3月20日晴れ 『鳥人間1羽』
「新しいの、入ったぞー」
「新しいものだけではなく、古きものにも目をやれ。それが進化の糸口だ」
店に来ていた人物には黒い羽があり、それでいて人間のような形をしていた。服装も自分の羽と同じような色の、闇夜に紛れそうな色合いで、どこから見ても奇妙な男だった。
「何だあれは?」
「カルラさん、あの方は鳥人族ですよ。郵便屋さんと同じ種族ですよ」
「いや、そういうことじゃなくて、アイツはうちの前で何をやっているのかってことだ。とりあえず、何か無償に腹が立つんだが」
冷静に返すシュラに、カルラは苦々しい顔で返す。その間も、男は身動ぎひとつ変えずに佇んでいるのだが、すこぶるウザイ。
焦れったくなったのか、片眉を下げてシュラが切り出す。
「私が聞いてみましょうか?」
しかし、カルラは首を横に振る。
「いや、ダメだ。ロリコンかも知れないから、シュラはダメだ」
「カルラさん、弾き飛ばしますよ?」
「弾き飛ばすって何だよ、新しいなっ!」
想像はつかないまでも、とりあえず録な目には会わないのだろう。カルラは後ろを振り返り、砂糖菓子を口に運ぶ店員を見た。
「……まあ、こんなときこそニコさん、よろしくお願いします」
ニコはやれやれと腰を浮かし、体勢を崩して寝そべる。そして、年頃の女の子としては無防備に、だらけたことを言った。
「めんどいヤダ。カルラがやれば良いのに」
「俺だって嫌なんだよ。お前なら、穏便に暴力で解決できるだろ?」
「暴力は穏便ではありませんっ!」
そう思うなら、弾き飛ばそうとしないで欲しい。
シュラは面倒ごとを押し付けようとするカルラの背中を押した。
「そもそも、危ないと思うなら、女の子に行かせないで下さい」
「はぁ、分かったよ」
いやいやながら、カルラは鳥男に詰め寄る。
「おい、鳥野郎」
「鳥野郎って!? ……俺は由緒正しき烏の一族だと分かって言っているのか?」
「知らねぇよ。ただ、そこに居られると営業妨害なんだよ。さっさと退け」
しっしっと、手を払う動作をすると、男は急に笑いだす。
「はっはっは、やはり分かっていないようだな!」
「え、何が?」
何か考えているのかと思って聞き入るカルラ。その態度に気を良くした男は声色高々に言った。
「これほどまでに格好良い俺が居るのだ。女の子達が集まらんわけがないだろう、たわけ!」
その声に、周囲の人々は距離を置いた。
「たわけはテメェだ! どっから見ても格好良くは無いし、むしろ黒々としていて気味が悪いんだよっ!」
ここで初めて男は動揺を見せる。羽をバタつかせ、自己主張の五月蝿い個性を出してくる。
「そんなわけ……。だって黒だぞ? 格好良いじゃないか!」
「単色でファッション語るなよ。もっと色を使え」
「カルラさん、種族ですからね? 無茶を言わないで下さい」
冷静なシュラに言われ、カルラも落ち着きを取り戻し、本題に入った。
「それで、何の用なんだ?」
「何がだ?」
とぼけた風でもなく、そう返される。
「いや、なんでここに居るんだって……」
「はっはっは、決まっているだろ!」
「よく笑うな……」
あきれるカルラに、男は誇らしげに胸を張る。
「俺は行きたいところに行く! だから理由はない!」
「……シュラ、客じゃないってよ」
「分かりました。仕事に戻ります」
しっかりと確認を取ったところで、さっさと店に戻る。こんなやつに関わる理由が無くなったから、当然である。
「え、ちょっと、もっと構って! ねぇっ!」
黒い烏は泣き声を上げている。
烏の男
備考……黒い羽を持つ一族のひとりで、そのことを誇りに思っている。他の色は許さない、断じて!
ファッション……黒とか白とか揃えておけば良いよね。