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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
56/411

2月21日回想 『愚か者1名』その肆

長いと思った? 私も……。

「新人君、また成果を挙げたらしいな」

「もう3年だ、新人じゃねーよ。……えーと、トルネード?」

「トルアド・バックスだ! いい加減覚えろ」


宮廷の広間では、そんな声が響いていた。

騎士になってから3年の月日が経ち、特効部隊の騎士隊長として、カルラは実績を重ねていた。

この日は月の一度の全体会議だった。


広間中央の両開きの扉を開くと、円卓があり、それを取り囲むように背もたれの長い椅子が設けられていた。


「カルラは、こっち。……来て」


先に来ていたニコが隣の席を叩いて、そこに座るように促す。カルラはすたすたと足早に、ニコと反対の席に腰を落ち着けた。

後から入ってきたトルは、その様子を見て茶化し始める。


「座ってやれよ、カルラ」

「そうだよカルラ、座ってやれよ」


ニコも真似してそう言った。


「うるせぇな。ニコの隣に座ると枕にされんだよ」

「カルラの膝は枕にぴったり」

「誰の膝が安眠枕だ。痺れるし、ヨダレが付くんだよ」


不機嫌そうなカルラに、ニコはやれやれと肩をすくめる。


「仕方ないなぁ。ニコの匂い、嗅いでもいいよ?」

「嗅ぐかっ! ……お前の中で、俺はどんな変態なんだよ」

「俺が代わりに座ってやろうか?」

「トルは嫌。加齢臭するから」


温厚なトルも流石に堪えたようで、軽薄な笑顔がやけにひきつっている。


「え、マジ? しねぇよな、な、カルラも嗅いでくれ」

「オッサンの臭いを嗅ぐ趣味はねぇ」


袖を近づけてくるトルを払い除けていると、奥の扉が開き、護衛の騎士と、専属占い師のイグが、白い髭を蓄えた国王と共に現れる。

国王は数の揃っていない円卓を一瞥し、真っ直ぐ前を見据えた。


「これより、会議を始める」

「これだけしか集まってねぇぞ? いいのか?」


今集まっている騎士隊長はたった四人だけで、残り八名の姿はない。これでは会議にならないはずだ。

この場にいる誰もが思ったことだが、カルラの物言いが気に入らなかった護衛の一人が、鋭い目付きで睨む。

近衛部隊長のホネスト・D・ベイダナである。


「カルラ特効部隊長、口を慎め」

「いや、構わん」


国王はそれを諌め、席に座らずに話し始める。


「会議にならんことは承知の上だ。他の者には魔族への大規模計画を任せている」


聞いたことのない話だ。真面目に聞いていなかったから、記憶にないだけかもしれない。

そう思って周りを見ると、ニコもトルもしっくり来ていない様子だった。


「聞いていませんよ、国王」

「秘密裏に進めていた作戦だからな。攻撃部隊も近々作戦に参加してもらう」


トルの言葉を国王が軽く流す。


「そして、今回の作戦の要である、防衛隊長が、昨晩何者かによって殺害された」

「犯人は誰?」


ニコが尋ねると、ホネストは真面目そうに固めて表情に力を込める。


「まだ分かっていない、と偵察部隊から報告を受けている。しかし、変わった武器が見つかっているため、特定は難しくないだろう。分かったか、ニコ狙撃部隊長」


いちいち役職名を付けるのは、ホネスト近衛部隊長の真面目さの現れか、あるいは自分の立ち位置を誇示しているのか。

もう少し興味が持てるのだが、仲良くしたいとは思わない。

国王は淡々と、身につけた赤い衣服を揺らしながら、感慨なく話を進める。


「犯人探しは騎士達に任せて、新しく騎士を任命したい」


このご時世、人が死ぬことは珍しくないが、部下が死んだら悲しむパフォーマンスくらいはして欲しいものだ。


「つまり、俺らは防衛部隊長にふさわしい奴を選出すればいいわけだな? それこそ、他の奴等からも意見を聞くべきだと思うが」

「そうですよ、国王。昨日まで部下だったやつに、いきなり防衛部隊長をやれと言ったら、統率が乱れます」

「背中を任せられない、却下」


口々に不平を口にしていると、ホネストの機嫌がますます悪くなる。


「陛下の考えは絶対だ。信頼出来る者を、今すぐ選任しろ」

「……って、言ってもなぁ」


特効部隊は独断主義者の掃き溜め。だから、部下の中で指揮系統を任せられるような人間はいない。

ニコも同じように答えに迷っているようで、自分から推薦しないことからホネストも同じだろう。唯一トルだけが、意気揚々と意見を述べた。


「じゃ、カルラを推薦します」

「はぁっ!? 俺はもう部隊長じゃねぇか! 二役なんてやってられっか!」

「いいじゃねぇか~。どうせ、特効部隊は独断主義者の掃き溜めなんだからよ」


そんな酷いことを思っていたとは思わなかったぞ、トルティーヤ。

にやにやとした視線が厭らしく、完全にあそんでいるだろうと分かる。

飴玉の包みを取りだして、ニコも気楽そうに、なげやりに足をぶらつかせている。


「いいと思う。カルラ、強いし」

「そうそう。あと、面倒くせぇ部隊の隊長ずっとやれる忍耐力、感服するねぇ」


適当に面倒事を押し付けるつもりらしく、火の粉が移ったと喜んでいるようだった。


「そう言うんなら、お前らやれよ。俺も結構、尊敬してるよ。ほら、えーと、あれとか」

「いや、何かは言えよ。傷つくだろ!」


飴玉を口の中で転がしながら、ニコは天井を見ながら答える。


「私の部隊は連携が命。頼りないから、まだダメ」

「俺のとこも同じようなもんだ。引き際をわきまえねぇ連中ばかりで、命が無駄に消えちまう」


隊長らしい隊長の二人に太刀打ち出来るはずもなかった。部隊長が居なくても回る部隊など、はじめからカルラのところしかなかったのだ。


「決まりだな」

「カルラ特効部隊長よ、今から我が国の防衛部隊の指揮を命ずる。異論は認めない」


人事を介さない異動など、法律が認めるはずがないのだが、法律を作る国に言われたら意味はない。

問答無用に終わった命令に、騎士として、素直に認めるしかない。


「いーやーだー!」

「子供かっ!」


逃げられないようにトルに抑えられながら、カルラは新しい肩書きを受け取った。

トフアド・バックス(42)

所属……攻撃部隊

備考……大きな斧を片手で振り回す猛者。酒と女と涙には弱い。妻帯者。


ホネスト・D・ベイダナ(41)

所属……近衛部隊

備考……何でも大抵は使いこなすが、室内戦闘を想定しているため、短剣の二刀流を扱うことが多い。Dは海賊的なやつではなく、ドーベルマンのこと。

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