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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
86/411

3月23日晴れ 『風邪引き1名』

「新しい薬、持ってきたぞー」


風邪の薬が入った紙袋を片手に、カルラは扉を開けて室内に入る。部屋の隅にはベッドが置かれていて、その上にはシュラが、その横にはニコが座っている。

カルラの存在に気がついたニコは、人差し指を口許に当てた。


「カルラ、静かに。息の根止めて」

「今、自害しても誰も得しないからな?」


どうやら、ついさっき寝たようで、最初に比べて安らかだ。


シュラの熱が発覚したのは昼下がり、朝からずっと体調が悪いことを隠していたらしい。

突然倒れて、慌てて医者に連れていった。


「シュラ、真面目すぎだよね」

「そうだな。たぶん、自分が居ないと店が回らなくなると思っているから、余計に頑張るんだろうな」

「じゃあ、ニコ達が仕事できる人になればいいんだ」

「まあ、そういうことだな」


そういって、二人は部屋を後にする。

階段を下りて、向かったのは一階の台所で、居慣れないそこに並んで、何をするか考え込む。


「まずは料理が出来れば、シュラの負担も減ると思うんだが」

「カルラ、料理ってなにすればいいの? 燃やす?」

「焦るなっ! 最悪、ここが燃え尽きるから」


頭を抱えて悩んでいるカルラは、戸棚にあった料理の本が視界に入り、それを手に取る。


「カルラ、これ……」

「料理の本だな。お、これにはお粥っていうものもある。風邪のときはこれを作ると、宿屋が言っていたな」

「作ろう! 美味しく作れば、シュラも喜ぶ」


作るものが決まり、まずは必要な物を探す。

米と、それを入れるための鍋、その他調味料だ。


「鍋が見当たらないな。ニコ、そっちはどうだ?」

「お米はあった。でも、鍋はない」


そのとき、背後から声が聞こえてきた。


「戸棚の二番目ですよ」

「おっ、あった……って、シュラ、何で起きてんだよ?」


振り替えると、寝間着姿のシュラが、赤い顔をして立っていた。どこから見ても熱の引いていない状態であるため、カルラはシュラを抱き抱えた。


「ちょ、カルラさん?」

「病人は寝てろ。てか、何で降りてきたんだ?」

「いえ、料理という言葉が聞こえて、それが不安で……」


原因はここに居たか。

こんな状態では、どちらにせよ寝れないだろうから、シュラをリビングの椅子に座らせ、毛布をかけてやる。


「分からないことがあれば聞くから、とりあえず手出しは必要ないからな」

「はい。……では、あれは大丈夫なのですか?」

「あれ?」


ゴオゴオと、燃え盛る炎がそこにはありました。


十分間の消化活動のあと、ニコの頭を殴って、料理を開始する。まずは鍋に米を入れて……ーーー。


それから、洪水が起こりそうになったり、火事になりそうになったり、ニコが砂糖をぶちこんだりしたが、なんとかお粥という料理は完成した。


「……出来たぞ。一応、見た目は料理だ」

「本当に、料理のようですね。すごいです!」


料理が出来ないと思われていたのか。分かる気もするけど。

シュラは一口食べると、困ったような、嬉しいような、そんな笑みを溢した。


「甘いですね。お菓子みたいです」

「それはニコが……っていねぇし! 逃げやがったな」


不機嫌そうに眉を曇らせるカルラを見て、クスクスとシュラは笑う。病気でおかしくなったのか?


「私が居ないと、いけないのですね。だから、早く治します」

「……そうか」


思惑とは異なるが、元気がついたのならそれで良い。


「ああ、カルラさん、後片付けもしてくださいね?」


背後にあるのは、料理の残骸。片付けられなければ、元気なシュラの雷だろう。

……逃げたい。

お粥……甘くはないよ。

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