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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
64/411

3月1日曇り 『歌手1名』

「新しいの、入ったぞー」

「やあやあ! 今日もハイテンションしてるか~いっ!」


店の前に出るなり、やけに元気な女が、拡声器を片手に喧しく叫んでいた。

目立つ明るい茶色の髪を小さく揺らしながら動き回ると、布面積の少ない胸や尻の辺りが揺れて目のやり場に困り、仕方なく、胸の谷間に焦点を絞ることにした。


「カルラさん、目を抉るのと、潰すの、どちらが好きですか?」

「……見ている分にはどちらも嫌いです」


怒れるシュラの声が背中に聞こえ、カルラは青ざめて両手を上げて降参する。せめて一思いにやってください。

そんなことをしていると、女性が気がつき、一瞬で目の前まで近づいてきた。


「ねぇねぇ私どうだった? 楽しかった? 楽しすぎて喉が潰れそうになった??」

「どちらかというと目の方がーーー」

「いやぁっはぁ! そうだよねぇっ! 全国ツアーだもんね、テンション上がっちゃうもんね!」


話を聞いてくれない。まあ、この程度の暴走人間は初めてではないから、怒りはしないけど。……けして、胸が大きいからではない。


「あの、どうして、そのような如何わしい服装なのですか?」


シュラは得体の知れない客人に、いつになく訝しげな視線を送る。

確かに、ほとんど下着のような布面積の赤い衣装を、恥ずかしがる様子もなく過ごす人物は怪しいが、自分に無いものを異様に見つめるのもどうかと思う。

他人のことは言えないけど。


女性は、どこから出したのか、カウボーイハットを被り、猫のような人懐っこい笑みを浮かべる。


「今度、この街でサーカスやるんだぁ! 私、シーラ・メモリレルって名前なんだけど、知らないかな?」

「知らねぇ。てか、サーカスなんざ興味ねぇ」

「きょ、興味はありますが、残念ながら存じ上げませんね……」

「むぅ~。そりゃまだ駆け出しだけどさ、たくさん宣伝してるんだから、少しくらい覚えて欲しかったなぁ~」


唇を尖らせて、シーラという女性は不満を口にする。

そこで、シュラは何かを思い出したらしく、小首を傾げて自信なさげに尋ねた。


「サーカスが行われるのって、隣町でしたよね? この前、宿屋のお爺さんが話していましたけど」

「そういや、んなこと言ってやがったな。確か、賭け事をやるとかで」


しかし、それならこの女は何故ここにいるんだ?

また何かの刺客だったりするのだろうか、それならこの服装も巧妙なトラップだったりするのか頭がいいなおい。


「あ、道間違えちゃったのかな? でもどこだろう。右に曲がれって言うから右の道に行ったのに……」


シーラは手でその方向を指して言う。確かに右である、カルラから見れば。


「逆じゃあねぇかっ!」

「え、でも右ってお箸の持つ手だよね?」


左手をくるくる動かして食事の動作をする。


「大体の奴は逆なんだよ。あと、食い方汚すぎだろ!」

「ん~……、分かんないよね。鍛冶屋さん、送っていって! お代は体で払うよ! 内蔵はまだ綺麗なんだから!」

「誰が誰に売るんだよ! うちは鍛冶屋だ、臓器売買はやってねぇ!」


懇願するシーラを振り払おうとしていると、一台の大きなキャラバンが店の前で停まる。中からは、モノクロにシルクハットを身につけた、初老の男性が出てきた。

そして、申し訳なさそう深々と頭を下げた。


「御迷惑を掛けてすみません。うちの歌姫です」

「団長! ちょー楽しそうだね!」

「お前の目ならブラック企業でも楽園に見そうだな」


手を引っ張られたシーラは、名残惜しそうに振り返り、大きく手を振る。


「また来るよ~! 今度こそ、海賊王に私はなるよ~!」

「……あいつ歌姫だ、つったよな?」

「副業かもしれませんよ? お胸が大きいですし」

「シュラちゃん、それ関係無い」


無いものを手で押さえるシュラの頭をポンと叩き、カルラは店の奥へと下がった。

胸を凝視した罰を受けたのは、それから一分後のことだった。

シーラ・メモリレル(20)

好きな曲……ロック

備考……天然ハイテンションな歌姫で、かなりの美声の持ち主。初めてのお使い感覚で、一人にさせられることがある。

モデルは、桜的な彼女の先輩。

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