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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
79/411

3月16日雨 『迷宮3迷』

「新しい道、見つけたぞー」

「……ここ、どこですか?」


遺跡のような石壁と石畳に囲まれた、小さな地下空間のかたすみで、不安げなシュラの声が響く。

その声にカルラは反応して、当然とばかりに答える。


「ダンジョンだろ。モンスターがわんさか居る一攫千金の大迷宮」

「その、モンスターがわんさか居る場所の、どこかと聞いているのです! また迷っているではありませんかっ!」


泣きそうなくらいに取り乱したシュラは、小さな体を大きく揺らして主張する。なだめるカルラの横で、もう一人の影が動いた。


「シュラ、落ち着いて」

「ニコさん」


飴玉を舐めながら落ち着いてそう言うニコに、シュラはさらに不機嫌そうに眉を歪める。


「それもこれも、ニコさんが地図を燃やしたりするからですよ? 反省してください」

「マシュマロを焼きたかったのだから仕方ない」


そんな感じで、今回に限れば地図も道具も充実した状態で挑んだにも関わらず、迷宮で迷走しているのである。

焚き火をしたのが三十分前で、気がついたのは五分前だった。


「これ以上シュラを怒らせるな、痛い目見るの俺なんだからっ」


すでにボロボロのカルラは、モンスター以外の驚異に疲れた様子でそう言った。


ようやく落ち着きを取り戻したシュラは、腕を組んで困ったように考え込む。


「それで、どうやって脱出しましょう。場所が分からなければ出られませんよね?」


地図があれば、現在地も分かるのだが、それが無いのであれば帰ることは難しい。

そんな状況で、カルラは得意気に笑みを浮かべる。


「こんなこともあろうかと、ダンジョン脱出用の道具を作ってきた」

「本当ですか!」


カルラの手には杭と、赤く光る糸が握られていた。


「ああ、入り口に設置しておくと、自動でマーキングをする装置だ。ニコ、入り口に設置しろ」


静寂が起きた。

誰一人動くこともなく、数秒してから気がつく。


「……無理ですね」

「無理だよ」

「無理だったな」


すでに内部に入って迷って居るのだから、入り口に戻ることはできないし、出来たら目的は果たしている。

何故、初めに設置しなかったのかと、誰もが思った。


「なんだこれ、使えねーじゃねぇか。こんなものっ!」

「道具に罪はありませんよ!? どちらかというと私達の方が悪いです!」


カルラは苛立ち、道具を地面に投げつける。

上下に大きく揺れる肩をつかみ、ニコが平然としてこう言った。


「もういい、カルラ。非常口で出よ?」


カルラも、その提案に頷く。


「そうだな。そろそろ昼飯だし」

「え、そんなものがあるのですか?」


人が整備しているとは言え、そんなものがあるとは思っていなかったシュラが聞き返す。

またも得意気にカルラは言う。


「まあな。よく迷う馬鹿が居るらしいから」

「その方々に私達も含まれていますけどね」


呆れた様子でシュラは言い、キョロキョロと周囲を見回して口を動かす。


「それで、非常口とはどこにあるのですか?」

「地図があれば分かる。地図は?」


不思議そうにニコが尋ねる。そして、シュラは乾いた視線を向ける。


「燃やしましたよ。マシュマロのために」


静寂が起こって数秒、カルラが言った。


「……歩くぞ」

「……はい」


彼らがダンジョンを脱出したのは、この5時間後であった。

迷宮……地図持参、火気厳禁、マシュマロ美味。モンスターがわんさか現れる場所で、宝箱が定期的に設置される施設

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