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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
66/411

3月3日晴れ 『珍客1名』

「新しいの、入ったぞ~」

「違ぇよっ、何度言ったら分かんだよっ! こう新しいの、入ったぞーって、気合いを入れるんだよ」


レトロ工房に、新しい従業員が増えた。


元十二騎士団狙撃部隊隊長。

龍と称させるほどの騎士にして、中遠距離支援のエキスパートにして、三度の飯を甘いもので済ませるほどの甘党で、年下の友人でもある、ニコ・スタイナースをつい昨日から雇っている。


退社の理由は話そうとしないが、話したくないことを無理に聞き出したりはしないのは、別に紳士だからというわけではなく、ニコが拷問の訓練を受けているからだ。

時間の無駄である。


面倒なことでなければいいのだが。


ニコに挨拶の指導をしていると、弟子のシュラが歩み寄ってきた。


「カルラさん、そろそろ仕事をしてください」

「しているじゃねーか。今、ニコに挨拶の極意を伝授しているところだ」

「別に構いませんが、あまり大きな声を出さないで下さいね。また苦情が来ますから」

「……はい」


シュラに引っ張られ、カルラは釜戸のある部屋に向かう。残って店番をするニコの方を振り返り、最後に注意だけを促す。


「変な客が来たら追い返せ。危ないやつが来たら殺せばいい」

「ニコ、それは得意」

「良くないです! ……ニコさん、対応に困ったら呼んでくださいね、すぐそこに居ますから」

「分かった」


その言葉を聞いて、二人は扉を引き、熱の籠った室内に消えていく。

ニコはぼんやりと、誰も来ない午後の時間を、流れる雲を眺めながら潰していく。10分ほど経って、一人の男が訪れた。


「おう、邪魔すんぜぇ……って、姉ちゃん誰だ? カルラや、シュラちゃんは?」


鈴が付いた錫杖を鳴らしながら、僧侶の格好で現れた男は、どうやら店の主人たちのことを知っているようだった。


「お仕事してる。邪魔はさせない」

「へいへい。なら、待たせてもらうぜ」


縁側に座り、徳利の蓋を開け、喉を鳴らしながら仰ぎ飲む。


「お酒臭い」

「酒を飲んでるからな。飲むかい?」

「未成年は飲んじゃダメって、カルラが言ってた」

「頭が硬ぇなあ。オジチャンの時代なら、ガキだって一度は飲んだことあるもんだ。女の子が飲んだら、そりゃあ色っぽくーーー」


そこまで聞こえて、ニコは男の目の前まで詰め寄った。


「詳しく」

「お、おう……。えーと、酒を飲むと顔が赤くなって、仕草に隙が出来んだ。だから、男は守ってやらねぇとって思うらしいんだ……が、カルラにでも使うのか?」

「うん。カルラ、ニコを甘やかさないから」


男から徳利を奪い取り、飲み口を凝視する。そして、男の方をちらとだけ見ると、小さく溜め息をつく。


「おじさん可愛くないから、無駄かもしれない」

「オジチャンが可愛くなったら、気持ち悪いだろう」

「うん」

「虚しいな。ああそうだ、酒を一気に飲むのはお勧めしな……いっ!?」


ニコはその忠告も聞かずに、ぐびぐびと、水を飲むように口の中に入れていく。

慌てて止めさせようと、男が手を伸ばしたときには遅く、すでに徳利は空だった。


「ん~……」


ニコの首は据わらず揺れ動き、顔は真っ赤に染まっている。明らかに普通ではない状態に、男は戸惑う。


「おいおい大丈夫か?」

「おじさんぅ?」


ニコは舐めるような動きでゆらりと男の膝に手を付き、顔を、鼻の先が付きそうな程近くに寄せる。

荒い呼吸が当たり、緊張が走った。

そして、次の瞬間、男の額にヘッドバッドが炸裂した。


「うがっ、がふ」

「おじさんが増えた。魔法使い。危ないやつ。……殺せって、カルラが言ってた」

「ちょ、ちょちょ、落ち着け、お願いだか……ら……」

「覚悟」

「うわぁ、うぎゃあぁぁあーーー……!」



30分後、一区切り終えて外に出てみると、血祭りが始まっていた。そして、それはまだ途中のようで、終わりは見えそうにもない。


「お、おいニコ、どうした? 何があった?」

「カルラぁ? カルラも魔法使い?」

「はぁ?」


理解できずに立ち尽くすカルラに、よろよろとニコが近寄ってくる。焦点の合わない目でこちらを見つめると、糸が切れたようにカルラの腕の中に倒れ込んだ。


「抱っこぉ……」


眠りこけ、動かなくなった体からは、強い酒の臭いがした。

荒らされた店内の隅で、血を流して倒れている人物の服装には心当たりがあり、こんな物を渡す悪友は一人しかいない。


「ら、ライさん!? どうされたのですか?」


シュラが駆け寄り、揺するが起きる気配はない。


「ニコに、酒を飲ませたんだろうよ。昔、部隊長会議のときに飲んで以来、飲ませないようにしていたのにな」

「こんなに酒癖が悪いのですか?」

「その時に付いたアダ名が、狙撃部隊の龍だった」

「……味方に呼ばれる程ですか」


龍の逆鱗に触れたが最後、まともにニコの顔を見れなくなるそうだ。起きたときには記憶を無くすのだから、学ぶことはない。だから、無警戒に、勧められたら飲んでしまうのだ。


きつく叱って戒めて然るべきなのだろうが、寝顔があまりに安らかだからか、誰もそれをすることは出来ない。

甘党の天災は、人を甘くする天才だったりするのだろう。

ライ・ライオット(50)

特技……結界魔法

備考……なんとなくニコと過去の客を絡ませてみたら、祭りになりました。りんご飴があれば、血祭りでも良いよ?

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