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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
78/411

3月15日曇り 『村長1名』

「新しいの、入ったぞー」

「カルラさん、あの方は誰ですか? 何かすごく、こちらを伺っている用ですが……」


そう言われて、店頭を見る影に目を向けると、そこには翁が立っていて、古びた焦げ茶色の衣服と、青い帽子を被っている。

その姿を見たカルラは、懐かしそうに目を輝かせる。


「ああ、あれは村長だ」

「村長さんですか!? 町でしたよねっ、ここ!?」

「いや、町だけどさ。ほら、あれだよ、あだ名。いつも町のどこかに居るから、誰かが付けたんだよ。町長らしき何かに」

「町長で良いではないですか……」


そんな会話をするが、それでも表情ひとつ変えることなく、老人はそこで、目を見開くばかりである。


「でも、お客さんなのでしょうか。お客さんであれば、何か商品を探しているのかも」

「俺が話す。村長とは顔馴染みだからな。……おう村長、久しぶりだな」


ぎこちない笑顔で近づくカルラは、片腕を上げて、そう声を掛ける。

老人はそれに反応して、カルラの方を見た。


「え、誰?」


全身をくまなく見てから、老人は一歩下がって、少し仰け反りながらそう言った。親しげに声を掛けたカルラは、恥ずかしそうにとぼとぼとシュラのところまで戻ってくる。


「覚えられていないではありませんか。明らかに不審者を見る目でしたよ?」

「俺も驚いた。うっかり泣くかと思った」

「泣かないで下さいよ、大の大人が」

「少し吐いただけで済んだ」

「どれだけ心が弱いのですか!? しっかりしてください!」


そんな会話をしていても、老人は動こうとはしない。店員が目の前に居るというのに、それを頼ろうとはせず、ただ黙って商品を適当に眺めるばかり。

もしかしたら、時間を潰しているだけなのかもしれないのだが、泥棒であれば、ここを動くわけにはいかない。

仕方なく、シュラは老人に近づいた。


「あの、本日はどのようなものをお探しですか?」

「……は、はぁ。実はカリントウなるものが売っていると聞いてな。この店で売ってはいないか?」


昔、どこかで聞いたことのある名前ではある。確か、東方の砂糖菓子だったような記憶が、シュラにはあった。

言いづらそうに、困ったようにシュラは答えた。


「うちは鍛冶屋なので……。カルラさん、カリントウってありますか?」

「あるぞ」

「あるのですね……。だろうと思っていました」


焼き菓子まで取り扱うのだから、当然とも言える品揃えだった。

怪しい一人の老人はカリントウを受け取り、会計を済ませて、満足げに帰っていく。

見送っているとき、シュラはカルラに言った。


「あの方は市長らしいですよ。村長でも町長でもなく」

「……あー、どおりで覚えられていないわけだ。ついにボケたのかと思った」

「一番最初、知り合いって言っていましたよね……?」

市長(89)

備考……甘いものをこよなく愛する老人。最近はコンヴィーヴにはまっている。作者はコンビーフくらいしか知らないので、味は自分で調べてください。

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