File,3
こんにちは。四回目の投稿となりましたが、まだまだ未熟で読みにくいとは思いますが最後まで読んでいただけると嬉しく思います。
よろしくお願いします。
初めに手渡されたのは一つの機械だった。
カレンが腕につけていたのと同じもののようだ。
「まず魔力というものを知ってほしい」
葵さんの言葉に頷く。
「魔法を放つには魔力が必要。そしてその魔力は、産まれた時から皆が持っているものなんだよ」
「なら僕にもあるってことですか?」
「そういうこと。平均的に見てもお前の魔力は多かった」
それであの時僕を…。
「ちょうど右胸あたりかな。私たちにもある。ここの魔力を使えば簡単に魔法は放てるんだが…」
「ダメなんですか?」
濁った語尾の意味を確かめるため聞き返す。
すると葵さんは自分の右胸を抑えて、
「ここにある魔力は魔法を使う度に磨り減っていくんだ。そして、魔力が尽きた人間は死んでしまう」
「――ッ!?」
声が出ないほど驚いた。
魔法を使う上で、死のリスクがあったなんて…。
「だが安心しろ。死なないためにこれがある」
と、葵さんがさっき貰った機械を指さす。
「これは一体何なんですか?」
聞き返すと、質問にはストルスさんが答えた。
「これは『魔装籠手』というもんだ。これが俺達の魔力の代わりをしてくれる機械だ」
だからカレンも着けて戦っていたのか…。
「なら、これを着けていれば死ななくてすむんですね」
「いや、まだ足りねえ」
「え?」
「これはただ単に外部の魔力を内部に取り入れて内部の魔力を制御するだけの、言わば接続機だ。魔力そのものは別にある」
てっきりこの籠手だけで死なずに魔法が放てるのかと思ってた…。
そして、葵さんが懐から一つの小さな筒を取り出した。
中には薄紫の液体が入っている…。
「これがボトルだ。その魔装籠手を媒介にして使用する魔力」
なんだかここの空と同じ色みたいだな…。
あ、でも……。
ここで一つの疑問が浮かんだ。
「あの、質問いいですか」
「どうした?」
葵さんが答えた。
「そのボトルの中に入っている魔力……、もしかして……」
人間の魔力なんじゃ…。
言葉には出来なかったが察してくれたらしい。
「大丈夫だよ白夜、これは竜の血。人間の魔力はもう使われていない」
「も…、もう…?」
「第三次世界大戦中はそういうこともあったが今は大丈夫。私が保証する」
よ、よかった…。もしこれが人間の血だったなら耐え切れない…。
「でも竜の血って……」
「そう。私たち狩竜人は政府への申請書と引き換えにその魔装籠手とこの空のボトルを計十本貰い受ける。そして地球へ竜を狩りに行きボトルに魔力を貯める。それを政府の役人に渡して換金してもらうんだ」
「基本的に渡すのは四本だな。六本は自分が狩りをするために使っちまうことが多い。それに全部換金すると次狩りに行く時に買わなきゃいけねえからな」
ま、まあなんとなくはわかったかな…。
「と、とりあえず初めは皆さんに任せます…」
あ、でもまだ狩竜人になるって決めたわけじゃ……。
「やっぱり白夜も狩竜人になるんだね!」
「いや違うよ! まだ僕は…」
説明中は黙っていたカレンが飛び出してきた。
「まあ、習うより慣れろだ。魔法の使い方はこれでも読んで勉強しろ」
と、葵さんに一冊の本を渡された。
表紙を見てみると、
[今すぐ君も魔法使い! マジックテキスト]
と書かれていた。
「こ…これで本当に魔法が放てるようになるんですか?」
半信半疑で葵さんに伺うが。
「ちゃんと使えるようになるよ! だってあたしもそれ読んで魔法習ったもん!」
えっへん!と、胸を張りながら言うカレン。
それに葵さんも。
「魔法とは簡単に言えば想像力だからな。その想像力を膨らませる為に詠唱やら魔法陣やらがついているに過ぎない」
「は、はあ……」
「その本には初級から最上級まで階級魔法の全ての詠唱式とその概要が載っているから、暇があるときにでも読んでおけばいいよ」
「ありがとうございます…」
いやだから狩竜人になるとは…。
「よし。魔法の説明も一通りしたし、とりあえず俺とやるか」
「もうですか!?」
「当たり前だろ? やるにしろやらないにしろまずは戦力になるか、だ」
いや、ならせる気漫々じゃないですか…。
「え? 白夜ってもう狩竜人になるんじゃないの?」
「頼むから勝手に僕を狩竜人にしないでくれ!」
模擬戦も仕方なくついてきただけなのに…、それに僕は模擬戦をするなんて言ってない。
「まあでも、一度だけなら…。ここまできて何もしないのも少しアレですし……」
「じゃ、決まりだな。とりあえず武器選んでこい。素手で戦わせるほど俺は鬼畜じゃねえからな」
「わかりました。けどどこにあるんですか?」
「あーそうか…、お前は何にも知らないんだったな…」
今の言葉には語弊がある様に聞こえるのは僕だけだろうか。
「私がついていこう、白夜こっちだ」
先導する葵さんについていく。
「あの、武器って…、本物ですか…?」
「レプリカでどう戦う? 多分アイツは手加減無しだぞ」
お…大人気なくないですか…。
「安心しろ。もしもの時は私が止めに入る」
「もしものことが起こらないように願っておきます…」
闘技場を横断しながら話し込んでいるとそれは見えてきた。
「ここに武器が置いてある。持ち出しは禁止だがここでなら使えるから好きなのを選べ」
と、銀の扉を開きながら説明してくれた。
「こ、これ全部武器ですか…?」
見ると倉庫にしては相当な広さが伺えた。
「そうだ。剣に槍、斧もあれば銃もある。私は武器を使わない主義だから大まかなことしか教えてやれん。詳細はストルスにでも聞いてくれ」
「わかりました」
そのまま薄暗い倉庫の中に入る。
とりあえず簡単に使えるものを...。
剣や刀では多分敵わないだろう。鍛錬を積んできた人にぶっつけ本番で挑んでも無意味だと思う。
とすれば...。
ナイフや銃なんかに限られると思う。
ナイフは刃渡りも短いし振り回し安そうだし、銃は初心者でも撃てそうだ。
「あ...」
そんなことを考えていると、見つかった。
少し進んだ所にあった。
銃だ。
弾も置いてある。
「決まったか?」
銃を手に取りそれを握りしめた。
これにしよう…。
「はい。もう大丈夫です」
不安を残しながらもその銃を葵さんに見せた。
「これにしようと思います」
「リボルバーか...。まぁ初心者にうってつけだが威力がないからな...」
初心者でも使えるからいいのかな...?
「もし狩竜人になることになった時にまた考え直せばいいさ。とりあえずはそれで闘いな」
「はい」
「よし、なら行こう。今回お前は魔法は使わない。だから、魔装籠手は無しだ」
「わ、わかりました」
まず使い方を知らないのに使える訳が無い...。
言いつつ、元居た場所へ歩き出した。
「お、決まったか」
ストルスさんが一人で佇んでいた。
カレンはすでに廊下へ移動しているようで、ガラス越しに彼女の顔が見てとれた。
「はい。これにしました」
と、右手に持つリボルバーを見せた。
「まあ初心者なら妥当ってとこか。多分それじゃ太刀打ち出来そうにないけどな」
ハッハッハと大声で笑っている。
もはや手加減する気もないんですけど...。
「よおし。準備整ったしさっさとおっ始めるか」
と、ストルスさんが腕に魔装籠手を着け始めた。
「ち、ちょっと待ってください! ストルスさんは魔法有りですか!?」
手加減しないって言っても僕が使えない魔法を使うの!?
それはちょっとずるいというかなんと言うか...。
焦りと不安を全面的に表へ出したというのに、ストルスさんはキョトンとしていた。
「へ?だって竜も魔法使うぜ? あくまで狩竜人は対竜の戦闘になるから、対人戦闘の模擬戦より経験になると思ったんだが...。やり過ぎか?」
葵さんへと流す。
それを受け取った葵さんはまたため息をついて。
「防御魔法かけてやるから、好きにしろ...」
「よっしゃぁ!! じゃぁ白夜行くぞ!!」
葵さんの一言で気合いの入りが格段に違っていた。
あ、でも...、
「これってどう使うんですか...?」
この銃を持ってきたはいいけどどう使うのかわからない。
使い方も分からないなら豚に真珠だ。
「葵...。そういうのは先に教えとけよ...」
「私に言うな。武器の使い方には疎いんだ」
「せっかく盛り上がってきてたってのに...」
とふてくされつつも教えてくれるらしい。
「お前のそれは、弾倉振出式の回転式拳銃。昔の物と使い方はほぼ同じだが違う点が一つある。それが弾丸だ」
そう、と葵さん。
「政府の管下であるレイン社が開発した魔弾を採用している。細かいことは割愛するが機会があればまた話そう」
二人の説明を聞いていた僕だが。
魔法の時といい今回といい、勉強不足だ。
「なあに、引き金を引けば弾は撃てる。反動も最小限に抑えられているから大丈夫だろう」
そんな簡単に言うが一般人の僕には難易度の高いことだ。
早く終わらせて断ろう...。
そう心に誓いストルスさんと対峙する。
「わかりました。やってみます」
「お、その意気だぜ白夜」
ストルスさんもその鋭い眼差しを向ける。
二人の姿勢から始まりが近づいているのがわかる。
そしてその時は呆気なく訪れる。
「よし、なら始めるか」
葵さんが一枚の紙切れを手に声をあげた。
「それでは、模擬戦を始める。両者用意...!」
初めての闘いが、
「始め!!」
始まる。
「うおっしゃぁぁああ!!」
開始と同時にストルスさんの唸り声が響く。
「よっし行くぞ! ケガしねーようにしっかり避けろよ!!」
と、叫びこちらへ飛んでくる。
その手には...大剣!?
「いつの間にそんな...」
そんな事よりも逃げないと...!
後退するが、それは逆に自身を追い詰めてしまった。
「遅い遅い遅い!!」
もう彼はすぐそこまで来ている。
「くっ...!」
牽制に、と一発。だがそれは牽制にもならなかった。
「考えが......甘いんだよ!!」
およそ二メートルからの狙撃をその剣で弾くという御業を見せた。
か、敵わない...!
数秒で心が折れる。
彼には絶対に敵わない。
そこからは防戦一方だった。
よくはわからないが目だけはいいようだ。
剣筋が隅々まで視える。
それを頼りにストルスさんの剣撃をかろうじて避け続けるだけ。
先ほどの流れで銃が効かないことはわかった。
でも....このままじゃ......!
いずれあの剣を体に受けるのは目に見えている。
その前になんとか...。
とその時、異変が起きる。
「ーーーッ!?」
ストルスさんが速く......いや僕が遅くなった。
なんだこの痛み...。
頭が痛い。前とは比にならないくらいの痛み。
それが一瞬のスキを与えてしまう。
「もらったぁぁあ!!」
その一瞬を彼が逃す理由がない。
しかし、異変は異変で終わらない。
痛みのせいかはわからないが、体が異常に軽い。
だが今回はこの頭痛に感謝する他ない。
その体の異常な軽さを生かし、大きく後退。
大きく振りかぶった攻撃のおかげでなんとか逃れることができた。
そしてその剣は闘技場の床へ振り下ろされると同時に大きな音と砂塵を巻き起こした。
あ、危なかった……。
あんなのくらってたら死んでるところだった…。
頭痛もまた強くなり、鼓動も速くなる。
「なんなんだ…。この痛み……」
痛みを堪えながら砂塵の方へ目をやると、彼は既に立ち上がっていた。
「おいおい…。なかなかやるじゃねえか……」
余裕そうな口ぶりで言う。
今の一撃はやはり最後の決め手じゃなかった。
「だったら見せてやる…。狩竜人の戦い方ってやつをな!!」
さっきまでとは違う圧を放つ。
何か…くる……!
頭痛のせいで意識が朦朧とし始め、目の前がぼやけてきた。
そんなことも相手は気付いてくれない。
ストルスさんはその剣を逆手に持ち、振りかぶった。
「行くぞ! 土属性上級魔法《Bcode coins element》発動!!」
言い放つと同時に剣を地面へと突き立てた。
すると、目の前で超常現象が起こった。
地面が変形!?
角状になった地面が何度も盛り上がり前進している。
全てこちらへ向かって。
その直線上から回避を試みるが、
ア……レ…?
意識がなくなりかけて失敗。
倒れそうになるがギリギリ踏みとどまる。
が、そのせいですっかり回避することが頭の中から抜け落ちていた。
必死で横に転がったが脚をかすってしまった。
傷はそう浅くない。出血も見られる。
それでも傷が痛んでくれるおかげで意識を保っていられる。
だけどもう動けない。
僕の、負け…。
「チッ…、あれを避けたのかよ」
ストルスさんが突き立てた剣を抜きながら言った。
今のがやっぱり魔法なのか。
そんなこと考える余裕もないくらいに傷と頭痛が痛む。
「トドメはしっかりとするってのが俺のやり方なんで…、すまんな白夜」
その言葉は小さすぎて僕には届かなかった。
ストルスさんに目を向けると…、彼は剣を構え佇んでいた。
え…? 終わりじゃ…ないの…?
「これが最後だっ!!」
言い叫ぶと同時、構えたままこちらへ飛んでくる。
この後に起こる事は簡単に予想がつく。
殺さ…れる…!
彼が仲間だと知っていても、殺さないと約束してくれていても、無理だ。
ずっと前にも似たようなことを体験したことがある。
死の恐怖。
自分の死を悟った時に、生への執着をみせる言わば人間の本能。
それは、頭痛も傷も、意識のことさえも忘れてみせた。
「う……、うわああぁぁあ!!!」
一心不乱に叫ぶ。
恐怖を紛らわすために叫ぶ。
しかし、一度感じた恐怖は簡単には消えてくれず。
ダメだ…。死ぬ…!
あの日あの時の恐怖が舞い戻る…!
嫌だいやだイヤだ!もうあんな思いは……!!
そう思うとまた意識が朦朧とし、体の感覚がなくなる。
そして、その恐怖から逃れようと目を閉じた。
全ての感覚が、なくなる。
体が軽い。
これが……、死?
不思議な感覚に陥っていると、不意に声がした。
「白夜ァ!!」
焦りがみえる声。
声からして葵さんだろう。
やっぱりストルスさんに負けたのかな。
そんな事を思いつつ、目を開けた。
でも、現実は違った。
「―――え?」
理解が追いつかない。
なぜ僕がストルスさんの後頭部に銃を向けているんだ?
なぜ僕が……ストルスさんを殺そうとしている!?
「白夜! 銃を捨てろ!!」
葵さんの声も届かず、指が動き。
闘技場に銃声が響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回カレンの出番が少ないと思ったから、次回期待です。