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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
7/411

1月5日晴れ『魔法使い1名』

「新しいの、入ったぞー」


 雪解けの寒さが残る昼過ぎ、カルラは目の前の客に向かってそう言った。

 古めかしいローブに杖、とんがり帽子のその客は、始めに見かけてから小一時間ほど、微動たにせず立ち尽くしていたのだった。

 生きているのかも怪しい、そう思わせるくらいに動く気配も見せないでいる。


「お前、何か欲しいのか? 買うんならさっさとしてくれ、工房に戻れねぇから」

「カルラさん、そんなことを言ってはいけませんよ。お客様ですのに」


 シュラは明るい笑みで、覗きこむように彼女の赤い瞳に映りこむ。そして、よく通る声で問いかけた。


「何をお探しでしょうか?」

「…………よ……ろい」


 目を背けながら、微かに聞き取れるような声量でそう答える。照れているのだろうか。

 シュラは続けざまに、接客スキルを発動させる。


「鎧ですね。硬い品、丈夫な品、動きやすい品がございますが、どのようなものが好みですか?」

「軽くて、丈夫。魔物に噛まれても、平気なやつ」

「分かりました。カルラさん、ありますかね?」


 白い髪を揺らして振り返るシュラ。カルラは顎に手をやり、考える素振りを見せる。


「魔物に噛まれても、となると軽くはならないな。だが、重くて、動きにくい鎧の籠手だけなら、丁度いいのがある」


 そう言って、工房から作りたての籠手を持ってきて、彼女に手渡した。ゴツゴツとした重厚な外見に加え、トゲによる防御も兼ね備えているようだ。

 重さを確かめるように上下に揺すり、そして恐る恐る手を入れる。


「…………いい」


 頬を緩め、満足げな表情を浮かべてそう言った。気に入ったらしく、腰の辺りから財布を取りだし、会計を済ませようとする。


「一部だけだから、700Gだ。……それにしても、お前は魔法使いだろ、何で防具なんだ?」


 通常、薬剤を忍ばせ、陣を書いた着物を身につける魔導師は、動きの悪くなる鎧を嫌うものだ。

 カルラの質問に、通貨を並べるその手がピクリと反応し、溢すように一言、


「こわいから」


 と呟いた。

 何を思い出したのか、小さく体を震わせている。まるで、見えないなにかと戦うような、遠い目をしていた。

 そんな、金貨を7枚並べ終えた彼女の手を、シュラは握る。


「お名前、お聞かせ願えますか?」

「……テュール・シュワルツローゼ」

「テュールさん、魔法はいつも貴方の心を読みます。貴方が信じてあげれば、きっと上手くいきます」


 凍えた手を、両手で暖めるようにしてシュラは言う。


「私達も付いていますから、どうか泣かないでください」


 テュールはしばらく、目を丸くしてシュラを見て、戸惑いつつもこくりと頷いた。これが派生スキルのナンパか、レベルが高い。

 シュラはテュールの反応を見て、手を離し、籠手を手渡し、テュールはそれを受け取った。


「……がんばる」

「はい!」


 左手に籠手を、右手に杖を装備した魔法使いは、バランスの悪い体を左右に揺らして店を後にする。

 金貨を金庫に入れながら、シュラはカルラを見る。


「あの方、上手くいきますよね?」

「当たり前だ。俺の作品がついているからな」


 カルラは未来を想像して、笑みを浮かべる。

 そんなカルラに、シュラは思い出したように尋ねた。


「そういえば、あの鎧の残りはどうなさるのですか?」

「ミスリルの特殊合金使っているから、素材が届かないと当分は売れないな。倉庫送りしかない」

「えと、どれくらいの話ですか?」

「五年くらい……て、シュラさん?」


 丸くした帳簿を握りしめ、シュラは髪を逆立てる。


「カルラさんっ!! なんで全部残さず、売らないのですかぁっ!」

「だ、だって、客の要望を聞いたら、あれが最高だったから」

「だからって、倉庫を圧迫するだけのガラクタにしてどうするのですか! 先月も似たようなことで倉庫送りにするし、毎月ギリギリなのですから、積極的に売ってくださいよ!」


 正座で説教を食らうはめになったカルラは、片腕のない鎧を見て、深々と溜め息をついた。

 ま、これでいいよな?


「良くないです!」

テュール・シュワルツローゼ(25)

好きな食べ物……ドイツパン

備考……迷子になるのも、いいかもしれない

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