表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.3~
65/411

3月2日雨 『甘党1名』

「新しい料理を覚えたのですよ!」


シュラが鍋を両手に持ち、楽しそうに言う。


「ほう、これは美味しそうだなぁ。シュラちゃんは、きっと良いお嫁さんになるよ。俺のところに来てくれないかい?」


その言葉を聞いて、シュラは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。カルラはテーブルに頬杖を付いて、苦々しい顔でそんな会話を見ていた。


「それは俺の真似か? ニコ」

「似てた? 渾身の出来」


向かいの席に座ってニコは意気揚々とそう言うと、カルラは横に首を振る。


「俺はそんなにキザったらしくねぇ。あと、胃袋掴んだ程度で求婚するような原始人はいねぇよ。男は心を掴まねぇと逃げ出すんだ」

「そう、一からやり直す」

「ゼロにしたまま、二度と積み上げるな。上手かったら、それはそれで腹が立つから」


ニコは落ち込んだのか、視線を伏せる。

言い過ぎたのかと思ったが、よく見ると、シチューが盛られた皿を凝視しているだけのようで、心配した損失を返して欲しい。


カルラの前にも皿が運ばれたところで、シュラはニコに尋ねた。


「今日はどのような御用事なのですか? カルラさん、何も言ってくれなくて……」

「はぁ? シュラが呼んだんじゃねぇのか?」

「え……?」


朝起きたらニコが居た。いつ来たのかは分からないが、当たり前に居るから、お互いにお互いが誘ったものと思っていたようだ。

まあ、つまりは不法侵入だ。


「ニコ、どういうことだ?」

「会いたくて、来ちゃった。てへっ」


ニコは、顎を両手のひらに乗せ、無表情のまま、コテッと首を傾けて、上目遣いでカルラを見た。


「可愛く見せたいんなら笑顔を作れ。シュラはそういうの得意だぞ。ほら、見せてやれ」

「しませんし、得意ではありませんっ!」


シュラは息を整えて、困った表情でニコを見る。


「ニコさん、どうして急に訪ねていらっしゃったのですか?」


シュラの問いに、砂糖とミルクでほとんど白く染まったコーヒーを飲んでから、ニコは寂しそうに視線を泳がせる。


「だから、会いたいからって」

「それだけか?」

「ついでに、騎士辞めたから雇って貰おうと思って」


正直なのは良いけれど、だからって別に誉めたりはしない。そこまで物分かりの良い大人ではないからだ。


「何で辞めたんだ? あそこは給料だけは良いだろ?」

「言えない。国家機密」


どうしても言いたくないのか、ニコは目を合わせようとしない。


「それ抱えて、うちに来るなよ。この前まで国家の陰謀抱えて四苦八苦してたんだから」


元身内とはいえ、多少交流があったとはいえ、だからといって危ないものは持ち込みたくないのだ。


「……分かった」

「分かってくれたか」


ニコはこくりと頷き、目を閉じて唇を突き出す。


「うん。キスまでなら良いよ?」

「何も分かってねぇじゃあねぇかっ! さっきまで何を聞いてたんだ!?」


背後に気配を感じて振り返ると、今にも人体くらいなら焼き尽くせそうな炎を持った、シュラが笑みを浮かべて立っていた。

弟子に気を使いながら、カルラは断ろうと口を動かす。


「うちには、もう一人分を雇う余裕はねぇ」

「お金はある。半分あげる」

「そこまで言われたら仕方ない。雇おう! 雇わせて下さい!」


目の前に金が詰まった袋を出されたら、誰も抗うことは出来ない。だからシュラちゃん、そんな冷たい目で見ないで?


ニコがナカマになりたそうに、こちらをみている。ナカマにしますか?


・はい

・イエス

ニコ・スタイナース(19)

休日の使い方……甘味巡り

備考……訳有りの従業員が仲間になりましたね。女子のキスよりもお金は大事。キスって買えるんですよ?(哀)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ