表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
63/411

2月28日晴れ 『作者1名』

「新しいの、入ったぞー」


朝焼けの日差しが、レトロ工房を照らす頃、久しく聞く声が響く。

大欠伸をして眠そうに目を擦るカルラの横では、シュラが黙々と品を並べていた。

そして、霜が晴れる前の時間帯にも関わらず、いつもの、奇妙な客の姿があった。


「どうも、先月ぶりですね」


雨も降っていないのに唐傘を差し、ふらりと体を揺らす。No.と名乗る、1ヶ月前に訪れた客である。


「また来たのか、てめぇ。どうせ何も買わねぇんだから帰りやがれ」

「帰りません。何故なら、私の出番は月一だからです!」


歓迎されていないことは明白であるのに、No.は自分の胸に手を当てて、自信ありげに意味不明なことを口走る。

在庫の鉄剣を抱えてシュラは、困った様子でカルラを見る。


「カルラさん、お客さんでなくとも、何か用があるのかも知れないですよ?」

「だとしても、帰ってきて早々、こいつに構いたくねぇ」


心底嫌そうに、カルラは顔をしかめる。


「そんなこと言わずに、話を聞いてください。今回、私は重要なことを教えに来たのです!」

「ほぅ、どんなだ?」

「ふふふ、何と……」


No.は大袈裟に決めポーズを取りながら、声高々といい放つ。


「この作品に、感想がついたのです!」


実に格好悪い体勢で、笑みを浮かべている。今、こいつはどんな気持ちなのだろうか。

ともかく、何か言ってあげるべきだろう。喜んでいるのだから、最高の賛辞でも与えれば、きっと帰ってくれる。

カルラはそう思い、No.に微笑み掛けた。


「ブラボー」

「………………え、それだけ?」

「いや、他に言うことも無いし、どういう意味か分からないし、面倒くさいし、景気悪いし」

「最後、私は関係無いじゃん! 何とか出来るならやってますから!」


涙目で訴えるその客を憐れに思ったシュラは、気を使って尋ねる。


「そ、それで、感想とはどのようなものなのですか?」

「『貫徹の日常がすごい』です!」

「……ん、それだけか?」

「はいっ! すごいって言われましたよ!」


カルラは可哀想なものを見るような、悲しげな視線を向ける。そして、No.の肩に手を乗せた。


「自信を持て。お前は生きていて良いんだぞ」

「私はいつ、貴方に自殺願望を打ち明けましたか? え、もしかして、これは誉めているわけではないのですか?」


予想外だったのか、初めて真顔でそう言った。

気まずくなったカルラは目をそらす。


「たぶん、『毎日やっていて凄いね』くらいの意味合いだと思うぞ。誉めても貶してもいない」


その言葉が相当答えたのか、地面に膝を付いて焦点の合わない瞳で砂粒を追う。残念、泣いてはいない。


「本当にただの感想だったのですか!? 私の転げ回った時間は何だったのか……」


そんなことしていたのか。こんなところに毎月来られるのだから、暇なのだろうとは思っていたけれど。

カルラが何も言わずに品出しを始めると、代わりに優しいシュラが声を掛けた。


「……その内、良いこともありますよ」

「シュラちゃんぅ」


見上げると、シュラの後ろでカルラが人差し指を立ててこう言う。


「握手1000G、抱っこ2000G、あと会話1秒に付き500Gな」

「世知辛い!」

「うちは、そんなお店ではありませんっ!」


こんな二月が終わります。

No.(?)

備考……感想、ブックマーク、御高覧、誠に有り難く存じます! これからも毎日励んで行きますので、応援をよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ