4月5日晴れ 『絵描き1名』
「新しいの、入ったぞー」
店の前に出てみると、すでにシュラが誰かと話していた。
その相手は女性で、赤みがかった茶髪を押し込めたベレー帽に、所々絵の具を付けたエプロンを着ていて、格好から見ると画家か何かだと推測することができるのだが、しかし、そんな奴が鍛冶屋に何の用なのだろうか。
「あのー、こちらで絵の具を買えるお店をご存じありませんか? 絵の具を切らしてしまって」
困り果てたというように、眉を歪め、少しおどおどとした態度で尋ねている。
シュラは少し考えてから、申し訳なさそうに答えた。
「この辺りに、そういったお店は無かったと思います。お力になれず、申し訳ありません」
「そうですか……。そうですよね」
やけに押しの弱い絵描きだ。
肩を落としている女性に向かって、距離を詰めると、淡々とした口調でカルラは言った。
「何色の絵の具だ?」
「えーと、青です」
「青ねぇ……。シュラ、清海石と膠液を持ってこい。絵の具を作る」
「分かりました!」
シュラから、青い石と接着力のある膠を受け取ると、乳鉢で石を砕き、膠で固める。そして、固まって絵の具になった塊を薬包紙に入れた。
「これで、絵の具が出来たぞ」
「すごいです。自分で作れるものなんですねー」
絵描きなのだから、そのくらいは知っていそうなものだが、見た目通り間が抜けている。
「知っていれば、簡単にできるものだ。製法書も付けてやるから、買っていけよ」
「ありがとうございます!」
本と一緒に会計をしていると、女の手元から筆が落ちてきた。地面に転がった、その筆を見ると、魔石が埋め込まれていて、それが魔法の道具であることはすぐにわかった。
「それ、魔道具ですか?」
シュラが尋ねると、女は苦笑いで答えた。
「はい。でも、上手く扱えないんです」
「これは絵を一時的に具現化する道具ですよね」
珍しい道具に、カルラは目を見開く。
「え、金もか?」
「カルラさん、それは犯罪です」
「聞いただけだし、あとバレなきゃ犯罪じゃないし」
「私が知っていますから、安心してください」
敵は意外と近くにいるものだ。
カルラは筆を拾い上げると、だいたいの構造をイメージして、女に尋ねる。
「これ、絵の具が必要なものだよな。いざというとき使えるのか?」
「どれだけ早く描いても、間に合わないんです。大雑把だと反応してくれないですしー……」
絵の具を付けて、それから描いているから間に合わなくなるのだ。それなら、初めから単色を、いつでも出せるようにすればいい。
「これを、墨が出せる機構に組み換えれば、早くなるんじゃねぇか?」
「墨絵ですかー?」
「ああ、練習すれば早く、上手く描ける」
そう言うと、表情を明るくして女は言った。
「すごいですー! でも、お金はあまり持っていませんよ」
「勉強代っつーことにしといてやるよ。二日後、また来い」
「はい!」
絵描きの女を見送る。
スキップをしながら帰るくせに、やけに下手くそですぐに転んだ。
「カルラさん、大丈夫ですか?」
「俺に作れないものはない、と思えば出来そうだ」
「いえ、そうではなくて……」
心配そうに、カルラのことをシュラは見る。そして、何度か言い淀んでから、ようやく言葉を口にする。
「悪用しないですよね?」
「……」
「何とか言ってください!」
計画失敗。
絵描きの女(23)
特技……描写魔法
備考……国を渡り歩くさすらいの画家。人が良くて自信がないため、よく騙されて利用される。




