File,12
こんばんは!
最近すごく暑くて、扇風機を回し始めました。
まだ早いかなと思うけど、暑がりの僕はもうたえきれません!
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします!
ドームから飛び降りる。
大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせて前を見据える。
そして、緩やかに、かつ力強く、蹴り出す。
風を身に纏いながら、左右の地竜を斬りつける。
しかし、葵さんの言っていた通りの硬さ。
全く刃が通らない。むしろ刃の方が折れそうだ。
だったら……。
とりあえずさっきの竜を殺すべく、動く。
もう一度突撃する。今度は跳躍も加える。
でもさっきとは違い、真上から。背中の辺りを思い切り、突く。
ウロコとウロコの間、僅かにある隙間を突く。
案の定、刃が通り紫の液体が飛び出てきた。
すご……、ホントに紫だ……。
突き立てた刀先から溢れ出る竜の血――――魔力。
ま、僕は一生使うことないかもだけど………っと。
「グァァァァアアォォォ」
急に竜が暴れだし、バランスを崩しかける。
僕が思っているより、地竜って脆いのかな。
揺れが激しくなる前にさっさと殺そう。それにまだまだいるしね。
刀を少しだけ捻り、隙間を空ける。中身が見えるように。
そして、出来た隙間目掛け、発砲。
「グガガガガガァァァァァァ!!」
魔力弾は一発で大砲一発の威力があるらしい。
いくら竜でも大砲を体内に打たれたら、ひとたまりもないだろう。
刀を抜き、背中から離れる。
離れるときに、背中を蹴ってやると、地竜はゆっくりと倒れ込んだ。
やっぱり……、これは使える……。
今の一体でなんとなく感覚は掴んだ。
この調子なら十分もいらない。
さっさと、終わらせよう。
――――――――
よし、後数体……!
何体倒したかはもう忘れた。
四体目辺りまでは覚えているが、そこから面倒になり数えてない。
でも、辺りに確認できる地竜はもう片手で足りる程だった。
決して遠くはない位置にいるため、一時も油断できない。
だが時間にして十二分弱。
もういつ魔法の効力が切れてもおかしくない時間。
でもまだかろうじて残っている。
この調子でいけば………。
そう思った矢先、身体に脱力を感じた。
あ………。
さっきまであんなに体が軽かったのに今は、重い。
ダメだ………、もう……。
でも、まだ戦う術はある。
残弾数は十。でも刀の方は先が欠け、使い物にならない。
まだ戦えるなら、戦うさ。
刀を捨て、銃を構える。
もう、賭けに出るしかない。
いくら竜が強いと言っても、何か弱点はある筈だ。
その弱点があると信じて、それを視抜く。
なかったらここで果てる……か。
まあそれもいい。皆が逃げ切れるくらいは倒したし、後はストルスさんに任せよう。
そして、全神経を目に集中させる。
感覚を研ぎ澄まし、禁忌を発動させる………!
だが、目に映るのは………。
地竜が前進してくる、だけ………。
数秒先の未来を視ても、相手の力が超越してるなら意味を持たない。
たかが、数秒なのだから。
新しい発見と成長。でもそれを活かせる日は来ない……。
そのまま全てを諦めて、膝から崩れ落ちようとする。
しかし、そう簡単に死なせてはくれなかった。
後方から突然の爆発音。
また……、新手の竜…。たた、かわな……きゃ……。
でも、僕の予想とは違ったことが起こる。
「白夜ァ!! 今行く!!!」
同じ方から、ストルスさんの声。
ああ………、間に合ったんだ………。
ゆっくりと、振り向く。
固く閉ざされていたドームが半開きになり、ストルスさんとカレンがこっちに向かってきていた。
三人の無事を確認すると、余計に力が抜けてきた………。
一瞬踏ん張ろうと試みたが、それも叶わず。
そのまま崩れ落ちる。が、ギリギリのところでカレンに抱き抱えられたらしい。
背中に痛みはなく、あるのは、カレンの手の温もり。
「バカァ……、バカァ………」
顔をクシャクシャにして泣いている。
その顔を手で拭いながら、
「ごめ……、んね…………」
振り絞って声を出した。
それと同時に、意識が途切れた。
〜Karen side〜
白夜………、速く……助けてよう……!
今、あたし―――――カレンは絶対絶命のピンチだ。
それもそのはず、目の前には亜種型の地竜がいる。
しかも、もう食べられようと………。
地竜が迫り、口を大きく開けた瞬間。
―――――――何かを悟った。
それが頭によぎった。もう……終わり。
そう思うと、もう自分のことなんてどうでもよくなってきた……。
地竜達の狙いはあたし……。だったら………。
あたしが死んだら、皆は助かるのかな……? 助かるよね、だって皆強いもん……。あたしがいたら、足でまとい……。
心残りは、ない……。ない……、ないんだから……!
白夜……、白夜ァ……。
なんでこんなに執着するのかわからない。これが恋いというものなのかもしれない。
けど、そんなこと以前に、白夜には何か感じていた……。それが何なのか、今のあたしにはもう、聞けない。
目の前に、こんなにも口を開け、あたしを喰らおうとする竜がいるのだから。
そして、皆の無事と、白夜への限りない気持ちを声に出して。
もう怖くない。だから、最期ぐらい笑顔で……。
「ごめん皆、逃げて……!」
振り絞った言葉は、それだった。
そう言うと、ストルスさんや葵さんが大声で叫んでいる。
だけどもう、あたしには関係ないことか……。
全てを投げ出し、全てを任せようとした。が、その時。
「おぉぉぉぉぉおおあああああ!!」
一つの、声。いや、怒号。
その怒号は、地平線の遥か彼方の大地をも揺らした。
すると目の前で口を開けていた地竜が、急に口を閉じた。
え……、なんで……。
そのまま地竜は、いや目の前の地竜だけじゃない。あたしを狙っていた他の地竜達は……、皆白夜の方へ歩いていく。
何が起こったのかわからない。だから、地竜達が足を進める白夜の方へ目をやった。
でも、それも必要なかったみたいだ。
白夜は、さっきまで地竜のいた、あたしの目の前で手を指し伸ばしていたのだから。
「ごめん……、遅くなった………。今度こそ、もう大丈夫だよ」
一瞬の出来事すぎて、何がなんだかわからない。わからないけど……。
助かった………の………?
一度は死を覚悟して、それでも彼に会いたいと願って。
そして今、その人は目の前にいる。目の前であたしを待ってくれている。
そう思うと、涙が、止まらなくなって。
「白夜ァ……、怖かったよ、怖かったよ……」
今の今までいっぱい泣いてきたのに。何故か今まで冷たかった涙が、暖かく感じた。
こんな顔見られたくないのに。涙が止まらなかった。
「もう、大丈夫。後は任せて」
白夜が優しい笑顔で、語りかけてくれる。
もうそれだけで十分だった。
でも彼の顔が、周囲の状況を物語っていた。
だからあたしも泣いちゃいられない。
目の奥まで溜まっていた涙を全部拭い取って、白夜の手を取った。
「わかってる、もう大丈夫」
もう泣かない。白夜がいるから、もう泣けない。
そのままゆっくりと立ち上がろうとする。
だけど、すぐに両足から崩れ落ちた。
「あ、あれ……? なんで………」
何度も立ち上がろうと試みるけどやっぱりダメだ。
すると白夜が急に、腰の方へ手を回して………!
「よっと…………」
抱き抱えられた……!
「ひぇ!?」
思わず変な声が出てしまった。
はわわわわ、どうしようどうしよう! ずっとドキドキいってるよぅ……。
「は、白夜……、こ、これ……」
今までで一番といっていいぐらいに顔が熱い。
「時間ないから、このまま行くよ!」
勢いに任せて頷いてしまう。
「白夜! こっちだ!」
葵さんが叫ぶ声が聞こえた。
そのまま白夜は走り出す。
好きになった人の腕の中で揺られて運ばれる。
こんな夢のような時間がいつまでも続いて欲しいと、あたしはただ願うだけだった。
でもやっぱり楽しい時間はすぐに終わっちゃうんだな……。
ストルスさんの近くに着くと、優しく下ろしてくれた。
まだ顔が熱いのは、言うまでもない。
あたしの無事が確認出来た三人は、また何か話しているみたいだけど、今のあたしにはそんなことは全く頭に入ってこなかった。
ずっと白夜の方を眺めながら、ボーッとしていた。
昔、おばあちゃんが言ってたなぁ………。
―――――カレンにも、一人の男の子を特別に見るようになる時が、来るやもしれん。じゃがそれは、決して悪いことじゃない。大人に一歩近づいた証拠なんじゃよ。
あれはこのことだったのかな……。えへへ。
なぜかむず痒くなって、笑みが溢れてしまう。
そうしているうちに、話し合いが終わったらしい。
ストルスさんが詠唱を始めた。少し大きめの魔方陣が現れて、地面と同じ色に光っている。
「……発動(start)!」
発動式を詠唱と共に、地面がドーム状を象るように盛り上がってきた。
真上が閉まろうとした瞬間、背後に気配を感じた。
そう思うと同時に、腰から刀が抜かれた。そんなことするのは、もう決まってる。
それに彼はあたしに言ったんだ。
—————後は任せて。
「えっ!? は、白夜!?」
「借りるね」
一言だけ残してそのままドームの外へ。
「お、おい白夜!!」
ストルスさんの叫びも虚しく、ドームは固く閉ざされてしまった。まるであたし達を拒むかのように。
「は、白夜………? なんで、なんで…………。白夜ァ!!」
さっき全部拭い取ったはずなのに。涙はもう出ないはずなのに。なんであたしの両目からは……、こんなにも冷たい涙が出るの……。
ドームの壁を叩いて、彼の名前を叫ぶが、ただあたしの声が反響するだけ。
「おいストルス、これを今すぐどうにかできないのか!?」
「無理だ! 出来るならアイツが出て行った瞬間にやってる!」
やっと気付けたのに。それを伝える相手がいないんじゃ、この溢れる気持ちを……どうすればいいの………。
「効果持続時間はどれくらいだ?」
「十分経てば、何とかってとこかな。それまでは待機って感じだ」
真っ暗で周りは見えないけど、ストルスさんの声が響いている。
「あのクソ野郎に、一発入れてやんねぇと気がすまねえ」
鈍い音が聞こえた。ストルスさんがドームの壁を叩いたんだろう。
「この時間に錬成するしかない。ストルス、灯りを頼む」
そんな暗闇の中、葵さんの静かな声が聞こえた。
「十分で終わるんだろうな!?」
怒りを表に出して怒鳴っている。
「黙れ、悔しいのはお前一人じゃないんだ。十分で終わらせて欲しいなら、さっさと灯りを出せ」
「わぁーったよ! 待ってろ!」
火属性の初級魔法を発動させ、ドーム内が明く照らされた。
そして、葵さんの錬成が始まった。
――――――――
「くそ! まだかよ!」
「自分の魔法だろ!? いつになったら開くんだ!」
「知らねえよ! 早く開け、この!」
呪符二枚の錬成に成功し、あれからもう十数分経っている。
にも関わらず、魔法は未だにその効力を発揮し続けている。
魔法も弱体化しているだろうということで、ストルスさんが大剣で斬りつけているが、全く壊れる気配がない。
お願い…白夜………、無事でいて………!!
こうなった以上、もう祈るしかなかった。
「開けよ。、このぉぉお!!!」
大剣が振り下ろされ、壁にぶつかった瞬間。今まで何の変化もなかった壁が、少し崩れた。
土が落ちて少しだけ凹んだ壁を見て、あたし達の中で希望がみえた。
「ストルス! そこを狙え!」
「いや、そんなことする必要はねえ…………」
そう言い、壁から少し距離をおくと、その凹んだ壁に剣を突き立てるような構えを取った。
何をする気だ、と葵さんが言うが聞こえていないらしい。
上級魔法の詠唱を始め、赤い魔方陣が大剣を包み込んだ。
「お前ら退いてろ、そんでもって飛び出る準備はいいか」
あたしも葵さんも、ストルスさんの近くに移動する。
「………発動(start)!!」
魔法発動と同時に、ストルスさんが飛び出して行く。
赤く光る大剣を手に、壁へ。そして着砲。
けたたましい轟音と共に、ドームは半壊して、陽の光があたし達を包み込んだ。
そして、白夜を探すより先に、目の前の光景を疑った。
「な、んだ……これ……」
葵さんは唖然としていた。あたしも同じ気持ちだ。
だって、あんなにいた地竜がもうほとんど全滅しているんだから。
そして、あたし達の少し遠くに、彼は立っていた。
「白夜ァ!! 今行く!!!」
ストルスさんがはじめに飛び出した。
あたしもそれに続いて、白夜の所へ掛ける。
ぼろぼろになっている彼が、ゆっくりとこちらを振り返った。
そして、そのまま崩れ落ちそうになる白夜を、そっと抱き抱えた。
「バカァ……、バカァ………」
前が見えなくなるくらいに、泣いているのが分かる。
それでも、白夜の無事が確認できたんだから……、それくらい、いいじゃない………。
白夜の手が、そっとあたしの頬を触れ、涙を拭いとった。
竜の血をドロドロに浴びた白夜が、消え入りそうな声で囁いた。
「ごめ……、んね…………」
もう何も言わなくていいのに。あたしの顔を見て謝ってくれた。
そのまま白夜は安らかに、ゆっくりと目を閉じた。
「白夜……、白夜………ぁあ………」
恋した人を抱きしめて、静かに泣いている。
「ハァ……ハァ……、カレン! 残ってる地竜は、始末した! 撤退するぞ!!」
ストルスさんが叫ぶ声。
そうだ、泣いてる場合じゃない。白夜が気を失ってるんだ……。
「グス......、よ……、いしょ……」
白夜をおぶろうとするが、少しよろめいてしまう。
お、男の子って……、こんなに重たかったんだ………。
その場で動けずにいると、二人からこちらへ来てくれた。
「よし、南門保護区域まで飛ぶぞ」
ストルスさんに白夜を背負ってもらう。
「よし、早く行け!」
「わかってる! 転移、南門保護区域!!」
淡い光に包まれて、あたし達は保護区域へ転移した。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
最後にエピローグを書いて、第一節を終わりにしたいと思っています。
まだ一章分ですが、最後まで読んでくださった方々には、本当に感謝です。
これからも投稿続けたいと思うので、応援よろしくお願いします!