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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
52/411

2月17日雨 『騎士1名』

「新しいの、入ったぞー」

「……かるら?」


呼び掛けに反応した人物は、革の軽装鎧とマフラーに身を包み、棒つきの飴を口の中で転がしながら歩く、一人の女の子だった。

後ろには見慣れない細長い布袋を背負っている。

彼女は気だるそうに半分ほど開かれた瞳で、こちらを真っ直ぐ見ていた。


「ニコ、だな」


少し成長してはいるが、それでも、何度も見た顔だから記憶に残っていた。

ニコは口から飴を取り出し、感動を思わせない無表情で言葉を返した。


「うん。君は相変わらずカルラっぽいね」

「お前は相変わらず適当だな。もっと、イケメンとか、格好いいとか、coolとかねぇのか? 語彙力を振り絞れー」

「カルラにそんな力出したくない。1文字未満の言葉にして」


それはつまり無言だね。その状態を保てるほど親しくない。

異変を感じたようで、中からシュラも顔を出す。慣れない間取りでぶつかりそうになりながらも、カルラの横まで歩み寄る。


「えと、お客さんですか?」

「知り合いだ。ニコ・スタイナースっていう、この国の騎士だ」

「へぇ、凄い方とお知り合いだったのですね」


感心しているシュラに、ニコは飴を舐めながら、興味深そうな視線をしきりに送る。そして、何を思ったのか脇に手を差し込んで、シュラを持ち上げた。


「え、ちょっ、何をなさるのですかっ!?」


突然のことに慌てふためくシュラだったが、体力がなくて抵抗出来ないでいる。

そして、ニコは呟いた。


「カルラ、子供できたの? 誰の子? ニコ?」

「産んだ覚えでもあるのか? そいつは俺の弟子だ、ガキのじゃねぇよ」

「へぇ、カルラに甲斐性が出来たのかと思った」


そう言って、シュラの体をそっと地面に下ろした。怯えた様子でカルラの後ろに隠れるシュラを見て、ニコは首を傾げた。


「もしかして、恋人なの?」

「おい、どうしたらそうなんだよ。お前の頭は宇宙にでも繋がってんのか?」

「だって、いつも独りだったのに……」


確かに、ニコと顔を会わせていたときは、特に誰かと一緒に行動した記憶はない。

それなりに、自分なりの理由を持っていたはずではあるのだが、明確なものではなく、周囲から良いようには見られていなかったように思う。

俺は、あのときよりは、マシになっているのだろう。


「あんときは思春期だっただけ。それを過ぎたら適当に、甘えながら生きてるだけだ。シュラが居ると助かるから、側に置いているだけだ」

「変わったよね。今、楽しい?」


足元に居るシュラを見て、カルラは小さく笑った。


「……まあな」


何かを確かめるように、数秒カルラの目を見てから、ニコは懐かしそうに目を細める。


「いいなぁ、ニコもそうなりたかった」

「ん?」

「あんなにアプローチしたのに~」


何を言っているのかと思ったが、ニコがやたら嫌がらせをしてきたことがあったから、そのことだろう。

カルラは深く溜め息をつく。


「それはお前が……イデテテテッ! ちょ、シュラ、強すぎだ」

「気のせいです。気のせいなのです……」

「どうした、なんで怒ってんだ!?」


その様子を見て、ニコはくすりと笑い声をあげる。


「冗談。君は分かりやすくて可愛いね」

「そ、そんな、からかわないで下さい!」


頬を染めて、シュラは目線を斜め下に反らす。ニコが覗き込むと逃げるため、今度はカルラの方を向いた。


「カルラ、鍛冶屋してるんでしょ?」

「そうだな。なんだ、欲しいもんでもあるのか?」

「これ、調整して」


そう言って、背中の袋を下ろし、中のものを取り出した。見たところ、その構造から察するに、それは銃だった。

以前も似たような武器を使っていたが、それとは一線を画していた。


「随分と長いな。これが銃か?」

「狙撃用の、五百メートル先から撃てる銃。飛距離を伸ばして欲しいの」

「軍御用達のじゃダメなのか?」

「カルラがいい」


銃をカルラの体に押し付けて、ニコは上目遣いでそう言った。そういえば、いつもこんなふうに頼まれていたことも思い出した。

便利屋とでも思われているのかもしれない。


「構わねぇよ。だが、飛距離が落ちても弁償しねぇからな」


大事なものであろうに、そんなものを渡すのだから、それなりに、こいつなりに真剣なのだろう。

ニコは分かりづらく、無表情の上に僅かな笑みを浮かべた。


「ありがと。またね」


軽くなった体を跳ねさせて、ニコは王都のどこかに走って行った。

受け取りの日程も聞かずに行ったが、大丈夫なのだろうか。

呆れながら銃を眺めるカルラに、不機嫌そうにむくれるシュラが言った。


「随分、親しいのですね」

「まあな。色々あったんだよ」


素っ気ない反応に、シュラはさらに不機嫌になる。


「恋人だったのですか?」

「違ぇよ」

「では、どんな関係なのですか?」


言いたくなさそうに奥歯を噛んでから、深い呼吸のあとで答えた。


「……同僚だ」

「同僚って、国の騎士さんとですか?」

「城の騎士で、防衛隊長をしていた。イグやニコとは、そんときの仲間だったんだ」


しばらく驚いてから、シュラは瞳を輝かせる。


「凄いです! カルラさん、そんなに凄い方だったのですね」


そう言われ、カルラは困ったように眉を落とし、眉間に皺を寄せる。

確かに、一般的には凄いことで、名誉ある経歴でもあるのだが、あるいは逆に、どうして、どのようにしてその栄誉ある称号を手放したのか、そんなことも語らねばならない。


何故なら、師からの手紙には、カルラが残した過去が関わっているのだから。

ニコ・スタイナース(19)

特技……狙撃

備考……王国十二騎士団の狙撃部隊隊長。甘党で甘えん坊。寂しいと死んでしまうらしい。

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