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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
84/411

3月21日曇り 『道士1名』

「新しいの、入ったぞー」


店の前に出ると、少女が座っていた。

しかし、その姿はあまりにも人間らしくなかった。肌は血の気を失い、目の瞳孔は開ききっている。

さらに奇妙なことは、顔に貼られた大きな札の存在だった。


「なんだ、お前」


そう尋ねると、少女は赤い、異国の服を揺らしながら、愛想笑いを浮かべた。


「お気になさらずに。……ただ、ここで朽ち果てようと思っているだけですから」


どこか悲しげなその表情を見て、カルラは何を思ったのか、彼女の顔に手を伸ばす。


「ふざけんじゃねーよ、こんなところで何しようとしてんだ? ああ!?」


変な客はばかりが来るため、荒れています。

カルラが顔の紙切れを引っ張ると、少女は強く抵抗する。


「あ、ちょっ! 札を引っ張らないで下さい、これが無いと死体に戻ってしまうのですから!」


泣きわめく少女と格闘してると、奥からシュラが出てきた。


「あの、何をなさっているのですか?」


いつもの光景になってしまったのか、特段おどろくこともなく、じとりとカルラを見つめている。


「……こいつが、うちの前で死のうとしているから、一思いにやってやろうとしているんだ。溢れる善意から」

「行動に悪意しか感じないのですが。それより、この方はキョンシーですよね?」

「キョンシー?」


聞いたことがない言葉に、カルラが聞き返すと、また別の方から声が聞こえてきた。


「お札で死者の魂を封じ込めて、蘇らせる黒魔術って、イグが言ってた」


ニコは何故か店番を放って、紙袋を抱えながらそう言った。


「急に出てくんな。そもそも、お前が接客だろうが!」

「ニコは甘いものが無いと死んでしまう生き物なのです。マシュマロを買っていました」

「喜べ。死んでも、札を張って永久に使ってやるからな」


カルラが言うと、何故かニコは頬を赤らめ、視線を反らした。


「……カルラのえっち」

「ふっざけんなっ! どんな曲解だ!?」

「いわせないでこのへんたい」


かなりの棒読みなのだが、シュラや街の人々の視線が痛くなる程度の効果はあった。

諦めて、ため息混じりにカルラは尋ねる。


「もういい。シュラ、こいつの対処法は何か無いのか?」

「……襲ってきたら札を剥がせと聞いていますが、戦意は無いようですし。どうしましょう?」

「こっちが聞いてんだが……。まあ、札を剥がせばいいんだな?」


カルラは再び手を伸ばす。

しかし、少女も抵抗する。


「ダメです! 止めてください!」

「うるせぇ、暴れんな。剥がしにくいだろ」

「やめ……やめ……止めてくださいっ!!」


突然、大きな声をあげるから、カルラも驚いて手を止める。少女は好機と見たのか、さらに、熱く、心の底から捲し立てた。


「自由も尊厳も奪って、両親すらも見放した私から、これ以上、何を奪うと言うのですか!?」

「やーめーてーくーれっ!! 俺の自由や尊厳や、その他もろもろ失っちゃうから!」


まるで自分が悪役かのような台詞を言われ、人間的に終わりそうな状況になっている。

こんなのばかりの人生で、気が滅入る。


手を引っ込め、諦めたカルラは言う。


「分かったよ、札を剥がさなけりゃ良いんだな?」


ほっとしたのか、少女は手を胸に当て、優しく微笑む。


「ええ! しばらく、ここに置いてさえ下されば」

「あ、それは無理。うち、これ以上は人増やせないし」

「そんなっ! 一人も二人も変わらないでしょ!」

「それはテメェが言うことじゃねぇし、あと、これで総勢四人目だし!」


急に調子に乗りすぎだ。

生きた死体にかける情けなんて、そうそう在ってたまるか。

そんなことを考えていると、他二名の視線が突き刺さる。


「カルラ」

「カルラさん?」

「……分かってる」


どうせ、放っておいたら後味が悪いのだ。それならば、助けて恩をやって、鶴の恩返しよろしくの利益を待ち焦がれる方が楽だ。

カルラは傍にあった台帳に、住所とその他を書き込み、ちぎって少女に渡す。


「ここの宿屋に屍術士が居るから、そいつに事情を話せ。断られたら、そんときは面倒見てやる」


まだ居るとは聞いているが、どうだろうか。

迷惑かも知れないが、それで嫌われるのなら、甘んじて受け入れよう。振られるのは慣れっこだし。


「あ、ありがとうございます! このご恩、一生忘れません!」


大事そうに、胸の前に抱えて、少女は笑顔でそう言った。


「ほら、行け」

キョンシーの少女(享年16)

特技……早口言葉

備考……死んでから間もなく、試験体として蘇生された。自分に関する記憶がなく、歩き回って、鍛冶屋に行き着いた。


今日の鍛冶屋……強姦騒ぎがありました。今日も元気でした。

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