3月26日晴れ 『女騎士とパーティー』
「新しいの、入ったぞー」
店に出ると、夕日のような赤い髪を長く伸ばした少女が、白銀の鎧を着て、商品を眺めながら立っていた。
そして、カルラの視線に気がつくと、少女は黒い縁の眼鏡越しに、こちらに向けて笑みを浮かべた。
「こんにちは。友達とはぐれてしまいまして」
困ったように眉を傾ける彼女からは、それほど困ったというふうな感覚はない。
心配されるような、やわな友人ではないのだろう。冒険者か何かの集まりなら、大抵はこんな感じだ。
「こんな小さな街で、どうやってはぐれるんだよ? 案内板もあるのに」
「返す言葉もありませんね。私はかなりの方向音痴ですから、よく迷ってしまうんです。この前も、友達の家で迷子になって、二日間出られなくなりましたから」
「いや、どんな迷宮だ!」
確かに、これならはぐれても、おかしくは無いのだろうが、それならそれで、首輪とかロープとかで結べば良いのではないだろうか。いや、色々と不味いな、主に倫理観。
「まあ、お前の友達なら、すぐに見つけてくれるだろ」
「そうだと良いのですが」
「大丈夫だ。迷宮に住めるなら、こんなところ朝飯前だ」
「迷宮には住んでませんよ?」
真面目な返しをする辺り、良いところのお嬢さんなのかもしれない。武装もそれなりだし、礼儀もある。冒険者ではないのだろう。
「待っている間、何か見ても良いですか?」
「構わねぇよ。見る分には減らねぇけど」
「では、おすすめを教えて下さい。それを買います」
年頃の少女らしい笑顔が眩しく見える。眼鏡や髪で隠れていたが、意外と美人なのかもしれない。
そんな娘が喜びそうな道具を探していると、遠くの方で声が聞こえた。
「おーい、リィーイ! 何してんだよっ!」
「ダメですよ。勝手に離れては」
「僕の手を離したらいけないよ!」
三人の男達が、少女の姿を見て声をあげている。どれもそれなりに外見は良さそうで、まるで選ばれたかのように、個性がバラけている。
「彼氏か? かなり多いけど」
「いいえ、友達ですよ」
リィーイは冗談を返すように、当たり前のようにそう言った。
何となくだが、彼女の立ち位置が分かった気がして、カルラはリィーイにあるものを渡す。
「ペン型の仕込み短剣だ。御守り代わりにでも持っていろ。寝室での男避けだ」
「ありがとうございます! ……でも、そんな機会、あるとは思いませんがね」
それが真実なら良いのだが。
街道の先にいる、三人の男達は、なおもリィーイの姿を見て、安堵の目をしていた。
リィーイ・クロトプル(16)
特技……浄化
備考……異世界から転生してきた少女で、今は異国の貴族として生きている。本人は気がついていないが、かなりモテている。
パーティーの男達
……賑やかし。もう出てくることはない。