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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
54/411

2月19日回想 『愚か者1名』その弐

「これ、新しい着物です。使ってください」

「……」


見回すと、熱のこもった室内はあちらこちらに煤がこびりついていて、日当たりの悪い床をさらに黒く染めていた。

土と汗で汚れた服を脱ぎ、手渡された着物に袖を通す。


「……ッ!」

「腕、折れてますよね。やはり、医者に行くべきでは?」

「違ぇよ……。かすり傷だ」


男の言うとおり、腕は激しく痛み、熱を持っていて、経験から考えると骨折が妥当だ。少なくともヒビは入っているだろう。


「医者にいけないわけがあるのですか?」

「そんなんじゃねぇよ。ただ注射が怖いだけ」

「男の子だから隠すのは結構ですが、もっと他にないのですか?」


男は笑みを浮かべてそう言った。

着替えが終わると、ズボンに着物という、奇怪な格好になったが、この際仕方ない。

カルラは怪我をした腕を手で押さえながら、よろよろと立ち上がる。


「どこに行くのですか?」

「剣を見たい。まともなやつが一本欲しいんだ」

「分かりました。その前に……」


どこからか取り出した木の棒と包帯で、男はカルラの腕を固定する。


「怪我、酷くなっても夢見が悪いですから」

「そりゃどうも。んなことしなくても、俺は死なねぇけどな」

「それは、余計なことをしました」


つまらなそうに、無表情に、男は笑みを作った。

男の先導で廊下を進み、突き当たりの扉の前までたどり着くと、横開きの扉は滑りの悪い音を出しながら開かれた。


そこは小さな倉庫らしく、いくつもの鉄で出来た品々が保管されていた。

その内の、細長い剣を手に取る。


「変わった武器だな。見たことねぇ」

「見聞がありませんね。流行に疎いと女の子に嫌われますよ?」


いや、武器の流行に敏い女とか嫌だけど。

馬鹿にされたカルラは、不機嫌そうに顔をしかめる。それに気づかない様子で、男はその武器について語りだした。


「それはレイピアと言って、刺突に特化した武器です。軽くで柔らかく、鎧の隙間に簡単に入り込むのが強みです」

「結構エグいな、気に入った。いくらだ?」


男が顎に手を添えて、しばらく考え始める。そして、決まったらしく、口を開いた。


「料金ですか。だいたい、30万Gでしょうかね」

「高っけぇな! 純正ミスリルでもねぇだろうが」


純正ミスリルの、細長いだけの剣ならば、おそらく15万ほどだろう。しかし、その二倍はぼったくりとしか思えない。

カルラの怒声に動じる気配もなく、男は感嘆の声を漏らす。


「ええ、鉄を混ぜてあります。よく分かりましたね」

「わざわざ混ぜたのか? 鉄よりも硬い金属に?」

「どんなものでも、硬いだけでは綻び一つですぐに壊れるほどに、酷く脆いものですよ。混ぜれば丁度いいのです」


分かったような、分からないような説明に、カルラは眉間に皺を寄せる。


「金が無いだけじゃねぇのな?」

「まあ、それもありますがね」


……あるのかよ。

こっちも金がないため他人のことは言えない。

中古の失敗作でも買い揃えようと考えていたのだが、こんな店では期待はできないだろう。

それを察したのか、男はカルラを見てこう言った


「うちで、働きませんか?」と。


一瞬、言葉の意味が理解できず、呆気にとられているカルラに、男はさらに続ける。


「お金を持って無さそうですし、私も丁度、人を雇いたいと思っていたのです」

「ちょっと待て! なんで俺が買うことになってんだよ!」

「どうせ、行くところなんてないのでしょう?」


確かにこんな姿を、他の騎士に見られる訳にもいかないから、多くは出歩けない。

かといって、こんなにも胡散臭い男のところで働くのも気が引けた。


「私が怖いのですか?」

「んなわけねぇし! やってやんよ……あっ」

「決まりですね。えーと、何君でしたっけ?」


乗せられてしまったが、仕方ない。何か企んでいるようならば、武器を盗んでトンズラすればいい。

カルラは深く溜め息を吐いた。


「カルラ。あと、どっかの馬鹿を思い出すから君は付けるな」

「分かりました、カルラ。私はキュクロウド、クロとお呼びください」


これが、後に師匠と呼ぶことになる男との、悪質な契約の全てだった。

キュクロウド(当時27)

特技……装飾

備考……武器の製造を主とする鍛冶屋の主で、当人は武器を使えないという欠点を持つ。


カルラ・ピースメーカー(当時15)

特技……戦闘

備考……戦争のため、学校教育制度が破綻していたため、食いぶちを稼ぐために13才で兵に志願する。

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