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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
70/411

3月7日曇り『遺失物1匹』

「新しいの、入ったぞー」


そう言いながら外に出ていくと、店が陰っていることに気がついた。また、ニコが何かやったのだろうと思って見上げると、長い鼻が頭を撫でた。


「おい、ニコ。こいつは何だ?」

「拾ったの。飼っていい?」


その大きな影を作っていたものは、灰色の顔に優しげな目を持つ、象という動物だった。


「ダメだ。絶対、誰かの持ちもんだから。んなもん落とす奴なんて居ないから、元の場所に戻してきなさい! また罪が増えるから!」


象の背に乗ったニコは不満げに顔をしかめる。


「大丈夫、首輪付いてない」

「象に首輪つける奴がいるかっ! 犬猫とは格が違ぇんだよ、金とかその辺が!」


ひとしきり取り乱して怒鳴り散らしていると、後ろにシュラが立っていて、自分の身長よりも遥かに大きな体を、見上げて小さく呟いた。


「身長……。有り余る身長……」


目が座っていない。そして、視線に気がついたのか、はっと笑顔でカルラの方を見た。


「カルラさん、夕飯はお肉にしますね!」

「残念ながらシュラ、象を食っても身長は伸びないからな?」

「……た、食べませんよ~?」


海にまで逃げそうな勢いで、目が泳いでいる子の言うことを信じることは出来ない。

しかし、象の料理を作れば経費削減……。


「カルラ」

「大丈夫だ、味は気にしない」

「何のこと?」


うっかり食材の処遇を口にしてしまったようだ。首を傾げるニコは、問い詰めることなく続きを話した。


「この子、花子にする」


その意見について、俺たちは反論があった。


「いや、ソテーだろ」

「ハンバーグが良いのでは?」

「二人とも何の話してるの? この子の名前だよ?」


もはや食べる方向に民主主義が傾いていると、鞭を携えたふくよかな男が、象に抱きついてきた。


「うおぉおー、アンジェリカ! どこに行っていたんだ、探したんだぞ!」

「ああ? お前、こいつの飼い主か?」

「はい。何故か逃げ出していたようで。あなた方にはなんてお礼を言ったらいいか……」


その何故かの招待が背中に乗っている人物だと言うことは黙っておくとしよう。


「今度からは、首輪でも付けておけよ?」

「え? 象に首輪ですか……。考えておきます」


そう言って、男は象を連れて歩いていく。

象から降りたニコは、悲しそうにその背中を見送っていた。カルラは、ニコの頭に手を乗せる。


「また今度、会えるといいな」

「うん」

「ステーキに」

「生姜焼きが良いですよ」


よく分からないというような顔で、ニコは二人に尋ねる。


「ねぇ、さっきから何の話?」

象……わりと美味いらしい。

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