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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.4~
99/411

4月5日晴れ 『絵描き1名』

「新しいの、入ったぞー」


店の前に出てみると、すでにシュラが誰かと話していた。

その相手は女性で、赤みがかった茶髪を押し込めたベレー帽に、所々絵の具を付けたエプロンを着ていて、格好から見ると画家か何かだと推測することができるのだが、しかし、そんな奴が鍛冶屋に何の用なのだろうか。


「あのー、こちらで絵の具を買えるお店をご存じありませんか? 絵の具を切らしてしまって」


困り果てたというように、眉を歪め、少しおどおどとした態度で尋ねている。

シュラは少し考えてから、申し訳なさそうに答えた。


「この辺りに、そういったお店は無かったと思います。お力になれず、申し訳ありません」

「そうですか……。そうですよね」


やけに押しの弱い絵描きだ。

肩を落としている女性に向かって、距離を詰めると、淡々とした口調でカルラは言った。


「何色の絵の具だ?」

「えーと、青です」

「青ねぇ……。シュラ、清海石と膠液を持ってこい。絵の具を作る」

「分かりました!」


シュラから、青い石と接着力のある膠を受け取ると、乳鉢で石を砕き、膠で固める。そして、固まって絵の具になった塊を薬包紙に入れた。


「これで、絵の具が出来たぞ」

「すごいです。自分で作れるものなんですねー」


絵描きなのだから、そのくらいは知っていそうなものだが、見た目通り間が抜けている。


「知っていれば、簡単にできるものだ。製法書も付けてやるから、買っていけよ」

「ありがとうございます!」


本と一緒に会計をしていると、女の手元から筆が落ちてきた。地面に転がった、その筆を見ると、魔石が埋め込まれていて、それが魔法の道具であることはすぐにわかった。


「それ、魔道具ですか?」


シュラが尋ねると、女は苦笑いで答えた。


「はい。でも、上手く扱えないんです」

「これは絵を一時的に具現化する道具ですよね」


珍しい道具に、カルラは目を見開く。


「え、金もか?」

「カルラさん、それは犯罪です」

「聞いただけだし、あとバレなきゃ犯罪じゃないし」

「私が知っていますから、安心してください」


敵は意外と近くにいるものだ。

カルラは筆を拾い上げると、だいたいの構造をイメージして、女に尋ねる。


「これ、絵の具が必要なものだよな。いざというとき使えるのか?」

「どれだけ早く描いても、間に合わないんです。大雑把だと反応してくれないですしー……」


絵の具を付けて、それから描いているから間に合わなくなるのだ。それなら、初めから単色を、いつでも出せるようにすればいい。


「これを、墨が出せる機構に組み換えれば、早くなるんじゃねぇか?」

「墨絵ですかー?」

「ああ、練習すれば早く、上手く描ける」


そう言うと、表情を明るくして女は言った。


「すごいですー! でも、お金はあまり持っていませんよ」

「勉強代っつーことにしといてやるよ。二日後、また来い」

「はい!」


絵描きの女を見送る。

スキップをしながら帰るくせに、やけに下手くそですぐに転んだ。


「カルラさん、大丈夫ですか?」

「俺に作れないものはない、と思えば出来そうだ」

「いえ、そうではなくて……」


心配そうに、カルラのことをシュラは見る。そして、何度か言い淀んでから、ようやく言葉を口にする。


「悪用しないですよね?」

「……」

「何とか言ってください!」


計画失敗。

絵描きの女(23)

特技……描写魔法

備考……国を渡り歩くさすらいの画家。人が良くて自信がないため、よく騙されて利用される。

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