File,1
こんばんわ。お久しぶりです。
今回から第二節が始まります! 何も言うことがないです!
最後まで読んでいただけると嬉しく思います。
よろしくお願いします。
月日は流れて、どんどん暑さが増してきた。季節が変わって、地球ではもう夏だ。
あれから、たくさんの竜を狩った。経験を積んだ。怖さを知った。もう大丈夫。
そして今日は、月一で行われる活動報告。
自隊の一ヶ月の活動内容を事細かに政府へ報告に行く。彼此もう三回目だ。
「よし、じゃあ確認だ」
葵さんが立ち上がり、言った。手には一枚の紙を持っている。
「今月は、地竜が二十七体。計二十七体討伐だ」
報告内容を復唱すると、ストルスさんも立ち上がった。
「ま、妥当だな。最近は地竜に偏ってるから、そろそろ他の竜のことも考えねえとな」
葵さんも頷いている。
「その辺りについては、また追々教えていくよ」
そうだな、とストルスさん。その隣でカレンが険しい顔を浮かべていた。
「どうしたカレン。何か言いたいことでもあるのか?」
「え……、いや、ちょっとだけ気になるなぁってことがあって……」
考え込むように顎へ手をやる。
「言ってみろ、答えられる範疇なら答えてやる」
「えっとじゃあ……、みっしょんってなんなの?」
カレンの口から、聞き覚えのない言葉が漏れた。
ストルスさんは少し笑って、葵さんは小さくため息をついていた。
「お前、それどこで聞いたんだよ」
荒々しくイスに座りながらストルスさんが言う。
葵さんも固く口を閉ざして、ミッションのことについて言うつもりはないらしい。
ミッション……? 聞いたことないな……。
「僕もそれ、気になります」
僕とカレンの視線に煽られて、二人は渋々口を開いた。
「ミッションってのは、活動報告を行った時に政府から貰う特別な依頼みたいなもんだ」
ストルスさんの説明に、葵さんが付け足す。
「それに成功すれば、あわよくば昇格。失敗、依頼破棄となれば降格。基本的に三ヶ月から半年の割合で 受けるんだ」
「ま、今大事なのは、お前がそれをどこで聞いてきたかなんだがな」
葵さんが説明し終わると同時に、ストルスさんがカレンの方を見ながら言った。
するとカレンは、笑顔のまま答えた。
「この前地球に行った時に、リーボスさんが教えてくれた!」
えへへ、と微笑む彼女に二人は……。案の定、深くため息をついていた。
「やっぱり先生かよ……」
大きくノビをしながらストルスさんが言う。
「あの、どういった内容なんですか?」
思い切って聞いてみると、すんなりと話してくれた
「数時の大小に関わらず、竜の討伐数の指定だったり、ボトル何本分だったり、楽なものが多い。まあ、 私達ナンバーズともなればその量は多くなる」
ふぅ……、と一息。
「話を戻すが、まあそのミッションについてだ」
葵さんが机に、勢いよく手を付いた。少し大きな音が鳴り、驚く。
「私達が最後にミッションを受けたのが、三年前。カレンがまだリハビリをしていた時だ」
「三年前…………、ってすごい昔じゃないですか!」
た、確かにカレンが知らなかったってことは、そうなるんだろうけど……。
「ミッションの周忌自体もデタラメだから、仕方ないっちゃ仕方ないし、ラッキーっちゃラッキーだな」
「じ、じゃあ今回ミッションを受けることになるってこともあるんじゃ……」
「ハハハハ。ま、そういう事だ」
ストルスさんは笑っているけど、葵さんの目が本気だ……。嫌な予感しかしないよ……。
「いや、白夜の言う通りなんだ。今月にミッションが来るかもしれない」
その一言で、場が凍りついた。主にストルスさんが。
「そ、その根拠はあんのか……?」
声が少し震え気味のストルスさん。そ、そんなに怖い……のかな……?
「アルカス兄妹は、六大龍将の一角を担うニーズホッグ討伐が今回のミッション。政府も本格的に地球奪 還へ動き出したんだ」
「お、おいちょっと待て! ニーズホッグって六大龍将でも普通に強いぞ!? それをあいつら二人で か!?」
「直接聞いたわけじゃないから本当かどうかはまだ怪しいが、ほぼ間違いないだろう」
会話の中で、また知らない単語が聞こえた。頼むからしっかり説明も加えてよ……。
そんな僕の意図を感じ取ったのか、葵さんが謝ってくれた。
「すまん白夜、お前には話していないことが多すぎたな」
僕ももっと勉強しなくちゃな……。
「とりあえず、報告書は私がまとめておく。もう夜も遅いし、早めに帰ってしっかり睡眠を取っておくこ と。以上だ」
はーい、と二人が空返事をしてお店から出て行った。階段で鍛冶区がどうとか聞こえたのは気のせいだろう。
「さて、お前には残ってもらったわけだが……」
葵さんが、さっきまで皆がいたテーブルに腰掛けた。
「地竜については、もう大丈夫だな?」
葵さんの問いかけにしっかりと頷く。
この三ヶ月、ずっと地竜を討伐してきた。他にも竜がいることは聞いていたけど、初めのうちは地竜がいいとの、ストルスさんの判断だ。
「今日はいいタイミングだから、地竜以外の竜について、教えるとしよう」
「わ、わかりました。よろしくお願いします!」
「邪竜、飛竜、蛇竜、地竜、それに亜種型……。地竜は固くて遅い、蛇竜は速くて柔らかい。飛竜 は…………」
「どわっ!? は、白夜どうしたその顔!」
「あ、おはようございますストルスさん。……えっと、飛竜は空を飛べて地竜と蛇竜を足して二で割る……だったっけ……」
次の日の朝。葵さんは早くから中央塔へ報告書の提出に向かっていていない。ストルスさんも知ってることなのに、なんでここに……。
「お、おい白夜! 昨日一睡もしてねえだろ! 睡眠はしっかり取らねえと死んじまうぞ!」
「すいません……、昨日葵さんに教わった分だけでも覚えておこうと思って……」
あの後、三時間程葵さんの講義を聞いて部屋に戻った。そういえば寝てないな……。
「今日は地球には行かねえけど、日頃からしっかり寝とけよ?」
はい、と返事を返そうとするが、ストルスさんの後ろからものすごく暗い表情で歩く葵さんの姿が見えた。
「あ、あのストルスさん……、後ろ……」
僕が言うと同時、向こうから声をかけてきた。
「お、ストルスじゃないか。早いな」
その声を聞いた瞬間、勢いよく振り向いた。
「あ、葵! どうだった!?」
「そのことについても下で話す。カレンも呼んでくれ」
暗い表情のままの葵さんは、重い足取りのまま下へ降りていった。
――――――――
「よし、みんな集まったな」
昨日と同じ位置に皆が座っている。まだ少し眠たいな……。
「今回、案の定ミッションの依頼を受けた。その内容なんだが……」
全員息を飲むような静けさ。そして、葵さんが重い口を開く。
「六大龍将、八岐大蛇討伐だ」
短い沈黙。皆して言葉が出ないのだろうか。
それを切るように、ストルスさんが大きなため息をついた。
「八岐大蛇か……。終わったな」
「やまたのおろちー!」
二人の反応を見ていると、良いのか悪いのかわからないや……。
「もうミッションは受けたんだ。仕方ないだろ……」
そう言う葵さんも肩が落ちている。
それよりも、六大龍将か……。昨日の講義でも、よく出てきたな。
――――六大龍将。地球に存在する竜の中でも、飛び抜けて強力な竜をまとめて龍と呼んでいるらしい。あわせて六体。
ヒュドラ、ティアマト、ニーズホッグ、八岐大蛇、ファフニール、バハムート。彼らを六大龍将と総称している。
このうちのヒュドラは、ストルスさんがソロ討伐をしている。基本的に地球で出逢えば、死を待つだけと言われるほど強い。
この時、はじめてストルスさんがどれだけすごいのかを知ったんだ。
普通の地竜でもボトル七本、最上級魔法を七回当てないと討伐出来ないと言われている中で、ヒュドラは十五本。バハムートに関しては約五十一本と推測されてるらしい。もうストルスさんには頭が上がらないよ。
と、昨日のことを振り返っていると、眠気が増してきた……。
「白夜、昨日言ったこと覚えているか?」
葵さんの問いかけに夢うつつで返事を返す。
「八岐大蛇は蛇竜型の龍だ。だからお前には、前衛もこなしてもらうことになるかもしれない。その為に 今竜骨刀を造っているから……って白夜!?」
「…………ふぇ?」
……あ、ダメだ……。もう…………。
そのまま、目を瞑って夢の中へと入り込んでしまった。
――――――――
夢を見ていた。
また、あの時と同じ真っ白な世界。
そして、
「母さん、ただいま」
目の前にいる白髪の女性に話しかける。
女性は振り向かず、前を見据えたまま答えた。
「おかえり、とは言いにくいわね」
今回の夢は、何故か鮮明としている……ような気がする。
いつもは色なんてないのに。特別に感じる……。
「母さんは……、その……」
色々な事を聞きたい。だけど、言葉が出ない。言いたいことは山ほどあるのに……。
すると目の前の女性は、
「ハクヤ……、強くなったわね」
何もないはずの白い世界を見上げて、そう呟いた。
「でも、まだなれる。貴方の能力はそんなものじゃないはずよ」
やっぱり、母親の言葉には力があるよな……。未来が見えるわけでもないのに。
「母さん、僕もっと強くなるよ。もっと強くなって、必ず母さんに会いにいくから」
それまで待ってて――――。言葉にする前に、世界が音を立てて崩れ始めた。夢が、終わる。
これにももう慣れた。前のように声を上げて母さんを呼ぶ必要はない。だって……また会える、かもしれないから。
「さよなら、母さん…………」
小さく呟く。母さんにも聞こえないような声で。
それでも母親は息子の言葉を聞き漏らさないかのように。それも小さく―――――じゃあね、と一言。
そのまま、意識がなくなった。
――――――――
「…………アレ……?」
目が覚めると、ふかふかのソファに仰向けになっていた。
顔を横に向けると、葵さんが机で作業しているのが見えた。
「起きたか白夜。なかなかグッスリ寝ていたな」
作業の手を止めずに気にかける。二人がいないから、帰ったのかな。
「お前が途中で寝るから、話が進まなかったんだぞ……」
「ご、ごめんなさい……。昨日から寝てなくて……」
すると、作業の手を止めた葵さんがこちらに歩いてきた。
「今回は私に責任もあるから許すが、しっかり睡眠は取れよ?」
手を差し伸べてそう言う葵さん。その手を取って起き上がる。
「ありがとうございます葵さん。その、ごめんなさい……」
ああ、とだけ言い、また作業に戻る。が、またこちらを向いて話しかけてきた。
「白夜、お前本当にあの時のことは覚えてないのか?」
あの時……。ああ、あの時か。
「はい……、あれからどれだけ思い出そうとしてもダメでした……」
そうか……、と考え込む素振りを見せて、机に目をやった。
「あの時のお前は、カレンの刀を持って外に出たんだ。だから、多分刀の扱いを知っている」
そう言って一本の未完成の刀を取り出した。
「まだ歯が付いてないが、これは竜骨刀。竜の骨を加工して造る刀だ」
「そ、それを僕が使うんですか……?」
「まあ、そうなって欲しいと思っている。一応二週間後の日曜日に八岐大蛇討伐に行くつもりだ」
二週間で僕が戦えるようになれるか、にかかっているってことか……。
「無理は言わないさ。ただ私の目が確かなら、お前にはそれが出来るってことだ」
そこまで言うと、その刀を持って立ち上がった。
「私はこれから刃の部分を仕上げに行く。だからお前はもう寝ることだ」
そう言うと奥の部屋へ向かった。
「おやすみなさい葵さん」
「ああ、おやすみ。しっかり眠れよ」
ドアが閉まり、この部屋は僕一人になってしまった。
「寝よっか……」
もう既に時間は十時を回っている。
長いこと寝てたな……。昼前くらいからかな。
明日から刀を使う訓練、ストルスさんに手伝ってもらおう。
ミッションに向けて頑張ろう、と熱意を胸に部屋を出た。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
中間テストも終わって今週の土日は遊びつくしましたね。ま、英検も文化祭もまだ残っているので気緩みできないですけど……。