3月14日曇り 『王様1名』
「新しい商品、入りましたよ~」
カルラの不在中、シュラが店の前に出てると、そこには一人の女性が立っていた。
豊満な胸に高い身長、癒しを与えるような柔らかな物腰は、自分に無いものであることを瞬時に認識した。
サイズの違いに思い悩んでいると、女性はシュラに微笑み掛ける。
「こんにちは、今日も良い天気ですね」
その言葉を聞いて、空を見上げる。曇天の雲行きは、今にも崩れそうに揺れている。
どう返したものかと悩んでいると、隣にいるニコが飴を含んだ口を動かした。
「曇りだけど?」
「ニコさん、もう少し相手の意を汲んでください。きっと深い意味がおありなのです」
「でも、曇りだよ。ニコの心のように淀んでいる」
「今朝ピーマン残さずに食べられましたね」
遠い目をしているニコの姿を見て、女性はくすりと笑いかける。落ち着いたその仕草からは、二人にはない大人びたものが見てとれた。
自分が笑っていることに気がついて、女性はそっと口許を隠す。
「失礼しました。久しぶりに女の子らしい会話が出来たもので……」
「女の子らしくはありませんけどね」
「大人っぽいからね、ニコは」
「子供っぽいという意味ですし、あと私を外さないで下さい!」
再び可笑しそうに目を細める女性。一通り笑ってから、ようやく深い呼吸をして落ちてくと、ひとつの商品を指差して二人に尋ねた。
「ああ、そうでした。これ、どんな物なのか、お教え願えますか?」
指の先にあるものは、どうやら杖のようだった。ようだった、というのはいつもの如く、それが普通の品でないことは分かりきっていることに他ならない。
シュラは恐る恐る、その杖を手に取ると、名札に書かれている説明文を読みだした。
「これはどうやら、地面を突くタイプの杖ですね」
「違うのがあるんですか……」
「ええ、まあ」
倉庫を整理しているときには、空に向かって使ったり、水辺に向けて使うものがあった。
「それで使い方ですが、普段は地面をついて杖のように使えるのですが、身の危険が迫ったときにこのボタンを押すと」
カチッと音がして、シュラの体には光の膜が現れた。
「バリアが展開できる仕様になっています」
もう一度ボタンを押すと、膜は消え去り、普通の杖に戻る。
感心したように女性は頷き、シュラの手から杖を受け取った。
「買わせていただきますね。聞いていた通り、変わったお店ですね」
金貨を手渡す女性の発言に、シュラは疑問を覚えて口にする。
「どなたからの紹介ですか? いつか、お礼をしたいのですけど」
「それは秘密です、友達とは思われたくないので」
酷い言われようだ。
「けど、仕事ではよくお世話になっているので、信用はしていますから、本日は足を運んでみました」
「お仕事はどのような?」
お釣りを手渡すシュラの顔に口を近づけて、そっと耳打つ。
「しがない魔王をやらせて頂いています」
「ふぁえ?」
理解できずに固まるシュラから顔を話す女性は、微笑み掛ける。
「これからも、ルシフル・マーリンをよろしくお願い致します」
ルシフル・マーリン(?)
髪……栗色
備考……国内に潜伏している幹部の助けで入国。勉強ばかりの人生だったためか、女の子らしいイベントに飢えている。
年齢は秘匿。魔王権限で国家機密に指定されている