3月27日雨 『賞金稼ぎ1名』
「新しいの、入ったぞー」
「おー、この街にも鍛治屋はあるのか。ラッキー、ラッキー」
古びた服装の男が、そう言って店にやってくる。まるで放浪者のような男は、髭をさわりながら、店の商品を物色していた。
誰にでも分け隔てなく、優しくないカルラは、男を軽く睨見つけた。
「何だ、お前。見たところ金は無さそうなんだが」
「いやいや、結構あるんだぜ。ほらよ」
焦った様子で、男は懐から金の入った袋を取り出す。
確かに、買い物できるだけの金額が入っていたが、家一件を建てられるようなくらいに持ち歩く奴なんて珍しい。
つまりは、普通の客ではないのだ。
「なるほど、強盗だな。しかも腕利き。……よし、商談だ」
「強盗だと思うなら、しないで下さい!」
いつの間にか後ろで立っていたシュラは、厳しい目付きで、小さな体でしかりつける。
「んだよ、シュラ。頭固いな」
「カルラさんがふやけているだけですよ」
「誰の頭が水浸しだ? もっとしっかりしてるからな」
「カルラ、そんなにしっかりしてない」
ニコもシュラと一緒に出て来て、平然とそう言ってのける。
少し落ち込むカルラに、男はヘラヘラと肩を揺らす。
「へぇ、結構な人気者だな、兄ちゃん」
「まあな。それで、そんな大金どうしたんだ?」
再び、それとなく聞いてみると、少し考えてから男は答える。
「ま、話してやってもいいかな。……この辺に、金をたくさん落とす魔物が生息していてな、そいつを狩っていたら貯まったんだよ」
「お金を落とすのですかっ!?」
金と聞いて、シュラが反応する。帳簿に赤い字が乱立しているためだろう。済まないとは思うが、反省はしていない。
興味を持った弟子に、カルラが説明を引き継ぐ。
「古代の金を喰う魔物がいるんだよ。結構有名な話だ。物によるが、そこそこの値段で買い取ってくれる」
「何故、それを知っていてカルラさんは黙っていたのですか。私達で狩れば、お金の心配しなくて済んだのですよね?」
鉱山に行ったり、ダンジョンに行ったりしたのだが、魔物の討伐はしたことがない。しかし、それには理由があるのだ。
「魔物の素材を売るには、ギルドに所属していなきゃならないんだ。んで、会費やら延長やらで金が掛かるからやらないんだよ。手続きも面倒だし」
ほとんどギャンブルの肉体労働で、命懸けとなれば、必然的にやる奴は少なくなる。
だが、金に目が眩んだようで、シュラは何かを呟く。
「それさえやれば、私も冒険者になれるのですね……」
止めはしない。たぶん、大丈夫だから。
カルラとシュラの話が終わると、男が思い出したように尋ねた。
「ああそれで、何か良い装備は売ってないか?」
「ミスリルの軽鎧なんてどうだ?」
「お、良いね。じゃあ、これで」
ぼとりと何かが落ちる。
黒くくすんではいるが、それは魔物の腕だった。
男は、恥ずかしげもなく豪快な笑い声をあげると、さっさとそれを拾い上げて、懐に戻す。
「悪い、ゴブリンの右腕だ。結構な値段で売れるんだよ」
それを見たシュラは青い顔をして、カルラの袖を引っ張った。
「カルラさん、私は冒険者さんになれません」
それが無くとも、実は年齢制限なんてものがあり、それに引っ掛かりそうな気がするのだが、それについては黙っておくとしよう。
冒険者……ガンガン逝こうぜ。