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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
62/411

2月27日晴れ 『帰路にて』

 後に分かることなのだが、全ては十年前より計画されていたことなのだとか。


 クロが魔族であることを知っていた国は、作品を少しずつ買い付けて、魔族達に渡していたそうだ。

 そこに偶然にも生意気な若造が、騎士団の部隊長に付いた。偶然による死を狙っていたトルは、その若造がクロと接触する場面に遭遇してしまった。


 クロが投降しやすくなるように、わざわざ防衛隊長を殺して異動させ、事前に打ち合わせしていた砦を襲う。人間を襲った武器が、魔族の作った物であれば、勝利ではなく和解という道を選んだ国への憎悪を、逸らすことが出来ると考えたようだ。


 実際は、ホネストの計らいで公表は避けられたようだが。


 しかし、国の政策に絡み取られた命は帰ることはなく、どれほど死人を労ろうとも、癒える傷はない。

 魔族の名工は、人知れず、陰謀の中で死んでいく……はずだったーーー、


「新しいやつ、入りましたよー」


 モダン工房の前には、長髪の男が、一目見ただけでは分からない作り笑いを浮かべている。

 店の前に立つ二人の鍛冶屋は、唖然としていた。


「おや、カルラ。久しぶりですね。元気でしたか?」


 幽霊にしては元気そうで憎らしい。


「何で生きてやがる。お前のせいで、危うく国賊になるところだったんだぞ」


 困惑するカルラを見て、シュラは目の前の人物を理解した。


「え、もしかして、この方がキュクロウドさんですか?」

「ええ。初めまして、ハーフエルフのお嬢さん。いつもカルラがお世話になっています」

「えと、こちらこそ……」


 まったく動じないクロの反応に、シュラはおどおどと小さくお辞儀を返す。

 その顔に見覚えがある周囲の人々も、驚きから何度かこちらを見ている。

 カルラはもどかしくなり、苛立って一歩前に踏み出す。


「質問に答えろ、クロ。何で、どうやって生きてたんだ? 死んだって聞いてたんだぞ!」

「心臓を止め、体を腐敗させて、死んだふりをして逃げました。起きたら臭くて驚きました」

「はぁ!?」


 そんなおかしな魔法があるのだろうか。シュラを見ると、顎に手を当てて、考える素振りを見せている。


「カルラさん、黒魔族は優れた黒魔術を使うのです。特に、魂に関する魔法は、他の部族を圧倒するものと聞きます」


 魔法が使えることは知っているが、まるで倫理観を無視している内容だ。まあ、最初から常識に欠ける奴ではあるのだけれど。


「そもそも私の生存などは、手紙が届いた時点で分かりそうなものですがね」


 ……確かにそうである。

 手紙は設計図の片割れが入っていて、そのもう片方が王宮にあるのならば、檻を出てから設計図に書かなければ成立しない。

 手紙が調べられないはずもないため、司書に送るには、手渡しが必須だろうし。


「ライブラには助けて貰いました。今度、お礼をしなくては」

「それなら、俺の方が先だろう。金を払え」

「そうですねぇ……。今は無一文ですので、とりあえず」


 そこまで言って、クロはカルラの頭に手を乗せる。いつもより、少し暖かい笑みを浮かべる。


「よく出来ました。流石、私の弟子です」


 この時ようやく、愚かな弟子は師に認められたのだった。

 間違えては誤り、謝るべきことが心に残る。引き返すには遅すぎる年月が過ぎているけれど、今はなんとなく、言葉は無意味に反響しそうだった。


「ガキじゃねぇんだから、触んな」

「おや、反抗期ですか? では、シュラさんに……」


 振りほどくと、その手はシュラに向くが、軽く逃げられる。


「ここに来てから、子供扱いが増えた気がします」


 そういえば、トルの時も、ガキとか、チビとか、まな板とか言われていたような気がする。


「何か、余計な言葉が付いた気がします……」


 膨れるシュラを宥めながら、カルラは店の奥に入っていく。しばらく鍛冶をしていないから、落ち着かない。

 それを察したのか、二人も付いて歩く。


 扉に手を掛けたとき、カルラはひとつ思い出す。


「そういや、牢屋でお隣さんに会ったな。面会に行ってやりゃ喜ぶんじゃねぇか?」

「そうかも知れませんが、難しいですね」

「どうして? 王宮に弱味が出来たし、案内してやれるぞ?」


 クロは口元に笑みを作って言う。


「だって、あの人は本物の国王ですから」

「は?」


 後に分かることなのだが、トルは国の決定を操るために、国王を入れ替えていたそうだ。


 しかし、思うのだ。それを知っていたのなら、初めから教えてくれたら早かったのではないのかと。


 クロは楽しそうに、不敵な笑みを張り付ける。

国王

備考……隣国のスパイと入れ替わり、牢獄に入れられる。重責から解放され、毎日何もしなくても料理が出てくる日々が気に入ってしまった。

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