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カジヤノキヤクビト  作者: No.
工房日誌 2017.1~
5/411

1月3日雪『雪だるま一組』

「新しいの、はいっクシュンッ!」

「大丈夫ですか?」

「ズズッ……。ああ」


 鼻をすすりながら、カルラは前方に広がる景色を眩しそうに目を細めて眺める。


「積もりましたね」


 積雪15cm。北国でもないこの町では、これほどまでに雪が積もることも珍しく、カルラ自身も十年ぶりに見た光景だった。

 町の人達はこぞって自宅に引きこもるか、そうでなければ雪掻きで忙しそうに働いている。


「今日は誰も来そうにないな」

「そうですね」


 店内に戻ろうとするカルラだったが、ふと後ろを見る。


「ん、入らないのか?」


 ボーッと店先で立ち尽くすシュラに尋ねる。すると、曖昧な笑みを顔一杯に取り繕って返される。


「……はい。私の故郷では見たことがなかったもので」

「そういえば、聞いたことが無かったな。お前の実家って、どこなんだ?」


 キュッと、悲しそうにシュラは唇を結び、少し悲しそうに答えた。


「遠い、ずっと遠くにある森の村です。地図にも乗っていないので、カルラさんも知らないと思います」

「…………そうか」


 今はまだ、聞いてはいけないのだろう。

 カルラはまた、店の奥の暖かい工房へと向かった。


 シュラは故郷を思いながら、冷たくなった手を擦る。そのとき、頭の上から何かが覆い被さるように乗っかった。


「寒みーだろ。これを着ていろ」

「これは……」


 赤い布地に、羽毛が敷き詰められた柔らかな着物を両手に、シュラは驚いた様子でそれを見つめている。


「冬前に買っておいた安い上着だ。これは手袋」


 赤い毛糸の手袋を手渡すカルラも、青色の色違いを身に付けていた。

 思いがけない気遣いに、シュラも笑みを溢す。


「ありがとうございます」


 二人は雪を慣らすように、地面を踏みしめて歩き、十数歩進んだところでカルラが膝をついて地面を掻いた。


「何をなさっているのですか?」

「お前は知らないだろうから、教えてやる。雪の使い方ってやつをな」


 そう言って、手に掴んだ雪を丸めて、地面に転がす。すると、少しずつ雪玉はその大きさを増していく。


「これで2つの玉を作って、頭と動体にするんだ」

「分かりました!」


 子供のように雪玉を転がす二人の足跡は、まるで道のように雪原を削っていく。時間が経つのも忘れて、店の前まで戻る頃には二人とも鼻を赤くしていた。


「じゃあ、乗せるか」

「私が弟子なので、私が下になります」

「そうか? じゃあ、俺は上……乗るか、これ?」


 鍛冶仕事で鍛えた腕で、雪玉を重ねると、比率3:1の不格好な雪だるまが完成する。

 鉄屑で顔を作り、二人は満足げに眺めていると、一陣の風が吹いた。


「「くしゅん」」


 体を震わせて、鼻を垂らした顔を見合わせる。


「帰るぞ」

「そうですね」


 暖かい釜戸へと足を運ぶ。

 鉄屑雪だるまは、それを嬉しそうに見送った。



雪だるま(1日)

好きな食べ物……人肉

備考……人間の邪なる心から誕生した精霊が、雪に混じり降りてきた姿。いつの日か、世界征服を遂げる夢を抱いている。










情報提供者「宿屋の主人」

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