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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
53/411

2月18日回想 『愚か者1名』その壱

三日ほど過去編です。3話投稿キツい(´・ω・`)

「お前が、新しい騎士隊長か? 随分と悪人面だな」


大きな斧を携えた、甲冑姿の男がそう言って笑う。

声を掛けられた方の男は、騎士というよりは盗賊のような汚れた服装を身につけていて、鋭い目付きで睨んでいた。


「誰、お前?」

「攻撃隊長のトルアト・バックスだよ。仲間の顔くらいおぼえておけ、カルラ・ピースメーカー君。……っておい、無視すんなよ!」


その声を無視して、腰に差した剣を揺らしながら、カルラは王宮の廊下を進んでいく。


まだ十代にも関わらず、幾人もの兵士より優れ、死を恐れず敵陣を突き進むその攻撃性から、特攻隊の隊長を任されることになった。

思い上がっていたのだろう。自分は誰よりも強いと、誰よりも軽薄にそう思って、現実にのぼせていた。


「貴方がカルラ?」

「……イグノラネス、だっけか? 宮廷魔導師の」


図書室と書かれた扉から、イグは測ったようなタイミングで出てきた。あるいは本当に測ったのかもしれないが、その時は何も考えていなかった。


「あら、私のことは知っていたのね。意外だわ」

「宮廷一の魔法使いだからな。知らない方が珍しいだろ」

「トルのことは知らなかったのに?」


聞こえていたのか? 確かに、あいつの声は大きかったが……。

イグは淡々と、口を動かす。


「多少未来が見えるだけの女より、一緒に前線で戦う味方と仲良くしたら?」


実にもっともな正論ではあるが、的を獲てはいない。特攻隊は前線とは違って、チームワークなんてものを重要視しない。

部下達も、カルラの命令を聞くことはない。


「大きなお世話だ。それとも、未来予知でもしてくれたのか?」

「いいえ、女の勘よ。あと、予知ではなく占いよ」


何が違うのやら。

イグは分厚い書物を片手に、何も言わずに、カルラの隣を通りすぎていく。

カルラは鼻をならして、本来の目的である武器庫に向かった。

兵士のときに使っていた剣は錆が付き始めていたから、国が支給しているものを借りようと思っていた。


武器庫の扉を開くと、埃が床の上を流れだす。

王宮では使われる機会がないのか、木箱も樽も腐食が見られ、並べられている武器を手に取るだけでも、ギシギシと心許ない音を鳴らしていた。


「チッ……。仕方ねぇか」


他の物もないため、その中にある自前の剣よりも少し軽い、比較的腐食の少ない剣を手に取る。

そして、それを自分の剣の隣に差した。



宮廷から一時間ほど歩いたころ、暇そうに欠伸をしながら、カルラは街をぶらついていた。

今は魔族からの進行も遅いため、特効の騎士隊長がわざわざ駆り出されることもない。だから、警備と称して出歩いても、誰にも文句を言われない。

騎士隊長の特権だ。


「おら、ミカジメ料払えよ、金物屋。お前以外は全員払ってんだぜ?」


図体のデカい男が、道の真ん中でそう脅していて、カルラは足を止めた。

確かに警備と言ったが、現れてほしい等とは言ってない。

黙って立ち去ろうと、カルラは踵を返した。


「そうは言われましても、うちは最近開いたばかりでお金はありません。どうか、少しばかり待ってはくれませんか」

「払えねぇんなら……こうだ!」


男は、大きな金槌を振りかぶり、体全体を回して降り下ろした。乾いた破裂音が響き。店の壁に穴が空いた。

そして、下品な笑い声を上げる。


「ヒャッハハッ! 俺達【ウィード・リーパー】に逆らうからだ。お前らも見てろよ、俺達は全部奪う」

「わ、分かった。払うから、止めてくれ!」

「遅ぇよっ!」


縋りつく店主を振り払い、男は再び鎚を振り上げた。そして、頭の上に持ち上げた凶器を、真っ直ぐ、店に向かって降り下ろす。


ガキンッ!


金属音がして、鎚は止まる。重い鉄塊を止めたのは、カルラだった。


「なんだ、お前。お前もやられてぇのか?」

「違ぇよ。ちょっと試し切りに付き合ってもらおうと思っただけだ」

「生意気なガキだ。怪我したくなけゃ、そこを退け」


男がカルラに掴み掛かる。その瞬間、カルラは剣を振った。

斜めに切り上げた剣は、男の腹を掠め、空を指して止まる。驚いて男は後ろにのけ反り、数歩後ろで構え直した。


「なにしやがんだ、ガキ!? 殺されてぇのか!」


明らかな動揺を見せる男を前に、カルラは剣をくるりと回し、軽く構えて挑発する。


「おい豚野郎、ダイエットさせてやるよ。そしたら、ブタ箱にぶちこんでやる」

「やってみろやぁあ!」


叫ぶ男は鎚を横に振るい、カルラはそれをしゃがんで避ける。がら空きになった男の腹に近づくと、カルラは回転しながら三回、胸と腹を切りつけた。


血が流れると、周囲から悲鳴が聞こえた。しかし、気にしない。

カルラはさらに斬りかかる。


足を一歩、前に踏み出したとき、死角から石が飛んできた。顔面に命中して、カルラはよろけ、砂埃の入った目で前を見ると、男が鎚を降り下ろしていた。


ガチン。


音がして、頭の上を見る。

咄嗟に持ち上げた剣と腕が辛うじて、鎚の直撃を防いでいたが、剣は折れ、下にあった左腕に当たっていた。


「ぐっ……」

「クソめ。これで止めだ!」


朦朧とする意識で、ふらりと体が横にずれると、足の数センチ横を鎚が砕いた。

ーーー……まだ生きてる。動ける。戦える。

そう思考が動いた瞬間、もう片方の手で、古い方の剣を抜き、男を切り伏せた。


呻き声を上げながら、膝から崩れ落ちた男を見て、カルラも膝をついた。汗が冷たく、風があたると、凍りつくようだ。


周囲を見回す。

悪人を切ったにも関わらず、誰一人称賛の声をあげない。殺したのがダメなのか、あるいは怪我を負ったのがダメなのか。

まあ、いつものことだ。


金物屋らしき男だけが、心配そうに近づいてくる。


「だ、大丈夫かい……? 今すぐ医者を呼んでくるから」

「かすり傷だ、すぐに治る」

「でも……」


戸惑う店主の後ろで、誰かが言った。


「なら、私のところに来ればいい」


機械のように統一された音程が気持ち悪く、不快に思わせる無機物のような、長髪の男が立っていた。

汚れた作務衣と、腰に付けた使い古しの鎚、焦げた臭い。出掛けるような格好ではなく、騒ぎを聞き付けたらしい。


「剣は要りませんか? 新しいやつ、入ったのですよ」


無機質な声の主は近づき、手を差し伸べる。


このまま帰ったら、笑われる。それよりはマシだろう。


そう思って、カルラはその手を取った。

ウィード・リーパー

……王都の闇ギルド。強盗紛いの集金や、違法薬物の売買を行う組織。悪い余所者を排除したり、外国客からの収益に強く影響しているため、国は手出しできない。


騎士団

……王国十二騎士団のこと。十二の部隊に、それぞれに動物を冠した紋章がある。

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