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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
85/411

3月22日雨 『男爵1名』

「新しい茶、入ったぞー」

「うん、ありがと~カルラくーーーアァッッヅイ!!」


昼下がりの休憩時間、視界の隅に入った男の顔に向けて、淹れたばかりの熱い茶をぶっかける。

その顔を見るたびに、損しかしていないのだから、仕方のないことだ。


男の胸ぐらを掴み、顔を目の前に持ってくる。


「何で来やがった、ジャック。うちの商品盗んだりする奴が、うちに上がり込んで茶を飲もうとしてんだ? あぁ?」


ヘラヘラと笑う顔に変化はなく、じゃれあっているかのような楽しげである。


「この前、釣りの手伝いしたのに~?」

「あれは俺が必要だったからだ。今は必要ないから消し去るだけだ。シュラ、溶鉱炉を持ってこい!」

「ありませんよっ! あっても人は溶かしません!」


無かったか。今度、買ってこよう。

そんなことをしていると、ニコが薪を持って現れる。初めて見たものに、疑問の眼差しで尋ねる。


「あれ、これなに? お菓子?」

「違いますよ……」


疲れた顔で言うシュラの代わりに、カルラが説明をしてやる。


「これは人の物を掠めとる人間のクズだ」

「ふーん」


反応が弱いな。紹介文はインパクトが大事なのに。


「あと、甘いものが好きだ」


付け足した文章はニコには効果的で、隠し持っていた飴を抱えて、鋭い目でジャックを見ている。


「……ニコのも食べるの? 消さなきゃダメ」

「食べませんから、その銃を下ろしてください! カルラさんも、煽ったらダメです! いい加減にしないと、怒りますよっ!」


銃口を反らしながら、シュラは二人を叱る。

小さい身体を精一杯動かしたせいで、息切れをするシュラは、暫しの時間を置いて落ち着きを取り戻した。

そして、優雅に茶を啜るジャックの方を向く。


「それで、ジャックさんは何の用で来たのですか? ずいぶんと立派な服装ですけど」


見ると、確かにグレードが上がっている。弁柄色の目立つ色彩に、蒼い刺繍が組まれている。

並みの金持ちでも、あんなダサい格好はしない。


「僕? 僕はね、今日は出世したから挨拶に来たんだよ~」

「出世って、そんなに何度もするもんか? 国境警備くらいで」


そう尋ねると、ジャックは大きく首を横に振る。


「ううん、何か結婚してね、それでキゾクってやつになったみたいなんだ~。ダンヤクだっけ? そんなの」

「どこの貴族が鉄砲玉だ? それを言うなら、男爵だろ」


冗談か何かだとも思ったが、根は馬鹿だから嘘ではないだろう。


「で、何でそんなことになった、また騙したのか?」


決めつけたように尋ねる。


「またって、僕は嘘だけはついたことないよ~?」

「人の物を盗むだけだからか? じゃねぇからな。万引きは犯罪だ!」

「カルラ、バレなきゃ犯罪じゃない」

「いいえ、犯罪です! 話が脱線しすぎですよ!」


シュラは再び、ジャックの方を向くも、率直に質問をした。


「どうして、結婚ということになったのですか?」

「ちょっとしたテクニックだよ~」


馬鹿がテクニックを口にすると、悪質な手口を語りだした。


「街でかわいい娘が居てね、その子が貴族だったの。それで僕が貴族の出身だって噂を流したら~、お見合いになったんだ。そこで前に調べておいた、趣味や好きな食べ物の話で盛り上って~、何でか結婚することになったんだ~」


話が終わってから数秒の間、静寂が訪れた。そんな中、カルラが口を開く。


「……つまり、嘘ついたんだな?」

「うん!」

「詐欺じゃねぇかっ! ただでさえギリギリな鍛冶屋なのに、何で自慢話に来てんだよ!」


犯罪の温床になりつつある。毒薬女とか、酔っぱらい僧侶とか、ヤバい奴が集まっている。

振り子時計が鐘を鳴らし、それに気がついたジャックは立ち上がってこう言った。


「あ、そろそろ帰らなきゃ。リィーンちゃんが待ってるんだぁ~」


ふらふらと壁にぶつかりながら去っていく。


「……行ってしまいましたね」

「そうだな」


見送ってから、カルラはあるものが無くなったことを確認する。


「ところで、さっき水に濡れると爆発する皿が無くなったんだけど、知らないか?」

「……冗談ですよね?」


恐る恐る尋ねるシュラに、カルラはそっと笑みを溢した。


「よく分かったな。実はカップなんだ」

「……」


人のことを言えた口ではない。

ジャック・アグラム(21)

結婚式……和装、洋装どっちもしたい派

備考……何故か利益を得る、運だけにステータスを全振りしたような人間。

実は頭が良いのかって? 残念、アホです!

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