表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
93/411

3月30日晴れ 『学生1名』

「あーーー」

「こんにちは!」


元気よく、溌剌と春の陽気のような少女が、濃い藍色の正装に身を包んで立っていた。


「どうした? コスプレなんかしちゃって、恥ずかしくないのか?」

「違うからね! これはコスプレじゃなくて、学生服。春から新入生せいなの」


医者家系の落ちこぼれ、テウスは自慢げにスカートを揺らしながらそう言った。

そういえば、そんな季節だったか。

カルラは感慨深そうに、世界の真理を悟った目をする。


「馬鹿でも学生になれるのか」

「考えうる限りで、とても失礼な反応だよね。……というか、頭が良くないから勉強するわけでしょ」

「まあそうだけど、お前の場合は入学試験がキツそうだなと思っただけだ」

「そこは大丈夫!」


テウスは胸を張り、まるで自分の実績を誇示するかのような声色で、高々とカルラに向かって言う。


「純粋な親のコネよ!」

「純粋さの欠片もねーし、あと誇るなっ!」


そんなことだろうとは思っていたけれど、金の力を見せつけられると恐怖しか湧かない。


「だけど少し困ったことがあるの」

「何だ?」


珍しく落ち込むテウスは、悩みを打ち明けた。


「授業についていける自信が無いの、これっぽっちも」

「それについては何となく分かっていたが、これっぽっちもか……」

「これっぽっちもなの……」


度々繰り返すと、こちらが悲しくなるのは何故だろう。


「俺は学生したことねぇから分からないな。シュラはあるか?」

「え? そうですね、村の学校には通っていました」


お茶を用意していたシュラは、断片的に聞いていた内容をある程度理解して、たどたどしく答える。

テウスはその反応に、興味深そうな目で尋ねた。


「どんな学生だったの? 参考までに!」


詰め寄るテウスに、お姉さん気分を感じたのか、上機嫌になってシュラは話し出した。


「本を読んでいましたね。授業が終わったら、ずっと図書館で勉強していて、図書館の本を全部読んだら読み返して、楽しかったですよっ!」


興奮ぎみに答えて貰ったところ悪いが、どん引いている。というか、シュラちゃん友達居なかったの?

苦笑いを浮かべているテウスに、カルラが補足として口を開く。


「……とまあ、授業以外の時間も勉強してりゃ、追い付けるだろうと俺も思うが、結局大事なのは、それ以外のことを如何に進めるかということだろ」


後ろに丁度よく、ボーッとニコが立っていたから、ニコに尋ねる。


「ニコ、お前は学校で何をしていた?」


質問の意図がわからず、首傾げながら、それでもしっかりと応じた。


「……お菓子食べてた」

「他には?」

「友達と遊んで、寝てたけど」


その様子が目に写るような、イメージ通りの過ごし方で助かる。テウスの方を向きなおし、ニコを指差しながらカルラは言った。


「だから、こんな奴もいるんだから、成るように成る。気にすんな」

「分かった! ありがとね!」


元気がついたテウスは、晴れ着を日溜まりに輝かせて、子供らしく駆けていく。その姿を見送っていると、後ろでのんびりとした声が聞こえてきた。


「でも、ニコは勉強一番だった」

「知ってる。学生に才能なんて教えるな、悲しくなるだろ」


そんなやり取りを見て、シュラは気まずそうに呟く。


「残酷過ぎませんか? その気遣い……」


冬の面影を忘れて、春はその存在を主張する。

テウス・レ・マット(15)

武器……気合い

備考……元気だけが取り柄。レ・マット家で唯一問題を起こさないことで評判はいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ