2月28日晴れ 『作者1名』
「新しいの、入ったぞー」
朝焼けの日差しが、レトロ工房を照らす頃、久しく聞く声が響く。
大欠伸をして眠そうに目を擦るカルラの横では、シュラが黙々と品を並べていた。
そして、霜が晴れる前の時間帯にも関わらず、いつもの、奇妙な客の姿があった。
「どうも、先月ぶりですね」
雨も降っていないのに唐傘を差し、ふらりと体を揺らす。No.と名乗る、1ヶ月前に訪れた客である。
「また来たのか、てめぇ。どうせ何も買わねぇんだから帰りやがれ」
「帰りません。何故なら、私の出番は月一だからです!」
歓迎されていないことは明白であるのに、No.は自分の胸に手を当てて、自信ありげに意味不明なことを口走る。
在庫の鉄剣を抱えてシュラは、困った様子でカルラを見る。
「カルラさん、お客さんでなくとも、何か用があるのかも知れないですよ?」
「だとしても、帰ってきて早々、こいつに構いたくねぇ」
心底嫌そうに、カルラは顔をしかめる。
「そんなこと言わずに、話を聞いてください。今回、私は重要なことを教えに来たのです!」
「ほぅ、どんなだ?」
「ふふふ、何と……」
No.は大袈裟に決めポーズを取りながら、声高々といい放つ。
「この作品に、感想がついたのです!」
実に格好悪い体勢で、笑みを浮かべている。今、こいつはどんな気持ちなのだろうか。
ともかく、何か言ってあげるべきだろう。喜んでいるのだから、最高の賛辞でも与えれば、きっと帰ってくれる。
カルラはそう思い、No.に微笑み掛けた。
「ブラボー」
「………………え、それだけ?」
「いや、他に言うことも無いし、どういう意味か分からないし、面倒くさいし、景気悪いし」
「最後、私は関係無いじゃん! 何とか出来るならやってますから!」
涙目で訴えるその客を憐れに思ったシュラは、気を使って尋ねる。
「そ、それで、感想とはどのようなものなのですか?」
「『貫徹の日常がすごい』です!」
「……ん、それだけか?」
「はいっ! すごいって言われましたよ!」
カルラは可哀想なものを見るような、悲しげな視線を向ける。そして、No.の肩に手を乗せた。
「自信を持て。お前は生きていて良いんだぞ」
「私はいつ、貴方に自殺願望を打ち明けましたか? え、もしかして、これは誉めているわけではないのですか?」
予想外だったのか、初めて真顔でそう言った。
気まずくなったカルラは目をそらす。
「たぶん、『毎日やっていて凄いね』くらいの意味合いだと思うぞ。誉めても貶してもいない」
その言葉が相当答えたのか、地面に膝を付いて焦点の合わない瞳で砂粒を追う。残念、泣いてはいない。
「本当にただの感想だったのですか!? 私の転げ回った時間は何だったのか……」
そんなことしていたのか。こんなところに毎月来られるのだから、暇なのだろうとは思っていたけれど。
カルラが何も言わずに品出しを始めると、代わりに優しいシュラが声を掛けた。
「……その内、良いこともありますよ」
「シュラちゃんぅ」
見上げると、シュラの後ろでカルラが人差し指を立ててこう言う。
「握手1000G、抱っこ2000G、あと会話1秒に付き500Gな」
「世知辛い!」
「うちは、そんなお店ではありませんっ!」
こんな二月が終わります。
No.(?)
備考……感想、ブックマーク、御高覧、誠に有り難く存じます! これからも毎日励んで行きますので、応援をよろしくお願い致します。