4月3日曇り 『異世界人1名』
「新しいの、入ったぞー」
「鍛冶屋に入りますか? はい」
店の前には自問自答を繰り返す男が、店の前に立っていた。久しぶりに見た、かなり危ないやつだろう。
焦点の合わない目が、それを如実に表している。
「な、何かご用ですか?」
「……」
シュラの問いかけに対しても何も言わない、ただの屍のようだ。
え、なんで喋らないの。何しに来たんだよ。
おそるおそる、カルラが問いかける。
「おい、何が欲しいんだ?」
「鉄の剣、500G」
「そ、それにするのか? おい」
「はい」
何故だろう。会話が成立しているのに、まるで本人がそこにいないような、操り人形とでも話しているかのような錯覚に陥る。
売買を終えると、男がさらに口を開いた。
「立ち去りますか?」
「は?」
「はい」
何故か会話の節々に自問自答を挟んでくる。頭は大丈夫なのだろうか。
男は振り返り、買ったばかりの鉄の剣を、町中で抜く。そして、初めに持っていた檜の枝を、道の真ん中に放り投げた。
「おいテメェ、何ポイ捨てーーー
「デレレレレッ!」
「うぉっ、何だっ」
突然鼻唄を歌い出したかと思えば、いつの間にか目の前に現れた男達を見てこう言った。
「盗賊が、現れた」
何をもってそう言っているのか、皆目検討もつかないが、確かに風体の悪い連中だ。
「特技」
男は鉄の剣を振りかざして叫ぶ。
「アイスソードッ!」
男の魔力によって、刀身には氷のつぶてが張り付く。その剣に触れた盗賊たちはバッタバッタと倒れていく。
「すごいです」
「……けど、名前がダサいな」
その様子を見ていたカルラ達は、傍観を決め込む。
一段落した際、労いの言葉でも掛けてやろうかと、カルラは男の肩を叩く。
「お疲れさん、とりあえず警備隊ーーー」
「テレレレッレッレッレーッ!」
「今度はどうしたっ!?」
周囲を警戒するカルラだったが、特に誰もいない。
「ああああは、レベル13になった。ステータスがーーー」
なにやら物凄く奇妙なことを叫び散らす男を他所に、カルラとシュラはそっと、後ろに下がっていった。
「シュラ、たまにああいうのも居るから、気を付けろよ
「はい。すごく怖いですね」
背後の男は、先ほどの受け答えとは違い、咳を切ったように一人で話している。
「あと、名前もダサいかった」
ああああ(Lv.13)
特技……アイスソード
備考……魔王を倒す夢だけで生きる人。戦うことに関してはそこそこだが、一方で、壁に頭をぶつけ続けたり、何度死んでも生き返ったりと、奇行が目立つ。
最近、薬草の使い方を覚えたらしい。