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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
55/411

2月20日回想 『愚か者1名』その参

「新しいやつ、入りましたよー」


店の前に出て、一見すると爽やかな笑顔の無表情で、クロはそう言った。

その声に足を止める人影はいなくて、流れる人通りの中では、クロの姿は完全に浮いていた。


不合理なそのやり方に、カルラは後ろから口を挟んだ。


「おい、んなことしてねぇで、売り込みに回った方が早ぇんじゃねぇか?」

「無粋ですね。こういうものは、人の縁を大事にしたいのですよ」


なんとも感情の籠っていない声色。


「単に数作れねぇだけじゃねぇか?」

「それもあります」


……あるのかよ。

三日前からここで働いているが、思っていたよりも仕事は簡単だった。材料を運んで、新商品を試し、暇があれば、いや基本的に暇な時間しかないのだが、そのときは鍛冶仕事を教わっている。


自分でまともな作品を作れば、少し安く買い取れるらしいから、真面目に取り組んでいる。


「あ、奥さん。買っていきませんか?」

「あら、色男ね!」


クロという男は、外見だけ言うなら、見栄えするのだ。だから、このように女性の客が捕まることもある。

しかし、


「奥さんも、厚化粧でとても御綺麗ですよ」


この一言で台無しになる。

怒って立ち去る貴族婦人の背中を見て、クロは首を傾げる。


「急に怒りだして、どうしたのでしょう。カルシウムが足りていないのでしょうか」

「足りてねぇのはお前の頭だよ。なに、化粧誉めてんだよ!」

「初対面で内面を誉めるのはどうかと思いまして」

「嘘でも良いから外面を誉めろ、元からあるもの! このままじゃ稼げねぇだろうがっ!」


この調子だと、給料が貰えなくて時間が掛かってしまう。

クロは理解出来ないという風な表情を浮かべてカルラを見る。


「人間とは、面倒くさい生き物ですね」

「テメーも人間だろ」


何を考えているのか、分からない人だったし、今も理解出来ないことをしていた。

もしかしたら、聡明なことを考えているのかもしれないし、もしかしたら、低俗なことを考えているのかもしれない。


「あ、そこの胸の大きなお姉さん、剣は要りませんか?」

「あんたをメッタ刺しにするものならね」


あるいは両方なのかもしれない。



日が落ち始め、店仕舞いをする。片手でも、腕力だけならクロよりも強いため、足手まといにはならない。


ガッシャンーーー……。


「カルラ、槍を崩してしまったので、手伝だって下さい」

「今までどうやって店をやってきたのか、聞いていいか?」

「構いませんよ。あれは、そう、私が少年だったころ人身売……」

「真に受けんな、これは嫌味だよ、ってか今何言おうとした!?」


カルラは、クロの倒した鉄製の長槍を壁に立て掛ける。

最後の一本を壁に立て掛けたとき、クロは静かに尋ねた。


「貴方こそ、どうやって生きてきたのですか?」

「なんだ嫌みか?」

「いいえ、これは興味です。貴方のような人は幾人も見てきました。しかし、これほど長く続いたのは、貴方だけです」


どうやら、この男が拾ってきたのは、自分だけではないようだ。そんなことをやっているから、儲からないのではないだろうか。

カルラは呆れながら、そっと槍を置いた。


「そいつらに目的がなかっただけだろ」

「目的……ですか? それがあると、人は鍛冶屋を続けるのでしょうか」

「欲しいものがあれば、面倒くさいことも飲み込めるもんだ。空っぽの人間は頑張らねぇし、頑張れねぇ。空虚なもんだ」


それを聞いて、クロは唇に笑みを作る。


「なるほど……。人間は、変わっていますね」

「お前も、かなり変わってるからな?」


軽く握った拳が振り返った拍子に、槍の束に当たり、倒れるそれらを二人は眺めた。

他人のことは言えないか。


1ヶ月後、カルラは帰り支度をしていた。


「おや、行ってしまうのですか? 貴方はずっとここにいるものだと思っていました。寂しいですね」

「恋人みたいなこと言うな、気持ち悪い! ……俺には仕事があるから、武器と治療が終わったら出ていくつもりだったんだ」


カルラは包帯の取れた腕を見せる。

街道には荷馬車が通る明朝で、隠れて帰るには絶好の時間帯であるため、踏ん切りをつけるには好都合だった。

クロは、そんな姿を見て、笑顔を取り繕う。


「宮廷勤めは忙しいですからね」


カルラは一瞬驚き、そして静かに尋ねる。


「知っていたのか?」

「武器には銘を彫るのが原則です。貴方が壊した剣にも、同じように、王国宮廷の印がありましたから」


知られて、どうこうするようなことでもないし、しかし、知られていないはずのことを知られると、何とも奇妙な敗北感がある。


「驚きました。貴方が一般兵だったとは」

「違ぇよ! 騎士だよ!」

「騎士とは、もう少し礼節を重んじるものですよ?」


確かにそうなのだが、口に出されると何とも不愉快である。

クロは楽しそうに、別れを惜しむように大きく笑った。


「冗談です。また来て下さいね」

「当たり前だ。まだお前を越えていない」


別れ等なく、会おうと思えば近くにあるその距離が、酷く遠くに感じた。

戦争が終わったら、騎士なんて面倒なものを止めて、転職でもするとしよう。

再就職先にはコネがある。


カルラは朝焼けの街道に消えていく。

キュクロウド

性格……?

備考……街のおば様達に絶大な人気を誇る店主。正直過ぎることも一部で人気。


カルラ・ピースメーカー

性格……短気

備考……その月の、王都美男ランキング12位に入った。若いって素晴らしいですね by厚化粧


シュラ・トンプソン

性格……真面目

備考……しばらく出番がないヒロイン。町内美女ランキングとペットにしたい選手権で見事1位。

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