩みを進めようとするが…、
「アレ....?」
体が....、重い...。
何か背中に背負っているような感覚におそわれて倒れこむ。
その瞬間、目の前に人影が見えた。
目も霞み始めその人影が母さんかもわからないけれど、そいつは口を開いた。
「―――――――」
声は届かなかった。
読唇術を使えないから何を言っているかわからない。
だけど、とても大事な事のような気がした。
そしてそのまま目の前の人は、前へと歩いていく。
「母さん! 待ってよ母さん! 母さん!」
必死に叫ぶ。
だがその人には聞こえていないらしい。
「僕、母さんを見つけてみせるから! 絶対待ってて!」
見慣れた後ろ姿に向かって叫ぶ。
それでもその人は振り向かずただ前へと足を運ぶ。
「母さん! 母さん!」
僕の頑張りも届かずその人の気配は消え、それと同時に、意識がなくなった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は初めての視点変更をしてみました。
話の中心となる竜がまだ出てきていませんが、これからも末永くよろしくお願いします。