3月29日晴れ 『時計屋1名』
「新しいの、入ったぞー」
そう言って出ると、カルラを待っていたのか、金髪の少女がそこに立っていた。
そして、顔色ひとつ変えない軍人のような態度で、淡々と口を動かした。
「初めまして、クローム・スピアコールドと申します。注文よろしいですか?」
「もちろん、歓迎するぞ。作れるかどうかは別として」
「では、魔力伝導率の時計針をお願いします」
時計の針。特別魔力を使うようなものではないし、時計の部品の注文も珍しい。
奇妙に思ったカルラは、クロームに尋ねる。
「時計針なら時計屋に任せるもんだろ?」
よく聞かれるのか、クロームは肩を竦めて、小さく溜め息をついた。
「それは当然そうしたいものですが、しかし、どうしても金属生成の段階で壊れてしまうのですよ。この時計屋が、どうしても出来なかったように」
自らを時計屋であると明かし、煮え切らない問答を嫌ったクロームは、眉をひそめて詰め寄ってきた。
「それで、出来るのですか? 出来ないのですか?」
「やりたくないです」
「出来るのですね。お願いします」
何故そうなるのか、威圧されるがままに商談が成立してしまう。別にいいけど。
クロームは帰らずに、しばらく店の壁に立て掛けられた物を見てから、再びカルラに話しかけてきた。
「おや、銃も置いているのですか?」
「それは従業員のだ。自分で置いたくせに、触ると怒るから気を付けろ」
「それは怖い怖い」
そう言って、遠くからそれを眺めていると、通りを歩いていた人物が足を止めた。
「クローム、何故ここに?」
ニコは、クロームの姿を見るなり、目を見開いてそう言った。クロームも、不敵な笑みを浮かべて、知り合いであることを周知させる。
「やはりニコのでしたか。こんなところに、友達を置くのはどうかと思いますよ」
「答えになってない」
ただならぬ状況に、一緒に買い物へ出していたシュラに、そっとカルラは尋ねた。
「シュラ、ニコから何か聞いてないか?」
「えーと、確か王都に友達が居るとか、友と書いてライバルがいるとか、親友が居るとか聞いたことがあります」
「どちらかというと、宿敵みたいな対応なんだが?」
クロームはニコを挑発するような口調で言う。
「ニコ、少し太りましたね。だから、甘いものは控えるように言ったではありませんか」
しかし、怯む素振りもないニコは、平然としているクロームに反撃をする。
「ニコ太ってない。クロームは痩せた。寂しいかった?」
クロームはその挑発を鼻で笑い、なんてことないというふうに話し出す。
「居なくなった直後は泣きましたが、」
泣いたのかよ。
「もう大丈夫です。元気な顔も、久しい顔も見れましたから」
クロームは振り返り、どこかに向けて歩き出す。数歩進んでから、何かを思い出して振り替える。
「ああそれと、もう部隊は辞めました。趣味であった時計作りが本業です。たまに遊びに来るので、そのときはお茶でも出してください」
クロームが去った直後、ニコを睨む。
「ニコ、あの女は誰だ?」
「クローム。可愛い。面白い」
「誰が外見について聞いた? それは俺が判断するから、経歴を教えろ」
ニコは目を反らし、少し小さな声で返した。
「狙撃部隊副長……だった」
クローム・スピアコールド(18)
特技……早撃ち
備考……手先が器用で、早撃ちの名手。極度の寂しがり屋だが、表に出さない精神力を有する。
モデルはアニメの、幼女軍人。