3月23日晴れ 『風邪引き1名』
「新しい薬、持ってきたぞー」
風邪の薬が入った紙袋を片手に、カルラは扉を開けて室内に入る。部屋の隅にはベッドが置かれていて、その上にはシュラが、その横にはニコが座っている。
カルラの存在に気がついたニコは、人差し指を口許に当てた。
「カルラ、静かに。息の根止めて」
「今、自害しても誰も得しないからな?」
どうやら、ついさっき寝たようで、最初に比べて安らかだ。
シュラの熱が発覚したのは昼下がり、朝からずっと体調が悪いことを隠していたらしい。
突然倒れて、慌てて医者に連れていった。
「シュラ、真面目すぎだよね」
「そうだな。たぶん、自分が居ないと店が回らなくなると思っているから、余計に頑張るんだろうな」
「じゃあ、ニコ達が仕事できる人になればいいんだ」
「まあ、そういうことだな」
そういって、二人は部屋を後にする。
階段を下りて、向かったのは一階の台所で、居慣れないそこに並んで、何をするか考え込む。
「まずは料理が出来れば、シュラの負担も減ると思うんだが」
「カルラ、料理ってなにすればいいの? 燃やす?」
「焦るなっ! 最悪、ここが燃え尽きるから」
頭を抱えて悩んでいるカルラは、戸棚にあった料理の本が視界に入り、それを手に取る。
「カルラ、これ……」
「料理の本だな。お、これにはお粥っていうものもある。風邪のときはこれを作ると、宿屋が言っていたな」
「作ろう! 美味しく作れば、シュラも喜ぶ」
作るものが決まり、まずは必要な物を探す。
米と、それを入れるための鍋、その他調味料だ。
「鍋が見当たらないな。ニコ、そっちはどうだ?」
「お米はあった。でも、鍋はない」
そのとき、背後から声が聞こえてきた。
「戸棚の二番目ですよ」
「おっ、あった……って、シュラ、何で起きてんだよ?」
振り替えると、寝間着姿のシュラが、赤い顔をして立っていた。どこから見ても熱の引いていない状態であるため、カルラはシュラを抱き抱えた。
「ちょ、カルラさん?」
「病人は寝てろ。てか、何で降りてきたんだ?」
「いえ、料理という言葉が聞こえて、それが不安で……」
原因はここに居たか。
こんな状態では、どちらにせよ寝れないだろうから、シュラをリビングの椅子に座らせ、毛布をかけてやる。
「分からないことがあれば聞くから、とりあえず手出しは必要ないからな」
「はい。……では、あれは大丈夫なのですか?」
「あれ?」
ゴオゴオと、燃え盛る炎がそこにはありました。
十分間の消化活動のあと、ニコの頭を殴って、料理を開始する。まずは鍋に米を入れて……ーーー。
それから、洪水が起こりそうになったり、火事になりそうになったり、ニコが砂糖をぶちこんだりしたが、なんとかお粥という料理は完成した。
「……出来たぞ。一応、見た目は料理だ」
「本当に、料理のようですね。すごいです!」
料理が出来ないと思われていたのか。分かる気もするけど。
シュラは一口食べると、困ったような、嬉しいような、そんな笑みを溢した。
「甘いですね。お菓子みたいです」
「それはニコが……っていねぇし! 逃げやがったな」
不機嫌そうに眉を曇らせるカルラを見て、クスクスとシュラは笑う。病気でおかしくなったのか?
「私が居ないと、いけないのですね。だから、早く治します」
「……そうか」
思惑とは異なるが、元気がついたのならそれで良い。
「ああ、カルラさん、後片付けもしてくださいね?」
背後にあるのは、料理の残骸。片付けられなければ、元気なシュラの雷だろう。
……逃げたい。
お粥……甘くはないよ。