4月2日晴れ 『スパイ1名』
「新しいの、入ったぞー」
「なるべく違法なものであれば、嬉しいです。私も楽しめるので」
店を訪れていたのは兵士だった。いつだったか、女兵士と共に来たことがある奇妙な、それに加えて異様な人物だと記憶している。
カルラは面倒臭そうに、他人の不幸を願っていそうな笑顔に言った。
「ドMの兵士が、今日は何のようだ? 今のところ、新聞保険の勧誘、苦情や逮捕は断っているんだが」
「ドMとは嬉しいアダ名ですね、罵倒してください」
名に違わぬ変質性である。
そして、カルラの後ろに何かを捉えたMは、細くした目を和ませる。
「シュラさん、こんにちは」
「ふぇあっ!? ……ど、どうも……こんにちは」
扉の隙間から覗いていたらしく、見つかったと分かり表に出てくる。明らかに警戒していて、カルラに対しての不安げな視線を感じる。
Mは優しそうに見える表情のまま微笑んで、話を切り出した。
「今回来たのは他でもありません。貴女方に頼みたいことがあったのです」
「頼みごと?」
絶対に、こちらに取って良いことではないだろうが、一応聞いてみるとする。
Mは一呼吸置いてから、口を開いた。
「はい、罵倒してもらいたいのです! 罵倒して下さいっ!」
「は?」
「ああ、間違えました。我が国に下りませんか?」
最初よりも熱意が違うのは気のせいだろうか。
しかし、それはさておいても、"国に下る"というのは、実はヤバいことを言われているような気がする。
「……お前、スパイか?」
「ええ、よく分かりましたね。団長のときは、二三日掛かりました」
簡単に認めてしまうものだ。知り合いのスパイは、もっと口が固かったはずなのだけど、こいつはそうでもないらしい。
「あの女にも言ったのか?」
「刺激が足りなかったので、秘密の共有をと思いまして」
「そんな理由で国の秘密も漏らして、よくクビにならないな」
呆れた声を漏らすと、シュラがMに尋ねる。
「どうして、カルラさんを誘うのですか?」
「これほど変わった武具を作れる職人は、あまり居りません。……この方の価値は、貴方の方がご存じなのでは?」
今まで演技だったのかと思わせるほど、冷静に答える。
そう言われて、シュラは口をつぐんだ。そこまで信用されているのは嬉しいものだが、外国旅行する気分ではない。
「断る」
「そうですか」
「……他言無用とか、そんなこと言わないのか?」
「刺激が欲しいもので」
これは演技ではなかったか。
「欲求不満なんですよね。告白したら断られましたし」
「回りくどいんだよ。保険の勧誘の方が、もっと直接的で熱烈だ」
どMの兵士は苦く笑う。
「参考にします」
マイク・サーチクラウン(24)
特技……拷問耐性
備考……並外れた精神力と、肉体の強靭性から諜報部隊に選ばれた。性癖には直球だが、恋愛に関しては奥手。
変態だって生きているんだ、友達なんだ。




