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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.2~
50/411

2月15日曇り 『兄妹一組』

「新しいの、入ったぞー」

「カルラじゃないか」


いかにも残念だ、というような言葉遣いにカルラは視線を向けると、真面目にしかめた男の顔が目に写る。

私服姿のユバスが腕を組んで立っていた。

王都で働いているとは聞いていたが、まさかここで会うとは思わなかった。あと、会いたくはなかった。


「ついに町から追い出されたのか? 金なら貸さないぞ」

「テメーに借りるもんはねぇよ。ていうか、医者なのに随分と暇そうじゃあねぇか。暴力でとうとうクビになったか?」


そう言うと、ユバスは鼻を鳴らして得意気な笑みを浮かべる。


「貴様と一緒にするな。今日は非番で、妹にこの町を案内しているんだ」


妹……?

その単語に、カルラは全力の警戒体制に入る。まだ鍛冶屋の防衛システムが完成していないため、毒ガスによる攻撃に対処する術がない。

最後の手段として残してある、鎚を握る手に力が入る。


「お兄様、こっちに居たのね! 迷子になったかもって心配したんだから!」


向こうから走ってきた人物は、幸いなことに、安全かつ無害なテウスの方だった。

明らかにテウスが迷子だと思うのだが、ユバスは申し訳なさそうに謝る。


「悪かった。次からは手を繋いで歩こう」


エイルの時もさることながら、ユバスは妹に甘いな。俺にもその甘さで接して……いや、気持ち悪いからいいや。


「あれ、鍛冶屋さん? なんでここにいるの?」


その質問の瞬間、ユバスの腕がカルラの衣服を掴んだ。そして、鼻先まで顔を近づけると、怒りの形相でこちらを睨んでくる。


「貴様、僕の妹全員と関わっているな、どういうつもりだ?」

「全員って、二人だけじゃねぇか! あと、二人とも勝手に関わったてきたからな」


片方は毒を盛るために、もう片方は言い掛かりをつけに。……ろくな兄妹じゃないな、何で関わってんだろ。

一人反省をしていると、何かを勘違いしたらしき、ぶっ飛んだ兄貴の手に力が入る。


「言っておくが、求婚したところで邪魔してやるからな。僕が認めない男と結婚することは許さん!」

「しねぇよ! 仮にしたとしても、テメー程度軽くぶっ倒してやるし!」

「なんだとーっ!?」


暴走しているユバスを止めるには、妹の言葉が効果的だ。助けを求めて、テウスに視線を送る。

テウスもそれを理解したように、大きく頷いた。


「ヤメテ、ワタシのためにアラソワナイデ!」


違う、そうじゃない。

やはりアホの子だった。

しかし、どうしたものか。このまま乱闘になっても別に構わないのだが、近隣の建物が壊れるかもしれない。


そんなことを考えていると、買い物袋を下げた女が現れる。


「あれぇ? 鍛冶屋さん、こんなところで何をぉ?」

「え……? なんで、こいつも居んの?」


禍々しい動植物が詰め込まれた袋を抱えていたのは、薬剤師のエイルだった。


「誰も、テウスだけとは言ってないし、会わないのなら教えたくなかっただけだ。まさか……、エイルとも!?」


やむを得ず、拳を握ったところで、エイルが低い声でこう言った。


「兄さん、ご迷惑になるでしょうぅ。早く、迅速に、その人を切るために付けた両手を退かしなさい」

「いや、こいつが……」

「早くっ!」

「わ、分かった……」


叱られて肩を落とす兄貴の後ろで、カルラは異様な状況に怯えている。それを見て、エイルは楽しげに目配せをした。

これは特に、迷惑かけてゴメンねとか、これからも頑張ってねとかではなく、あとで実験させてねとか、ジャックとの間を取り持たねば殺すという意味であるため、少しも笑えはしない。

これほど嬉しくない女性の動作も珍しい。


とはいえ、危機は去った。困った兄妹は商店街に消えていき、ようやく平穏らしい平穏が訪れた。


心労でしゃがみこむと、足元に誰かの影が落ちる。驚いて見上げると、いつもの優しく愛らしい弟子が居た。


「どうなさったのですか? とても疲れたようーーーなっ!?」


覆い被さるように抱きつくと、シュラは慌てふためく。


「俺には、お前だけだ……」

「な、何があったのですかっ!?」


まともな奴は基本シュラだけ。そんな意味なのだが、ロリコン鍛冶屋の噂が出来る条件には整っていた。

ユバス・レ・マット

特技……拳闘技

備考……女性に弱いわけでも、子供に弱いわけでもないが、妹に弱い。シスコン。


テウス・レ・マット

特技……歌

備考……最近、どろどろの昼ドラを観ている。成績が下がった。


エイル・レ・マット

特技……躾

備考……ジャックと話せたため、最近は上機嫌。また、兄と話すときは機嫌が悪くなる。

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