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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
51/411

2月16日雨 『おつかい1名』

「新しい笠、作っときゃ良かったなぁ」


雨粒は、瓦屋根にぶつかって弾け飛び、神社の境内を賑やかす。しかし、カルラの顔に、その音を聞いて楽しむ余裕はない。

壊れた笠を膝の上に置いて、どうしたものかと境内に腰をかけて、空を眺めている。


「のう、お主」


年寄りめいた子供の声が聞こえ、ふと真横を見るとすぐそこに、耳と尻尾が生えた銀髪の少女が、いつの間にやら隣で座っていたらしい。

軽そうな白い浴衣を、ふらりと揺らし、蛇のような怪しい笑みを浮かべる。


「お主、悩みがあるのだろ? わしには分かるぞ」

「そうかい、勝手に言ってろ。俺は今、お前に構ってる気分じゃねぇの」

「どうせ、失恋でもしたのだろ。だってこんなに目付き悪んにゅうっ!?」


思わず手が出て、カルラは少女の両頬を片手で掴んで黙らせた。驚いて振りほどき、少女は憤慨する。


「やっ、やめい! おなごの体に容易く触るとは何事か!」

「るっせぇ! オメーこそ、何勝手に男心に触れてんの? 結構、傷付いたじゃねぇか!」


他人のコンプレックスを笑ってはいけません。トラウマを植え付けられたくはないだろう。


「ではなんじゃ、お主は何を悩んでおるのじゃ?」

「ガキに分かるような悩みじゃねーの。もっと大人の複雑な悩みなの」

「どうせ、雨が止まない、とかその辺じゃろう」

「……違ぇよ」


当たりです。


「その壊れた笠を見れば誰にでも分かるわい。家は遠いのか?」

「……まあな。これから行くところもあるし、濡れて走るわけにも行かない。お前こそ、近くねぇのか?」

「近くて遠い場所にあるのじゃ」


なんだそれ。

しかし、子供の言うことだと思い、その時はその言葉を飲み込んで、その時間を閉じた。

雨足は早くなるばかりで、止む気配もない。時間も差し迫ってきたから、カルラは重い腰を持ち上げる。


「どうした?」

「ん、諦めて帰ろうかとな。もう止まないだろうし」

「ふむ、そうか。人間の時間は短いものな。仕方ないか」


一人納得したように頷いて、少女は軽く立ち上がり、丸い尻尾をくるりと一周させた。


「その気になれば、わしは雨を止ませられるのだが、どうする?」

「とりあえず、病院にでも連れていくか。今なら腕利きの毒……薬剤師が居るからな」

「なにやら物騒な病院じゃな、救う気が見えん」


嘆くように溜め息を付いて、少女は困ったものを見るように目を細める。


「そういうことではなく、本当に空を晴らすことが出来たらの話じゃ。助けを請うか、弱味を見せないか」

「嫌な言い方だな。もしそうなら、やってもらいたいもんだよ」

「では、交渉じゃ。その笠をくれたのなら、今日だけ雨を止めてやろうではないか」


少女は天高く指を指し示し、くぐ漏らすような笑い声を上げる。


「そんなんでいいのか?」

「まあよいのじゃ。久々の客だった。楽しかった。その礼とでも思っておけ」


久々の客? ここに住んでいるのだろうか。


「では、行くぞ」


少女はなにやら儀式めいた動きで、パンッパンッと二回手を叩く。そして、口元で呪文らしき言葉を唱えると、空を数回払う動作をした。


すると、不思議なことに、雨が止んで、雲間から光が溢れてくる。


「本当に晴らしやがった……。お前ーーー」


視線を向けると、少女の影はすでになく、持ってきた笠も無くなっていた。

残されているものと言えば、地面に出来た水鏡のみ。


ミタマ神社には狐が出る。そんな噂を聞くのは、もう少しあとのこと。

ミタマ

特徴……銀髪と獣耳と尻尾。

備考……最近、私のなかで狐が流行っている! そんな理由で作ったキャラで、参考イメージはYouTubeに出てたドラマCDのサムネと口調。

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