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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
67/411

3月4日曇り 『手品師1名』

「あ、新しい芸、見せます!」

「そうか、他所でやってくれ」


昼下がりに店の前に出ると、一人の少女が立っていた。

周囲に奇怪な道具を置いて、何故かバニーガールの衣装にシルクハットという、マジシャンなのか、助手なのか、よく分からない格好でわなわなと震えている。


そして、必要以上に青ざめて、彼女は叫んだ。


「こ、困ります!」

「うるせぇっ、こっちもかなり困ってんだよ! 何でうちの前に、道を塞ぐみたいな大きな道具並べてんだよ、客が入れねぇじゃあねぇか!」


カルラも叫ぶと、少女は再び萎縮して、人差し指をくっつけなが、もじもじと訳を話始めた。


「それはその、入団試験といいますか……」

「入団試験?」

「はい。ここの人は仏様みたいに優しいから、練習にはもってこいだよだて、教えて貰いました。……騙されたみたいですけど」


仏様だって、仕事の邪魔をされたら怒ると思う。

そこに、ニコが甘い匂いをさせてやって来る。


「マジック、見たい……!」

「ニコ、仕事中だ。シュラ、お前も何か言ってやれ。シュラ?」


振り返ると、子供みたいな体型の弟子が、扉の前に立ったまま、子供みたいに目を輝かせて固まっていた。

カルラの言葉に二秒遅れて、シュラは慌てて反応する。


「え、は、ひゃいっ! そ、そうですね。今日も良い天気ですね!」

「誰もそんなこと言ってねーし、今日は曇りだ。そこまで良い天気じゃあねぇ」


そういえばシュラは、人里離れた森の出身だった。こういった珍しいものには目がないのだろう。

ニコは店の前の道具を指差し、カルラの服の裾を引っ張る。


「カルラ、マジック。カルラマジック」

「それだと、俺がマジックということになるんだが?」

「カルラ、マジック?」

「違ぇよ。……はぁ、うちのガキ共が興味あるらしいから、少しだけ付き合ってやるよ」


そう言ってやると、少女は表情を明るくさせる。


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


深々と頭を下げると、マジックの準備に取り掛かる。大きな箱を手前に移動させ、その扉を開ける。


「こ、こちらに、タネも仕掛けもない箱があります」


見たところ、本当にタネも仕掛けも見当たらない。


「魔法の気配もありませんね」

「その通りです。私がこの中に入りましたら、この剣で刺して下さい。私は隣の箱に移動しますから」

「おいおい、大丈夫なのか? なんか、すげぇ不安なんだが」


店の前で血を流されたら、評判に響くのだが。


「だ、大丈夫です! 昨日買ったばかりで、使い方もあまり理解していませんが、たぶん大丈夫です!」

「不安しか無くなったんだが?」

「大丈夫です。では、私が入ったら刺して下さいね」


少女は鉄の剣を3つ、それぞれに手渡して、箱の扉を開けた。

その動作一つ一つがぎこちなく、素人感が否めない。

扉が閉まると、カルラは剣を箱に刺す。


ザクッ。


確かな手応えがあった。本当に、大丈夫なのだろうか。


「次、私が刺します」


シュラ、そしてニコの順番に剣を刺す。血の臭いが漂うが、もう後戻りは出来ない。

死体をどこに棄てようかと考えたとき、隣の箱が開いた。


「じ、じゃじゃ~ん。脱出成功です」


なんとも見事に、衆目を欺いて、箱から箱を移動した少女の姿がそこにはあった。

ここまで完璧に、マジックを成功させるとは、実はかなりの実力者なのかもしれない。

あの不安げな態度は、全て演技だっただろう。


ポタッ。


だから、彼女がしきりに、きつく脇腹を押さえているのも、そこから止めどなく血が流れているのも、演技に違いない。


「ははっ……。成功です。成功……しま……した……。あっ」


ぱたりと倒れ込んで動かない。

最近、どうしてか血が流れる。呪われているのか?


「だ、大丈夫ですか? これもマジックなのですか!?」


慌ててシュラが駆け寄り、地面に横たわる少女の肩を叩く。

その隣で、ニコは満足げに手を叩く。


「ぶらぼー」


何もブラボーではないのだが、明らかな失敗を、失敗と判断できる人間は、カルラだけだった。

ホシカ・スギモト(18)

特技……カードマジック

備考……東の国から奇術の勉強をしに来た少女。マジック道具を衝動買いするが、使い方を理解する頭が無かったりする。

モデルは、某素晴らしいアニメの孤独系残念少女。

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