4月4日雨 『掃除屋2名』
「新しいの、入ったぞー」
レトロ工房には、カルラのやる気の無い声が響く。
そして、いつも通り周囲を見回していると、物陰に二人の男の影が見える。
一人は帽子をかぶった髭面で、もう一人はサングラスで顔を隠している。
「兄貴、あいつ俺らに気付いていないか?」
「いんや、気づいてねぇだろ。あの間抜けな面を見ろ、鈍感そうだろ?」
そうやって、大きな声で話しているから、とりあえず声をかけてみることにする。
「おい、テメェら」
「誰がテメェらだぁいっ!」
「挨拶がなってねぇなっ! ……って、あれ鍛冶屋じゃねぇか?」
驚愕に目を見開く二人に、カルラは尋ねた。
「テメェら、普通の輩じゃねぇよな。保険屋か? 詐欺師か? 暗殺者か?」
この街で普通の奴がいるとは思わないけれども。
質問を聞くと、二人はバレてしまっては仕方ない、と言わんばかりに易々と、物陰から飛び出して、自分たちの正体を明かしだす。
「ふっふっふっ、教えてやろう。俺達は暗殺者兄弟。俺は弟のジブロと」
「兄のターニだ。だが安心しろ、ターゲットはお前ではない」
「そう、オレらのターゲットは黒い奴と聞かされている」
全部教えてくれた。親切だな。
二人は拳銃をちらつかせ、にやにやと怪しい笑みを浮かべている。どうしたものかと考えていたら、そこに、店の奥からニコが歩いてきた。
「どうしたの?」
「ん? ああ、変な奴等が来ていてな」
カルラの発言に、ジブロは身を乗り出して抗議する。
「おいおい、変な奴等ってなんだよ!」
「どこが変な奴等だ、イケテるだろ!」
ターニもそれに続く。
しかし、雨だというのに、傘も指さずに何をやっているのだろうか。
カルラは、二人を無視して話を続けた。
「……ニコ、あの変な奴等、お前が呼んだのか?」
「ツテはある。けど、こんなのは知らない。自分でやった方が早いし」
「俺もだ。自分の腕の方が信頼できる」
元騎士の会話に、兄弟はたじろぐ。
「この鍛冶屋、俺らより危ないんじゃないか?」
「……やっちまったな」
膠着状態に陥り、しばらく雨音しか聞こえなくなる。
そして、店の扉が開く。そこにはシュラが立っていて、外に居る二人を見るや、瞳を輝かせる。
「お待ちしておりました!」
どうやらシュラが呼んだらしい。しかし、どういうつもりなのだろうか。
「おい、どうやってコイツらと知り合ったんだ? ちゃんとどんな人が場数を踏んでから決めたのか?」
「なにお見合いみたいなことを言っているのですか? 私は新聞広告に書いてある方々に依頼しただけですよ」
暗殺者なのに新聞広告? 何を考えているのだろうと、ジブロとターニの姿を見ると、視線を反らされる。
「こちらです!」
シュラに手を引かれ、二人は店の、裏手にある倉庫に連れていかれた。
後に続いてみると、厳重に封鎖された扉があって、異様な雰囲気に変わった倉庫がそこにはあった。
「お願いします、害虫駆除!」
シュラのポケットに入っていた新聞を手に取り、広告を探す。赤ペンでなぞられた部分を見てみると『掃除屋兄弟! どんなものでも排除します!』と書かれていた。
「なあシュラ、コイツら何だと思う?」
「え、幅の広い清掃会社さんですよね?」
まあ、あながち間違っていない。そして、シュラがこう思っているのなら、倉庫の中のターゲットは決まっている。
カサカサカサ……。這い回る音が聞こえた。
「兄貴、俺、虫苦手なんだ」
「オレも得意じゃねぇよ。帰るぞ……」
そう言って踵を返す二人の肩をつかみ、カルラは倉庫の中に押し込んだ。
「何すんだよ、まじで!」
「これ、専門外だから!」
「うるせぇ、さっさと仕事しろ」
カルラは倉庫の扉を閉め、再び封印してやる。
「暗い! 怖いっ! 無理っっ!」
「ちょ、え、あぁぁぁぁー!」
「虫が! 背中に入った、ああ、アーッ!」
断末魔が聞こえる。
可哀想だから、少ししたら開けてやるとしよう。そう、一時間くらいしたら。
「シュラ、後で説教な」
店に戻りながらそんなことを口にすると、シュラは戸惑い震える。
「な、何故ですか!? ゴキブリさんは怖いじゃないですか!」
「ニコがやってあげたのに」
「ニコさんは素手で捕まえるから駄目ですっ!」
とりあえず今は、倉庫にある危険なものが作動しないことを願うばかりだ。
ジブロ(28)
特技……射撃
備考……暗殺業に手を出してみたが、結局なにをしたら良いのか分からず、新聞に広告を出したのが運のつき。
某動画投稿の弟をイメージした。
ターニ(32)
特技……運転
備考……暗殺業を開いた弟に乗っかる形で参加した。運転手として楽に稼ごうとしたのが運のつき。
某動画投稿の兄をイメージした。




