1月3日雪『雪だるま一組』
「新しいの、はいっクシュンッ!」
「大丈夫ですか?」
「ズズッ……。ああ」
鼻をすすりながら、カルラは前方に広がる景色を眩しそうに目を細めて眺める。
「積もりましたね」
積雪15cm。北国でもないこの町では、これほどまでに雪が積もることも珍しく、カルラ自身も十年ぶりに見た光景だった。
町の人達はこぞって自宅に引きこもるか、そうでなければ雪掻きで忙しそうに働いている。
「今日は誰も来そうにないな」
「そうですね」
店内に戻ろうとするカルラだったが、ふと後ろを見る。
「ん、入らないのか?」
ボーッと店先で立ち尽くすシュラに尋ねる。すると、曖昧な笑みを顔一杯に取り繕って返される。
「……はい。私の故郷では見たことがなかったもので」
「そういえば、聞いたことが無かったな。お前の実家って、どこなんだ?」
キュッと、悲しそうにシュラは唇を結び、少し悲しそうに答えた。
「遠い、ずっと遠くにある森の村です。地図にも乗っていないので、カルラさんも知らないと思います」
「…………そうか」
今はまだ、聞いてはいけないのだろう。
カルラはまた、店の奥の暖かい工房へと向かった。
シュラは故郷を思いながら、冷たくなった手を擦る。そのとき、頭の上から何かが覆い被さるように乗っかった。
「寒みーだろ。これを着ていろ」
「これは……」
赤い布地に、羽毛が敷き詰められた柔らかな着物を両手に、シュラは驚いた様子でそれを見つめている。
「冬前に買っておいた安い上着だ。これは手袋」
赤い毛糸の手袋を手渡すカルラも、青色の色違いを身に付けていた。
思いがけない気遣いに、シュラも笑みを溢す。
「ありがとうございます」
二人は雪を慣らすように、地面を踏みしめて歩き、十数歩進んだところでカルラが膝をついて地面を掻いた。
「何をなさっているのですか?」
「お前は知らないだろうから、教えてやる。雪の使い方ってやつをな」
そう言って、手に掴んだ雪を丸めて、地面に転がす。すると、少しずつ雪玉はその大きさを増していく。
「これで2つの玉を作って、頭と動体にするんだ」
「分かりました!」
子供のように雪玉を転がす二人の足跡は、まるで道のように雪原を削っていく。時間が経つのも忘れて、店の前まで戻る頃には二人とも鼻を赤くしていた。
「じゃあ、乗せるか」
「私が弟子なので、私が下になります」
「そうか? じゃあ、俺は上……乗るか、これ?」
鍛冶仕事で鍛えた腕で、雪玉を重ねると、比率3:1の不格好な雪だるまが完成する。
鉄屑で顔を作り、二人は満足げに眺めていると、一陣の風が吹いた。
「「くしゅん」」
体を震わせて、鼻を垂らした顔を見合わせる。
「帰るぞ」
「そうですね」
暖かい釜戸へと足を運ぶ。
鉄屑雪だるまは、それを嬉しそうに見送った。
雪だるま(1日)
好きな食べ物……人肉
備考……人間の邪なる心から誕生した精霊が、雪に混じり降りてきた姿。いつの日か、世界征服を遂げる夢を抱いている。
情報提供者「宿屋の主人」