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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
87/411

3月24日曇り 『薬剤師1名』

「新しい毒……いえ、薬を飲んで下さいぃ」

「それで飲む奴がいるとしたら、自殺志願者か、頭が空っぽの馬鹿野郎かだろっ。少しは隠そうとしやがれ」


小瓶の入った篭を片手に、エイルは怪しげな笑みを浮かべている。そして、毒を受けとりそうにないカルラの背後に、もう一人の影を見つける。


「あぁ、ニコさん。ど……薬は如何?」


初対面にも関わらず、馴れ馴れしくそう言った。

止めには入ろうかとも考えたが、そうするまでもなく、ニコはそれを拒んでいた。


「甘い? 苦いのヤダ」


このっ、甘党めが。


「……まず、何の薬かを尋ねるべきだし、知らない人から変な物を受けとるべきじゃねぇし、あと何で、ニコの名前を知っているんだよ」


不服そうに、カルラがそう言うと、エイルは嬉々として答える。


「それはもちろん盗聴でぇ」

「もちろん犯罪だ! 警備隊に突きだしてやる!」


私生活を覗くなんて、人としてどうかしている。今度使ってみて、被害を検証してみよう。

ふと、一昨日のことを思い出して、エイルに尋ねてみた。


「ってことは、ジャックの結婚も知っているってことか?」


その言葉に反応して、エイルの目からは光が消える。明らかな殺意を消せずに、楽しそうな声をあげた。


「えぇ~、だから毒を作りました」

「おいおい、死ぬやつ持ってきたのかよ。大罪人じゃねぇか」


エイルは口尖らせて、責めるカルラに抗議する。


「手加減はしましたよぅ。死なない程度に」

「毒で手加減って、出来んのか? いや、そもそも手加減する気があったのか……?」

「浮気癖の治らないジャック様にはしますよぅ。……泥棒猫の女にはしませんが」


手加減の意味が消失した。ジャックはともかく、嫁さんには罪はないだろうに。あと、うちにも。


「おいおい、面倒事はやめてくれ。俺のところにそんな奴が出入りしていたら、今度こそ兵士に捕まる」


何度も目をつけられては、ギリギリで回避してきたのに、それが無駄になる。

しかし、エイルは分かりきったように首を横に振った。


「大丈夫ですよぅ。彼女達は来ませんから」


以前、ジャックが居た部隊のことを、当然のように把握していて、意味ありげなことを言っている。


「……もしかして、だが……何かやったのか?」


恐る恐る尋ねると、冗談でも言われたかのように、愛想笑いで返される。


「いえいえぇ、確かに、ジャック様を顎で使うなんて羨ま……いえ、憎たらしく思っていますが、そんなことはしていません」

「へぇ」

「何かする前に行ってしまいましたからぁ」

「間一髪だな!」


ギリギリだったようだ。今まで、本当に被害がなかったのか、疑問でならない。


「とりあえず、俺らはそれを受け取らねぇからな」

「そうですかぁ……」


肩を落とすエイル。最後に、籠いっぱいに積まれた小瓶の中身について、カルラは何となしに聞いてみる。


「で、その毒の効果はなんだったんだ?」

「顔が変形する毒ですぅ」

「俺らで試すレベルじゃねぇっ!?」


死ぬより辛い苦しみが、一瓶に押し込まれていました。

エイル・レ・マット(20)

好みの男性……分け隔てなく優しい人

備考……医者の家系に生まれたため、薬学の知識が豊富。ありとあらゆる新薬を開発するも、試験体は現れない。

被害がないのか、揉み消されたのか、誰にも分からない。

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