3月8日晴れ 『修道士2名』
「新しいの、入ったぞー」
「レラジェ様、ようやく目付きの悪い悪党鍛冶屋が現れましたよ」
「シトリー様、ようやく会えたと思ったら、新しい手下を従えていますよ」
修道服を揺らして、二人はそれぞれカルラとニコを指差してそう言った。
珍客に慣れたカルラだったが、この二人の訪問には首を傾げた。
「お前ら、そこまでシュラに執着するわりに、あんま出てこねぇな」
最後に見たのは2ヶ月くらい前のことであり、その存在を忘れかけていた程だ。
カルラの発言が衝撃的だったのか、二人は目を丸くしてから、ヒソヒソと耳打ちしながら、それでも周囲に聞こえるくらいの声量で話し出す。
「レラジェ様、このロリコン鍛冶屋が何か言っていますよ」
「シトリー様、私達への仕打ちを忘れているようです」
仕打ちと呼ばれるようなことはしていないし、忘れていたのだが、どうやら何かをしたらしい。
シトリーが声を荒げて主張する。
「私たちは何度も足を運びました。それなのに、毎回お店が閉まっていたのです!」
今度はレラジェが言葉を引き継ぐ。
「私たちは何度もお店を壊して侵入しようとしました。それなのに、壊れないのです!」
今度はカルラが主張する。
「壊そうとすんじゃねぇ! 人んちを!」
まさかの強硬突破である。
神に仕えているみたいな格好して、なんてことをしているのか。罪深過ぎるだろ。
「だいたい、うちの防壁はドラゴン討伐用に改良してっから、人間が触れたら危ないぞ?」
「カルラ、少しは手加減して。死人が出る」
ニコは何を言っているのか。俺の知ってる人間は、そんなに脆くない。
シトリーは気を取り直してもう一度、カルラを指差して宣言する。
「今日こそは、我々の幼女様を引き渡して頂きます!」
「いや、今シュラは実家に帰っていないぞ?」
ようやく本題に入ったところ悪いのだが、間の悪いところに、運の良いことに、シュラは現状報告のために帰省していた。
流石にそこの住所までは把握していなかったらしく、シトリーとレラジェは膝をついて落ち込む。
「レラジェ様、またしても鍛冶屋が邪魔をしてきました」
「シトリー様、この恨みは忘れてはいけませんよ。天罰を与えるのです」
「お前らに天罰が下ればいいのに」
カルラが呆れて溜め息をつく。
そのとき、ニコが修道士達の肩を叩いた。二人が彼女の顔を見上げる。
「シュラちゃんは、いつも心の中にいる」
目を見開き、悟ったように言葉を噛み締める。
「……レラジェ様、信じれば救われるのでしょうか」
「……シトリー様、そのようですね」
何か感動しているところ悪いのだが、いないよ? 別に死んだわけじゃないし、実家に帰っただけだし、それはただの幻だし。
しかしまあ、納得したようで、どこか晴れ晴れとした表情を浮かべて二人は立ち上がる。
「レラジェ様、我々は間違っていました。幼女様を捕まえて囲って育てようとしていました」
「シトリー様、我々のことを忘れられないくらいに調教しようとするなんて、やはり間違いなのです」
そんなことをしようとしていたのか。シュラを渡さなくて良かったと、常々思った。
二人がスキップを刻みながら、鼻唄を歌いながら去っていったあと、ニコは呟く。
「……クッキーは?」
それが狙いか。
シトリー・アーセナル(17)
趣味……洋服作り
備考……最近、孤児院の設立を考えている。
レラジェ・ガリル(17)
趣味……小物作り
備考……最近、公園の建造を考えている。